hiyamizu's blog

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牛田守彦、高栁昌久『戦争の記憶を武蔵野にたずねて 増補版』を読む

2021年11月24日 | 読書2

 

牛田守彦、高栁昌久著『戦争の記憶を武蔵野にたずねて 増補版 武蔵野地域の戦争遺跡ガイド』(2006年12月20日文伸/ぶんしん出版発行、現在絶版中)を読んだ。

 


 東京都武蔵野市、三鷹市、西東京市に閑静な住宅街が広がる武蔵野地区は、太平洋戦争末期には「一大軍需工業地帯」だった。そして、1944年から翌年にかけて、アメリカ軍の空襲で大きな被害を受け、その傷跡は、70年以上経ってもこの地域に残っているし、残していきたいと思う。

 

 この本は、研究者や地域の人たちが中心となって結成した市民団体「武蔵野の空襲と戦争遺跡を記録する会」が武蔵野地区の戦跡を調査し、聞き取り調査した結果をまとめた武蔵野地域の戦争遺跡ガイドブックだ。本団体は、たびたび多くの皆さんをフィールドワークに招き、戦跡を保存し、伝えていこうとしている。

 

この本の内容は、各地区(武蔵野エリアと中心に、柳沢・東伏見エリア・西東京エリア・ひばりヶ丘・東久留米エリア、三鷹・調布エリア)の戦跡について写真と共に紹介し、併せて中島飛行機武蔵製作所などについて解説してる。

 

 

中島飛行機武蔵製作所

中島飛行機は、戦前・戦中の日本の航空機生産のトップメーカー。武蔵製作所はエンジン工場で日本の30%を生産していた。このため本土空襲の最重要目標となり、空爆の初期から合計9回の空襲を受けた。

1944年11月24日、サイパン島を飛び立った111機のB29は、富士山を目印に日本に飛来し、武蔵境の浄水場を目印に武蔵製作所に爆弾を投下した。その後も爆撃は続き、200名以上の死者が出て、工場は再起不能となった。

 

 

以下、この地域になじみのある私の目についた記事を列挙する。

 

都立武蔵野中央公園

今は面積約10万平米の通称「はらっぱ公園」だが、かっての中島飛行機武蔵製作所西工場(旧多摩製作所)の跡地だ。公園正面入口に説明板が設置されている。

 

NTT武蔵野研究開発センタ

戦後廃墟となっていた武蔵製作所の北側部分の建物を改修し、1950年電気通信研究所の2号館、3号館とした。2001年取り壊されるまで使用されていた。

私はこの2号館に勤務していたことがある。大きな蛇腹式のドアのエレベーターがあって、手動で止め、段差ができるとやり直しするというものだった。ゼロ戦のエンジンを運んだと聞いていた。また、不発弾が発見されて、午後から勤務が休みになることが何回かあったが、当時は「やった!」と遊びに行くだけで、戦争を思いやることもなかった。

 

世界連邦平和像

三鷹駅北口ロータリー中央に、駿馬にまたがり、髪を振り乱しながら駆けるブロンズ製の女神像がある。土台部分に武蔵野市における戦没者の名簿が収めてあるという。長崎の平和祈念像の作者で、工房跡が井の頭公園西園にある北村西望の作品だ。

私は通勤で毎日北口を通っていたのだが、何か像があるなと思っただけで、北村西望の作品とは知らなかった。

 

源生寺

身元不明の遺骨慰霊のため建立した「倶會一處(くえいっしょ)」碑がある。「倶會一處」とは、念仏者は等しく西方浄土に往生し、一つ所に相会うということ。
本堂裏の墓地に、爆撃によって背面が大きくえぐれた墓石がある。

 

井の頭公園

かって植林されていた杉は空襲犠牲者の遺体を入れるお棺に使われた。文化園にはハート型の傷がある幹を持つ松の木があり、戦時中に松脂を採るためにつけたものと言われている。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

武蔵野地域になじみのある人は、図書館などで是非この本を手に取って、現在の片隅にある戦跡を見て思いを致してほしい。地縁のない方は、何かの機会に、お住いの地域の戦跡を知り、戦争時の地域の歴史を調べて欲しい。

 

書物で知る整えられた歴史でなく、身近な生活の中での戦争の傷痕は、また違った感慨を引き起こすだろう。

日常生活の中で目に触れているものが、かっての戦争に関連していることも意外と多いものなのだ。私の場合のように。そして、それらは何もしなければここ数十年で失われていくのだ。

 

 

牛田守彦(うしだ・もりひこ)

1961年生れ。法政大学中学高等学校教諭。武蔵野の空襲と戦争遺跡を記録する会代表、歴史教育者協議会会員、戦争遺跡保存全国ネットワーク会員

 

高栁昌久(たかやなぎ・まさひさ)

1966年生れ。国際基督教大学高等学校教諭。

 

 

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