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幸せのバランス

2017年10月17日 00時01分34秒 | 洋画2012年

 ☆幸せのバランス(2012年 イタリア、フランス 107分)

 原題 Gli equilibristi

 監督 イバーノ・デ・マッテオ

 出演 バレリオ・マスタンドレア、バルボラ・ボブローバ、ロザベル・ラウレンティ・セラーズ

 

 ☆家族すら養えないようなおまえなんか寄生虫だ!

 ちなみにこの原題は「綱渡り」って意味らしいんだけど、タイトルバックにFrancesco Cerasiの割と好い音楽が流れるのっけから、市役所の倉庫の片隅で立ったままエッチしているバレリオ・マスタンドレアとその同僚にして愛人Grazia Schiavoのカットになる。けど、これが綱渡りってわけじゃない。なら、なんなんだって話で、この不倫がひきがねになった転落の物語のように見えるんだけど、実はそうじゃないんじゃないか。

 だって、その不倫の要因になってるのは、妻バルボラ・ボブローバとの不仲にあるわけで、どうしようもなく心が離れてしまったのには、まあ子育ての問題があったり、たとえば娘ロザベル・ラウレンティ・セラーズの奔放な音楽活動と高校生とはおもえないような化粧、衣裳、男友達みたいなところや、息子の歯の矯正とかひとりで寝られない弱虫さもあったりしてもう臨界点に達しつつも、娘がなんでか知らないけど父親が好きで父親に甘え父親を頼りにすることへの母親の嫉妬みたいな複雑な感情もあったりしたことで、もはや夫婦仲は修復不可能に近くなってる。

 こうなると、妻のヒステリーは夫にとって最悪の代物で、感情が昂ぶり、神経症になりかけたりして、実際このバレリオ・マスタンドレアはかなりの鬱状態になり、それで家を出ていく。市役所も辞め、愛人のところへ転がり込むことすらできず、市場の肉体労働もしてみるが働くのを拒まれ、そこへもって「おまえなんか寄生虫だ!」と心臓を突き刺すような自分でも気が狂いそうになるほどわかってる台詞をぶつけられたら、もうだめだ。ゆいいつ残った財産の車に寝泊まりし、どんどん肉体的にも精神的にも堕落し荒廃し破壊されていく。これが綱渡りなんだな。つらいね、こういうのは。

 人間って、ちいさな切っ掛けで人生の歯車が狂うんだよね、たぶん。いちど歯車が狂うと、その狂いはどんどんと大きくなっていって、もう自分では直せないくらいになってっちゃう。このバレリオ・マスタンドレアの人生もそうで、なにが悪いってわけじゃないんだけど、どんどんダメな人間に堕ちてっちゃう。頭も働かなくなって、ものを考えることを放棄しちゃう。こうなると身体にも異常が出てきて、目がうつろになって、歩き方すらぎこちなくなって、食欲もなくなり、身なりも整えられなくなり、もう生ける屍状態になってっちゃう。でも、妻は心配しないんだな。このあたり、現実味あるわ。

 ただまあ、子は鎹とはよくいったもので、お父さん大好き娘ロザベル・ラウレンティ・セラーズがあとをつけるんだな。それで炊き出しを受けてる父親の姿に涙し、母親を説得して連れ出し、救い出そうとするんだね。好い娘だな。ラストカット、この娘の電話に「もしもし」と出たときおもわず目頭が熱くなっちゃったよ。いやまじで。

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