昨日、加計学園の獣医学部新設についての記事を書いたら、京都市内の知らない方からお電話いただいて、5月22日に開催された国家戦略特区諮問会議(議長:安倍晋三内閣総理大臣)の議事録が内閣府のホームページにアップされていることを教えて下さった。
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三人の委員の方々が、獣医学部新設についての報道に触れておられる発言があったので、抜粋してご紹介したい。
八田 達夫(アジア成長研究所所長)
次に、特区における獣医学部新設の審議の経緯について、個人的な考えを申し述べさせていただきたいと思います。本件は52年間にわたって学部新設を認めてこなかった岩盤規制に取り組んだものでございます。
獣医学部の新設が認められなかったことが、なぜ岩盤規制なのでしょうか。新設の薬局は既存の薬局から100メートル以上離して立地すべしという薬事法における距離制限は違憲であるという最高裁の判決が1975年にありました。
薬局の新設は需給関係を崩し、既存の薬局に不利益になります。したがって、既存の薬局が新設を嫌がることは当然であります。しかし、憲法が保障する営業の自由に鑑みると、新設が需給関係を崩すことは薬局の新設を制限する理由にはならないということをこの違憲判決は示しております。
同様に、獣医学部の新設が需給関係を崩し、既存の大学や獣医に不利益をもたらすことは、学部の新設を制限する理由にはなりません。教育及び研究の質を担保するものであれば、大学や学部の新設は認められるべきものです。
しかし、日本では、獣医学部、医学部、薬学部の新設は、需給調整を目的とした文科省の告示で、認められていません。これら3学部に限っては、大学設置審議会で教育や研究の質を審査することすら認めていないのです。営業の自由を保障する観点、および競争によって利用者の利益を最大化するという観点からは、この文科省告示は明らかに撤廃すべき岩盤規制であります。
今回の獣医学部の新設は、せめて特区ではこの告示に例外を作ろうという試みです。しかし獣医学部の新設に当たっては、既得権益側が激しく抵抗し、新設するとしても2つ以上は認められないと主張するので、突破口として、まずは一地域に限定せざるを得ませんでした。そうである以上、地域的に獣医学部の必要性が極めて高く、しかも福田内閣以来、永年要求し続けた地域に新設を認めたのは当然であります。この選択が不透明だなどという指摘は全く的外れであります。むしろこれまでこの岩盤規制が維持されてきた政治的背景こそ、メディアは、究明すべきです。
しかし、突破口を作ったことには、大きな意義があります。今後、続けて第二、第三の獣医学部が認められるべきです。
八田委員のおっしゃることはもっともであり、獣医師が増えすぎると仕事がなくなるという論点や、それを良しとしてきた文科省告示は間違っている。ぜひ第二、第三の獣医学部新設を進めていただきたいと思う。
八田委員に続いて、竹中平蔵委員が発言しておられる。
竹中 平蔵(東洋大学教授)
八田議員がおっしゃったことは、民間議員共通の認識であると思います。医学部の新設が38年ぶりに、今年4月にようやく実現した。しかし、気がついてみると、獣医学部のほうは50年近く認められていない。まさにこれは岩盤規制です。
必ずですけれども、こういう場合は推進する側と、いわゆる抵抗勢力の間でバトルがあるのは、これはもう当然のことであって、そこでやはり激しいやり取りを行わなければいけないということになります。そして、そういう結果、とりあえず、まず、1校をつくろうと。
そこで、実はこの第30回国家戦略特別区域諮問会議の特区諮問会議でも、11月の諮問会議で、まず、広域的な、獣医学部がないところにつくろうということで、正々堂々たる、一点の曇りもない議論をしてきた。それに対して、非常に理不尽な議論が今、行われていると思います。
竹中委員がおっしゃっているのは、新設推進派とそれに抵抗する勢力との激しいバトルの末に、とりあえず1校ということになり、獣医学部がない四国の愛媛県今治市が選ばれたということであり、1校で終わりという話ではないということだ。
そして、最後に小松製作所相談役の坂根正弘委員がこの件について発言しておられる。
坂根 正弘(株式会社小松製作所相談役)
今治市の獣医学部の件について、私自身区域会議のときからずっと出席して話を聞いてきましたので、今起こっているあの批判というのは、私自身が批判されているような思いで、非常に憤懣やる方ないという思いです。
どういう意味かといいますと、参入規制で52年間守られたというのですが、永年規制で守られた業界というのは本当に世界に遅れをとるのです。
医学というものは、お医者さんの技量は日本のレベルは高いのでしょうが、医学と工学の結びつきの医療機器、それから医学と薬学の結びつきの創薬、新薬ですね。それから医学と獣医学の関係の、動物由来の感染症。ことごとく、欧米に比べて遅れをとってきたという思いが強くて、私はこの特区の場でも、最後の審査のときに、今度の獣医学部は、ぜひ、動物由来の部分をしっかりやっていただきたい、と強く要望させていただきました。
私はたまたま今日、地方大学振興及び若者雇用等に関する有識者会議の中間報告を山本大臣に手交するのですが、その中でも、実は、その都道府県の高校卒業生の進学希望者数に対する大学定員数というものは、東京都と京都府が約200%で圧倒的に飛び抜けて高くて、続く大阪府と愛知県、福岡県あたりが約100%で、全体の約半数近くの県は50%以下なのです。
すなわち、東京都と京都府のこの集中具合というのは、むちゃくちゃなパーセントになっていまして、今日、東京23区の大学の定員数は今後基本的に増やさないという内容で中間報告を上げる予定ですが、この今治市については、既に審議の過程で愛媛県との間で長い間話し合いを継続されてきたという経緯と、東京都と京都府は学生の流入がむちゃくちゃ集中している、こうした背景が頭にあって、納得してきたつもりです。したがって、何とか、理不尽な指摘を乗り越えていただきたいと思います。
坂根委員は、医学部や獣医学部が永年、岩盤規制に守られてきたせいで日本の新薬開発や医療機器開発、動物由来の感染症対策で世界に遅れをとっており、成長戦略に大きな悪影響を及ぼしているということをおっしゃっている。
ただ、京都産業大学が「大学密集地」の京都市に獣医学部を新設されようと勘違いしておられたのか、もしくは京都府の激しい「南北格差」事情まではご存知ないのか、京都に大学が多いからと綾部市ではなく、今治市を選ばれ、その1校のみで納得してしまわれたのは残念に思う。
しかし、1校で終わりということではないと考えておられると感じられるので、ぜひさらに推進していただきたいと思う。
こういった審議内容を読むと、現在の報道が「安倍政権叩き」のために、他の「希望の種」を踏みつぶしてしまうことにならないかを心配する。
前川喜平という文科省の前次官はまさに「既得権益」の守護者であったわけで、OB天下りの責任を取らされたり、個人的なことを新聞に流されたという恨みがあったとしても、そもそも国のことを考えて仕事をしてきた人であったのか、というのは疑問に感じる。
今回の岩盤規制は安倍総理でなければ、叩き壊すことができなかったであろうから、総理が議長を務める国家戦略特区諮問会議であるからこそ成し遂げられたことだ。
特区に関しては、新しいことをやる場合に激しい抵抗や摩擦が起こるのは当然で、むしろ、なんの反発も起きていなければ、総理が仕事をしていないということになるのではないかなと思う。