西加奈子著『くもをさがす』(2023年4月20日河出書房新社発行)を読んだ。
カナダでがんになった。
不自由な体、海外のままならない生活、
絶望一歩手前のギリギリの毎日。
「私は弱い。徹底的に弱い」
それでも―――
語学留学先のカナダで自身に乳がんが見つかってから寛解するまでの8カ月が中心。色々な薬の名前などが出てくる治療の記録だが、日本とは異なる医療環境の中で、看護者、友人からかけられた言葉によって自分の中に生まれた新たな考えの記録でもある。著者初のノンフィクション。
西さんは、夫、幼い息子、猫といっしょにカナダ・バンクーバーに渡った。2021年5月、胸にしこりは、ステージ2Bの浸潤性乳管がんと宣告された。を受けてから日記をつけ始めた。ほぼ同時に本作も書き始めていた。抗がん剤治療が始まると、身体の調子が激しく変化し、また良い点もあるのだがカナダの医療体制の不備に不安を持ち、日本ならと思う事も多かった。
西さんは、転移や再発の可能性が高い変異遺伝子を持っていることが分かり、手術で右だけでなく両乳房を切除し、迷いもあったが、乳房の再建もしないと決断した。坊主頭には憧れていたのに涙が出て来た。
そして、手術を終えた自分の胸を、美しいと、本当に思った。
本書は書下ろし
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
がん闘病記が主な話題だが、西さんの本来の明るい性格もあり、厳しい状況の中でも、根元のところではたくましさを失わず、読んでいて励まされる話になっている。
カナダの医療の良い面、悪い面の実状が語られ、日本の現状と比較していろいろ考えさせられる。
カナダで出会った女性医師の言葉は、関西弁に訳され、違和感があるのだが、明るい雰囲気となっている。
おまけ
バンクーバーの公共広告:“Addiction is a medical condition---not a choice. Stop the Stigma.”
(薬物中毒は選択ではなく、精神疾患です。薬物に関する偏見を止めましょう)
つまり、誰でも薬物使用者になる可能性がある。人間は、それがどんな状態であれ、同じ人間として接する、という意志が、バンクーバーには通底しているように思う。
ここまで明快に言われると、「そうなの?」と思ってしまう。