◎アンノウン(2011年 アメリカ、ドイツ 113分)
原題 Unknown
監督 ジャウム・コレット=セラ
◎リーアム・ニーソンの「おれは誰だ」
物語を作る者なら誰でも一度や二度は「ぼくは誰だ?」という出だしを書いたことがあるんじゃないか?
それほどポピュラーになってるアイデンティティの肯定あるいは捜索すなわち自分探しの物語なんだけど、これを哲学的な物語にするのか、あるいはエンターテインメントにまとめるのかという方向で、すべてがちがってくる。もちろん、サスペンスの得意なジャウム・コレット=セラが演出すれば当然、こうした探偵活劇になるだろう。
現実世界の探偵物はどうしたところで納得のゆく結末というかトリックの解明が求められる。また、それが納得のゆくものであるのは当然だし、まんまと観客をだましていたりしたら喝采を受けられる。さて、この作品はどうかといえば、途中まで見事なものだった。ていうより、大丈夫かこれだけ徹底して謎めかしちゃってもと心配すらした。つまりは、それだけ物語に惹き込まれたわけだから、いや、たいしたもんだ。
ただまあ、車の運転が抜群だったり、格闘の心得が明らかにあったり、咄嗟の判断と推理の速さが出てくれば、当然、リーアム・ニーソンが只者じゃないことはうすうす感じ取れるし、奥さんのジャニュアリー・ジョーンズをはじめすべての関係者がなにもかも承知の上でニーソンを抹殺しようとしているのもわかるし、さらには東ドイツの秘密警察シュタージの腕っこきだったブルーノ・ガンツとかが出てきちゃったりすれば、これは暗殺者や間諜の入り乱れるずいぶんと硬派な展開になるなとわかってくる。こうした観客に謎解きさせる筋立てはよいね。これはこういうことなんだっていきなり突きつけられるのは好きじゃないし。
ま、ハリウッド作品よろしく派手な格闘と爆発はあるものの、ボスニアの不法移民になってるダイアン・クルーガーとの恋もあったりして満腹感は充分にあった。