「天災は忘れた頃にやってくる」の名言は 寺田寅彦の言葉と云われているが
寺田寅彦がそのように明言した事実はないそうだ。
寺田寅彦は、明治11年(1878)生、昭和10年(1935)没。
享年58歳。寺田寅彦は「随筆家」として知られているが、実は物理学者でもある。
1908年(明治41年)理学博士号を取得した論文は、なんと「尺八の音響学的研究」で 英文で書かれている。
そして、大正12年(1923)45才の時、関東大震災に遭遇し、防災についての数々の論文を発表している。
「二十世紀の民衆の大多数は 紀元前一世紀の大多数と比較していくらも進歩していない。地震学者が口を酸(す)くして説くことに 人は耳をかそうとはしない」。
「文明が進めば進むほど 天然の暴威による災害が その激烈の度をなすという事実である。
文明が進むに従って 人間は次第に 自然を征服しようとする野心を生じた。そして、重力に逆らい、風圧水力に抗するようないろいろの造営物を作った。そうして あっぱれ 自然の暴威を封じ込めたつもりになっていると、どうかした拍子に 檻を破った猛獣の大群のように、自然があばれ出して 高楼を倒壊せしめ、堤防を崩壊させて 人命を危うくし 財産を滅ぼす。
その災禍を起こさせた元の起こりは、天然に反抗する人間の細工であるといっても不当ではないはずである。いやが上にも災害を大きくするように努力しているのは、誰あろう 文明人そのものなのである」
「もし自然の歴史が繰り返すとすれば、二十世紀の終わりか 二十一世紀の初めごろまでには もう一度 関東大地震が襲来するはずである。困った事には、そのころの東京市民は もう 大地震の事などはきれいに忘れてしまっていて、大地震が来た時の災害を助長するような あらゆる危険な施設を 累積していることであろう」(『銀座アルプス』)
昭和8年の記述であることに驚く。