母は4月に家から車で15分くらいの新設の介護老人保健施設(老健)に入所できた。92歳と高齢で、とても症状が安定しているとは言いがたいが、施設長の面接もクリアーし運よく入所できた。
施設は新しいので便利にできていて、きれいだった。職員の方もほとんどが新人だったが、あかるく元気だった。母も皆でテーブルを囲んでの簡単なゲームにも加わり、ようやく落ち着いたかなと思った。
母は、「トイレに連れてってもらうのが男の人だと、本当にいやなのよ。そう言っても、「仕事ですから大丈夫ですよ」って言うんだけど、いやなのよ。分かる?」とこぼした。夜も相変わらす問題を起こすようで、ベッドの部屋を追い出されて、フロアーに畳を敷いて寝ていたこともある。
しかし、この老健に居た時が、親戚の人がたずねてきたりして、一番落ち着いていた時期だった。
しかし、7月に、3ヶ月ごとの見直しが行われ、健康に問題ありとされ、老健を出て、近くの病院へ入院することになった。
足がむくんで腫れている以外は、食欲もあり、もはや、歩くことはできず、車椅子だったが、身体には大きな問題はなかった。ただ、生きる意欲はもう残っていなかった。
妻は2日に一回は見舞いに行っていたが、あるとき3日目に行ったら、「あら、久しぶりね」と言われたらしい。「しっかり、覚えているんだわ」 とびっくりしていた。
私が行って昔話などを持ちかけても、あまりのってこず、「●●、忙しいんだろ、早く帰っていいよ」という。気遣っているのかと思ったが、妻が来て帰るときには、「もう、帰っちゃうの?」と半分泣きそうになるという。
まだ学生だった息子がときどき妻を病院まで車で送っていった。母が息子に、「○○(息子の名前)、K子さんみたいな人、見つけなさいね」と言ったという。妻は、「もう、これで苦労が飛んでしまった」とウルウルして私に話した。
そして、いよいよそのときが来た。