僕はびわ湖のカイツブリ

滋賀県の風景・野鳥・蝶・花などの自然をメインに何でもありです。
“男のためのガーデニング”改め

「湖北のアールブリュット展2019」~長浜 曳山博物館~

2019-12-08 19:50:00 | アート・ライブ・読書
 『アール・ブリュット』は正規の美術教育を受けていない人々が他者を意識せずに創作した芸術作品のことをいいますが、一般的には知的障がいのある人の作品と捉えられています。
それぞれの作家の作品は、個性的で独創的なものが多く、それは理屈をこねくり回したような嫌らしさを全く感じない無垢な作品だと思います。

滋賀県は障がい者福祉で先進的な取り組みをしてきた県だとされていて、各施設では日常の業務以外にも自己表現の場として創作活動を取り入れておられるようです。
そんな彼らの作品の発表の場の一つに「湖北のアールブリュット展」があり、9年前から開催場所を変えつつも続けられているそうです。



今年の「湖北のアールブリュット展」も昨年に続いて“長浜市曳山博物館”での開催となり、博物館1階の伝承スタジオで美術展は行われました。
会場へ入ってまず目に入るのは鈴木さんの「無題」。
手を動かすことの得意な鈴木さんは、絵の具を直接手に付けて、布に触れることで色を付けていくといいます。



視覚・聴覚に障がいのある後藤さんのコミュニケーション手段にスキンシップがあるそうです。
手に絵の具を付けて、職員の方に触れながら色付けされた帽子やシャツは、施設での日常の中で職員の方と楽しく触れ合う姿が思い浮かびます。



粘土の壺とクラフトテープのコラボ作品はプリミティブな創世の世界を思わせるもの。
武友さんの「つぼ」は信楽焼きのひも造りのように、延ばしたひも状の粘土を巻き上げて造ったもので指跡がくっきりと残る作品です。

三橋さんは自室に入るとベッドに横になりクラフトテープをクルクルと丸めて、くっつけていくといいます。
テープの粘着が指にくっつく感覚が面白いそうなのです。



作品は湖北在住の作家だけではなく、湖南市の「近江学園」からの出品が多くありました。
近江学園は1946年に知的障がい者と戦災浮浪児を保護・教育するために設立された施設で、方針とされる「この子らを世の光に」は、伝教大師の「一隅を照らす」という言葉に通じるものを感じます。



近江学園は、戦後まもなく粘土を使った造形活動を始めた施設だといい、現在も個性的な粘土作品作家を輩出されているようです。
作品の中には完成度の高いものが多く、インテリアとしても面白いのではないでしょうか。



“亀かスッポン”のような造形の作品の甲羅の上には楽しそうな楽団が並びます。
どんな曲を演奏しているのか耳を傾けたくなりますね。





下の壺は海の底に沈む壺なのでしょうか。
壺の周りには魚たちが気持ちよさそうに泳ぐ姿が見られ、上部にはヒトデの姿もあります。





独創的で自由に造られた作品にはどこか別の世界からやってきた生物のようなものも幾つか見られます。
古くはウルトラ・シリーズなんかの怪獣モノに出てきそうな生き物たちです。





人らしきモノが折り重なるように盆の上につながっている作品があります。
もしくは臓器のヒダ、融けてしまった人間と、いろいろなことが連想できる作品です。



ほのぼのとした作品は吉居さんのカッパ・シリーズ。
今回はなんと「はぶらしカッパ」です。



「おじぞうさん」を造られるのは片山さん。
好んでおじぞうさんを造っておられるようで、いろいろな表情を見せて手を合わせている小さなお地蔵さんを見守る大きなお地蔵さんの優しい顔がいいですね。



絵の展示も多かった中、ひときわ目を引いたのが「気持ちよく泳ぐ さかな」でした。
“自分も魚の気分になって絵を描きました”と添えられた言葉そのものに、気持ち良さそうに泳いでいる魚は彩色豊かで繊細に描かれています。



アールブリュットは特殊な世界のものではなく、自由に創作された作品を自由な想いを馳せながら鑑賞するということかと思います。
とはいえ、アールブリュットは現代のアート・シーンの中で一つの潮流となっているのも確かなのかもしれません。


コメント
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