☆おとなの事情(2016年 イタリア 96分)
原題 Perfetti sconosciuti
英題 Perfect strangers
監督 パオロ・ジェノベーゼ
出演 カシア・スムトゥアニク、アルバ・ロルヴァケル、アンナ・フォリエッタ、ジュゼッペ・バッティストン
☆だから携帯は見ちゃいけないんだ
誰しもが大なり小なり秘密はあるというのは作品中のマルコ・ジャリーニの話だが、この娘の初デートにコンドームを渡して娘のソフィア(美人だな)から「彼氏の家に泊まったものかどうか」と電話で訊ねられるいかにも物わかりのよい父親にもたぶん大小わからないが秘密はあるだろう。だから妻カシア・スムトゥアニクが豊胸手術を受けようとしてもその理由を聞こうともしないし、カシア・スムトゥアニクが新しいピアスをしていることは気づいているし、それが親友のエドアルド・レオからプレゼントされたものでふたりが不倫していることもうすうす感づいているんだろうけど、でも問い詰めないのは自分にもやましいところがあるからかもしれないがともかく少なくとも携帯に秘密はない。
この物語のひきがねになってるのはカシア・スムトゥアニクで、彼女はエドアルド・レオと不倫しているんだけれども、心のどこかで疑いを持ってる。だから携帯ゲームをしようといいだす。案の定、エドアルド・レオはアルバ・ロルヴァケルと新婚でありながらタクシー会社の配車係モニカと浮気をしている。モニカは妊娠しちゃってるし、もうどうしようもないんだが、ただひとつ、ホモは徹底してその全存在を否定したいくらいに嫌いだ。だからヴァレリオ・マスタンドレアがホモかと勘違いしたとき、血管がぶちきれるくらい怒る。
けどヴァレリオ・マスタンドレアには理由があって、ジュゼッペ・バッティストンと携帯をとりかえた。たまたまおんなじ携帯だったのが仇になったんだけど、ジュゼッペ・バッティストンは浮気をしていて相手の女がたぶんふたりで撮った超変態的な写メを送ってきたんだろう、それを妻のアンナ・フォリエッタに知られたくないから交換した。結果、みんなはジュゼッペ・バッティストンのところへ変態写メが送られたとおもいこむんだが、ところが、ジュゼッペ・バッティストンのホモの相手から電話がある。もちろんみんなはヴァレリオ・マスタンドレアのところへホモだちから掛かってきたと信じるし、だからエドアルド・レオは怒ったわけだけれども、それ以上にアンナ・フォリエッタが怒り狂うのはまあ当然といえば当然だ。
ところがアンナ・フォリエッタはこのときノーパンなんだよね。なぜって、SNSで知り合った顔を合わせたことのないネット不倫の相手にパンティを脱いでいろと命令されたからだ。そういう変態行為に興奮する中年女なのだという設定なんだけれども、それでもやはり妻としては夫がホモだったとおもったら怒髪冠を衝くわけだね。
そこへいくとアルバ・ロルヴァケルなんかは可愛いもんで、昔の彼氏から「やりたい」とメールが入っても、それをちゃんと勘違いなんだと説明できる。もちろん、そういう心の弱すぎる元カレとたとえエッチはもうしていないにしても連絡は取り合っててとどのつまり切れてないってことは立証されちゃうわけだけれども。
だから誰でも大なり小なり秘密はあるってことになるわけだけど、結局、ホモであることをカミング・アウトしたジュゼッペ・バッティストンがいちばんまともな生き方をしてたんじゃないのかってことになってくる。ゆいいつホモであるのを隠してはいたけど、それは誰にも迷惑をかけることでもないし、単に本人の問題だし、ホモであるがゆえの苦しみももう充分に背負ってきたし味わってきた。だから、ジュゼッペ・バッティストンは強いんだな。
ただ、最初の30分くらいまではチョーかったるい。話は始まらないし、いやたしかに伏線を張ってるんだなってこともわかるし、7人の主要人物について説明もしなくちゃいけないしで、いろいろあるのはよくわかるんだけど、とにかくだるい。あくびは出るし、観る気がだんだん失せてくる。でも、それからあとはひたすらおもしろい。
まったく携帯というのはパンドラの匣だね。開いたらいけないんだ。でもそれは誰しもが同じで、現代人というのはそういう文明の利器を手にしちゃったんだね。むかしは日記だった。日記は誰にも見せたらいけないもので、自分でもおもってもみなかったような目をそむけたくなるくらい醜い自分がそこにいたりする。それが今では携帯になっちゃってる。難しいところだけど、やっぱり観たらあかんのよ。親の携帯も、子の携帯も、相手の携帯も。けど、パンドラの匣よろしく、すべての苦しみや悲しみや怒りや諦めが出尽くした後には、希望が残る。
この物語はほぼまちがいなくパンドラの匣をモチーフにしてるんだろうけど、ただ、佳境、アンナ・フォリエッタが外へ飛び出し、さらにアルバ・ロルヴァケルも飛び出し、それをエドアルド・レオが追いかけてすぐに大団円になっちゃってる。ほんとなら、もうすこしひと悶着あるはずで、実はそれは希望へ繋がるたいせつな場面だとおもわれるんだけど、すうっと場面転換して、もうつぎつぎにみんな月蝕が満月になったところへ出てくる。希望が残ったんだね。それはそれでいいんだけど、ちょっと物足らなさというか面白かったが故の口惜しさはあるな、正直なところ。