◎記憶探偵と鍵のかかった少女(2014年 アメリカ、スペイン 99分)
原題 Mindscape
米題 Anna
staff 原作/マーサ・ホームズ、ガイ・ホームズ『Mindscape』
監督/ホルヘ・ドラド 脚本/ガイ・ホームズ
撮影/オスカル・ファウラ 美術/アラン・バイネ
衣裳デザイン/クララ・ビルバオ 音楽/ルーカス・ヴィダール
cast マーク・ストロング タイッサ・ファーミガ ノア・テイラー ブライアン・コックス
◎記憶に潜入
これは、気がつかなかった。
記憶や思い出というものは、過去の事実とは異なるもので、主観が介在する。
つまりは、夢に近い。
ただ、夢は奇想天外なことが起こってもなんらふしぎはないのだが、
記憶はあくまでも現実を土台にしている。
だから、きわめて事実か懸想現実かの見分けがつきにくい。
マーク・ストロングはそうした記憶にのみ潜入することができる。
潜入する先は、拒食症の少女タイッサ・ファーミガの脳内だ。
これはいってみれば自意識と自意識の戦いでもあるわけで、
潜入する側は常に敵地での戦いを強いられることになる。
要するに、圧倒的に不利だ。
敵の城へ潜入して敵を制圧しなければならないというのは、きつい。
マーク・ストロングがしなければならないことは、事実の確認だ。
タイッサ・ファーミガの継父が母親の財産を狙っているのは事実か、
若い家政婦と次々に関係を持っているのは事実か、
邪魔な娘を神経症として病院送りにしようとしているのは事実か、
タイッサ・ファーミガの寮生活で、同室の女の子が先輩らに毒を盛ったのは事実か、
さらには、
マーク・ストロングの上司ブライアン・コックスが、
タイッサ・ファーミガを窮地に追い込もうとしている真犯人だというのは事実なのか、
それらを確認するとともに、
記憶に潜入してから見え隠れし始める黒服の男はいったい何者なのか、
ということまで解明しなければならないのだから、これは緊張する。
しかも、
マーク・ストロングは妻の自殺によって、神経を恐ろしく痛めつけられており、
今もって療養の身であるというハンディまである。
にもかかわらず、
マーク・ストロングは他者の記憶が真実か否かをたしかめるために、
現在を生きている現実世界の人物たちの証言も求めてゆかねばならない。
もう、記憶と事実の絡まり、かつ矛盾しあった世界の中を、
まさにさまよいつづけるわけで、観ている方としてもけっこう翻弄される。
いや~ひさびさにおもしろい映画を観たわ~。