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白ゆき姫殺人事件

2014年10月07日 11時45分39秒 | 邦画2014年

 ◎白ゆき姫殺人事件(2014年 日本 126分)

 staff 原作/湊かなえ『白ゆき姫殺人事件』 監督/中村義洋

    脚本/林民夫 撮影/小林元 美術/西村貴志

    音楽/安川午朗 劇中曲/芹沢ブラザーズ『All alone in the world』

 cast 井上真央 綾野剛 蓮佛美沙子 菜々緒 貫地谷しほり 谷村美月 生瀬勝久 染谷将太

 

 ◎赤毛のアンの現代信州版?

 いやまあ、ぼくだってろくな人間じゃないし、けっこう好き勝手なこといってるから、他人のことはあれこれといえない。だから、井上真央の演じる主役のOLのように、周りから勘違いされやすく内向的な女の子がいて、しかも殺人事件の重要参考人になりかけてたりすれば、悪意があろうとなかろうとそれが縁もゆかりもない人間であれば、blogやTwitterに載せないまでも知り合いと話をしたとき話題にして「あの女、とんでもないな。ああいうじめっとした陰気な奴って人殺すんだよ、たいがい」とかなんとか、なんの根拠もない、ものすごく好い加減なことを口走っちゃうだろう。

 でも実は、単に内向的で人付き合いが苦手でついつい疎外されちゃう性向の人間は、めったに人は殺さない。

 人を殺す動機になるのは、劣等感であることが少なくない。あいつよりも勉強ができない、仕事がまずい、財産がない、異性にもてないとかいった、たいがい、自分の努力のなさを棚に上げて、ひがみの対象になってる人間を殺す。

 ところが、この真央ちゃんの場合、劣等感はどこまであったんだろね。

 自分の惨めさはときおり感じてるかもしれないんだけど、この子は他人を恨むよりも自分のふがいなさを悲しむ性質で、他人に対して暴力的な態度が取れないから苦しんでいるわけだから、とてもではないけれど、人は殺せないはずだ。なのに、誰にも庇われることなく、一方的に追い込まれてゆく。この否応なく追い込まれてゆく過程は、犯人の策略や悪意ばかりではなく、きわめて現代的な、一億総似非批評家による追い込まれ方なんだろね。

 タイトルが浮かび上がってくるtweetの画面は凝ってて、いかにも現代の映画の冒頭で、なるほど、こういう展開の仕方っていうか導入もあるんだねって感じなんだけど、どうしても、サスペンス作品の性質上、物語が進むに従って視点がいくつかに分散しなければならないから、感情的にぐぐっと入り込めないのかもしれないね。

 ただまあ、真央ちゃんをはじめ皆さん結構がんばってたし、綾野剛のどうしようもなくありがちなチンピラ業界人ぶりが妙にリアルだったし、ワイドショーのVTRもよくできてたし、物語の構成っていうか脚本がしっかりできてた。けど、真央ちゃんが芹澤兄弟を突き落としちゃう件りは、もうちょっとなんとかならなかったかなって気もしないではない。むろん、ないものねだりだ。それほど上手に、作られてた。そうおもっていいんじゃないかしら。

 いや実際、ぼくたちは、なんとも頭の悪い犯人の「自分のしてきた小さな悪戯まじりの盗みが会社に知られたら困るから」という、どうしようもなく中途半端で自分勝手で社会性の乏しい子供じみた動機を「ほんと、今の連中はこんなもんだよ」と感じるし、ネットの抱えている極めて物見高く無責任な発信について「まじに困ったもんだとはおもうんだけど、こればかりはもう止められないんだよな~」ともおもうしかないんだよね。

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