◇D坂の殺人事件(1998年 日本 90分)
staff 原作/江戸川乱歩『D坂の殺人事件』『心理試験』
監督/実相寺昭雄 脚色/薩川昭夫 撮影/中堀正夫
美術/池谷仙克 劇中画/前田寿安 緊縛指導/早川佳克
衣裳/古藤博、増田和子 音楽/池辺晋一郎
cast 真田広之 嶋田久作 岸部一徳 六平直政 寺田農 堀内正美 東野英心 原知佐子
◇大正13年、東京市文京区本郷駒込林町団子坂
『それは九月初旬のある蒸し暑い晩のことであった』
というのが、原作『D坂の殺人事件』の出だしだ。
物語の骨格はほぼ『D坂』のそれに近い。
ところが、登場してくる蕗屋清一郎は『心理試験』の主人公の名だ。
つまり『D坂』の骨組みに『心理試験』が織り込まれてるんだね。
まあ、中身については、
なんとなく『怪奇大作戦』の『呪いの壺』をおもいだしちゃったりしたんだけど、
出だしの紙のジオラマは、
人形作家石塚公昭の「団子坂の三人書房」ほどには精緻ではないものの
映画は絵空事なのだという前提をあらわしているみたいで、
予算の乏しさを実相寺風に切り返したんだって感じがして好感が持てる。
それと、
吉行由実のいかにも淫靡な雰囲気と日本的な顔とは、
なんとなく官能的なししおきとほどよく合ってて、
なんとも猟奇的な仕上がりになってる気もした。
乱歩の世界でもあり、実相寺の世界でもあるように感じられたしね。
とはいえ、中学生のときに乱歩に耽溺していたぼくとしては、
やっぱり、原作に沿ってほしかったっていう気持ちもないことはないんだけど、
そこはそれ、ぼくには映画は監督の世界でいいっていう持論もあるし、
なんともいえないところだ。
ところで、
もう乱歩を読まなくなって30年くらい経つんだけど、
中学当時、ぼくはむさぼるように乱歩を読んでた。
こまっしゃくれていたとはいえ、所詮がきんちょだったから、
乱歩の妖しい魅力のほんのかけらしかわからなかったはずなんだけど、
それでもなんとなく匂ってくる独特の世界に、ぼくは引き込まれてた。
もちろん、当時は女体なんぞ見たこともないし、
嗜虐趣味についてはまるで知らなかった。
そんな中学生すらも誘い込んでしまったんだから、やっぱり乱歩は凄い。
でも、人間、日々の生活をおくっていると、
懐かしい物との邂逅はほとんどなくなってしまう。
せっせとためた江戸川乱歩全集も実家で埃をかぶったままだし、
いったいいつになったら、
乱歩三昧の日々を送れるんだろね。
そんな日は来るのかな~とおもいながら、
せめて乱歩原作の映画くらいは見ていたいとおもうんだよな~。