今年の冬ドラマの中でも話題の一つとなっているのが、TBS系「アンナチュラル」だろう。
視聴率そのものは、余りふるっていないようだが(それでも関東地区でも10%前後。他の地域ではもっと高い視聴率を獲得しているようだ)、ドラマのテーマが「法医学」ということを考えれば、健闘をしているのでは?という、気がしている。
というよりも、ドラマを見てみると視聴率云々で語られるようなドラマではないのでは?、という気がしてくる。
それだけ「今」の問題を切り取った内容だからだ。
その「今」の問題の脚本を書いていらっしゃるのが、一昨年社会現象とまで言われた「逃げるは恥だが役に立つ」の野木亜紀子さんだ。
今回の「アンナチュラル」は、野木さんのオリジナル脚本で、脚本そのものを書かれたのは昨年の秋で、ドラマそのものも昨年の間に撮影を終えているという。
にもかかわらず、昨年暮れから今年初めに社会問題となったテーマを取り上げているのは、野木さんの時代を読み取る力があるからなのだろう。
そして昨夜(2月22日)放送は、「今の問題」というよりも長い間大きな社会問題になっていながら、解決できないでいる「いじめ」がテーマだった。
テーマがテーマなだけに、内容そのものも重苦しく、深い悲しみを感じるものだったが、ドラマ後半の台詞一つひとつがとても生きている、と感銘を受けた視聴者も多かったようだ。
子供の死因の第1位は、何かご存じだろうか?
交通事故などによる「不慮の事故」だ。
その後に「小児がん」などの病気となるのだが、中高校生に限って言えば「不慮の事故」の次が「自殺」なのだ。
未来があるはずの子どもたちが「自死を選ぶ」、という社会は決して幸せな社会ではないと思う。
しかし、今だに解決の糸口が見つからない問題でもある。
その理由の一つではないか?と思われる記事が、昨年の秋Huffpostに掲載されていた。
Huffpost:「いじめは楽しい」だから笑顔で行われる。
野木さんがこの記事を読まれたかはわからないが、ドラマの中にもこの記事と同じような場面、いわゆる「いじり」とか「ふざけた延長の暴力」などが描かれていた。
「いじめ」をテーマにしたドラマの場合、同様の描かれ方をされる場合が多いのでは?と思うのだが、野木さんは踏み込んで「いじめの加害者は、被害者のことなど何も思っていないし、すぐに忘れる」という内容の台詞を書いている。
「いじめをなくす」というテーマではなく、「いじめをする加害者と被害者」の気持ち(というべきか?)の両方を言うことで、加害者と被害者の心理の乖離を描き出したような気がした。
そして男性教師の「男子なら、ふざけてプロレスの真似事くらいするでしょう」という内容の台詞に、この男性教師もまた「自分がいじめている(相手が嫌がっている)という意識を持たずに、プロレス技をクラスメイトにかけていたのでは?」という、気がしたのだ。
男性教師のこの台詞は、これまで自殺をした子供たちの学校の教師たちが言ってきた言葉の一つでもある。
「自分が感じたことが無い痛みや嫌悪感」を想像することは難しい。
それもまた「いじめ」が表面化しない理由なのでは?
そのような様々な切り口で「いじめ」という問題を脚本家の野木さんは、提議したような気がしたのだった。