Creator's Blog,record of the Designer's thinking

フィールドワークの映像、ドローイングとマーケティング手法を用いた小説、エッセイで、撮り、描き、書いてます。

ドローイング542. 小説:小樽の翆470. 二人のム・ラ・カ・ミ!

2021年11月21日 | Sensual novel

 

 近郊の山は、まだ雪は積もっていない。このところの寒さで花々も枯れて落ちようとしている。雪間近の曇天でこちらの心も暗くなる。

街へ帰ってお茶だね。

この時間なら明菜姉ちゃんが画材屋でたむろしている頃だろう。

最近では、時折画材屋の主の代わりに店番をしている時もある。

コロンビア珈琲のフルーツパフェにつられてやってきた。

・・・

明菜「どっちの、ム・ラ・カ・ミがお好き?」

「アチキには、難しい質問だなぁー!?」

明菜「ねえー、どっち!?」

「龍はモチーフの選び方からしてアウトロー感覚だよね。感覚的に意外性を追いかける方が面白いし、人が考えそうなことは考えないってわけさ。だから絵を描く技法と同じで、最初から技法を無視してゆく爽快感がある。技法なんて最初からそこにあるわけではないし、新しい世界と遭遇したら、その都度つくればいいんじゃない。そういうところがアチキの気分と合っているが・・・」

明菜「もう一人のム・ラ・カ・ミは?」

「村上春樹は、日常生活世界、それもマンションの一室から出発する感じ。登場人物は、平凡な人間にとってはあこがれのライフスタイルや職業を持っている。そんな日常世界に異邦人が侵入してきて異常な世界に到達する。そのあたりはストーリーテーラーとして巧みに引っ張ってくれるけど、つまり文科系人間達の憧憬的な期待に答えたって感じだよね」

明菜「ほら!、こんな雑誌をみると知的世界の書斎なんて特集をしているけど、デスクに村上春樹の本が置かれているよ」

そういって明菜姉ちゃんが雑誌PENもどきの誌面をひろげた。

「それが文科系人間達の憧れじゃない。きっとそんな書斎を持ちたいと考えるし、憧れてつくっちゃう人もいるんでしょう」

明菜「憧れでこんな知的でクラシックな書斎をつくっちゃうの?」

「そうね。そんな知的書斎をつくっても所詮ファッションだよ。だってその書斎の主はクリエイションしないでしょう。だから装うだけ。クリエイションな気分に浸りたいというのも、クリエイションをしない文科系人種の憧れだよ」

明菜「クリエイションしている人って、クリエイションには憧れないわけね」

「毎日クリエイションするのが日課だから、これに憧れるっていうのはないでしょうね。日本の作家で造形的クリエイションを勉強したのは、池田満寿夫と村上龍ぐらい。池田は芸大の版画科出身だし、龍はお父さんが美術の先生だったし、ムサ美に進学したぐらいかなぁー、そんな視点で見れば村上龍の方が文科系臭さがなくていいか。結論は村上龍だ!。だけどストーリーは、いつもアウトローから出発しているから疲れるんですけどねぇー・・・・」

・・・

そんな会話をしていたら、もう暗くなっている。

小樽も陽が短くなってきた。

コメント
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