彼は将棋ペンクラブ幹事のHak氏だった。
氏の勤務地がどこだか知らないが、わざわざ予約を取って来るということは、氏が上川香織女流初段のファンということを意味する。とはいえ、きょうここで会うとは思わなかった。
私とHak氏、もうひとりが指導料の4,000円を払う。これはファンクラブ会員料金で、通常だと5,000円である。もはや、相当な覚悟がないと来られない額である。
上川女流初段を挟む形で、私とHak氏が座った。対局スペースはここしかなく、三方が壁で囲まれている。先ほどのドアが将棋盤の「8九」の位置だとすると、ここは「1一、1二、2一、2二」の感じだ。とにかく狭いが、妖しい雰囲気もあって、これはこれでよい。
とはいえ天井の灯りは少なく、将棋を指すには室内が薄暗い。もう少し明るい方がいいと思うのだが…。
駒を並べていると、
「マッカラン勝負はどうなりました?」
と上川女流初段。
これはLPSA芝浦サロンのときに行っていたもので、女流棋士と最大12局指して、私が5勝すればセーフ。その前に女流棋士側が8勝すれば、求めるお酒を進呈するというものである。
上川女流初段とは2011年から行っていたが、途中で上川女流初段の休場があったり、私がサロンから遠のいたりして、すっかりご無沙汰になっていた。
しかしまだ勝負は続いているので、もちろん継続中の旨を述べた。足かけ4年の長期戦である。
対局開始。上川女流初段はゴキゲン中飛車で、予想された作戦である。私は7手目に角道を止める。軟弱だが、振り飛車側に角交換から暴れられてはたまらない。
先行対局の将棋は、上川女流初段の振り飛車に、お客の居飛車穴熊。ほかの2局は、上川女流四段の飛車落ちだった。
上川女流初段は、きょうはピンクのブラウスに同系色のフレアスカート。春らしいさわやかな装いである。
「名人戦はどうなりました?」
と上川女流初段。
「羽生さんが勝ちましたよ。60手で。名人戦史上最短手数らしいです」
と、これは私。上川女流初段がヒトの将棋に関心があるとは思わなかった。
上川女流初段は、5筋の歩を交換して、5一に引く。
「今度、陽子ちゃんと私のコラボ扇子が出るんですよ」
「ほおお…40歳コンビで」
「……。歳のこと言う? ふつう」
「でもここにいる人はみんな知ってるでしょう」
「だからと言って口に出していいってものでもないでしょう」
と、これはHak氏。「でもそれを言っちゃうのが大沢さんらしいところなんですけどね」
こういう、おしゃべりをしながらの対局が、いかにもサロンらしい。私は本来無口だが、必要とあれば、しゃべる。上川女流初段は相変わらずおっとりしていて、けだるさも漂い、そそられるものがある。
スタッフが来て、室内の灯りを点けた。やっぱり、点け忘れていたのだ。このあたりの不備がよく分からないが、まあいい。
「大野教室にはまだ行ってるんですか?」
と上川女流初段。
「はい、ときどきお邪魔しています」
LPSAサロンと大野・植山教室は曜日が違うから競合しない。しかしどこか気になるのだろう。麹町サロンも、日曜営業を考えればいいのにと思う。
将棋は、5筋と6筋でお互い銀を取り、私が▲5五歩とフタをした。
以下の指し手。△6五銀▲6六銀打△同銀▲同銀△4五歩▲6五銀打△5七銀▲5六銀△6六銀成▲同角△6五歩▲8八角△6六銀▲5四銀 以下、一公の勝ち。
こちらからはHak氏の姿が見にくいが、形勢はどうなのだろう。
△4五歩に私は▲6五銀と打ったが、▲5四銀と打つべきだった。
△6五歩の角取りでは△5四歩がイヤだったが、▲6三銀で下手が指せるようだ。
△6六銀に私はやっと▲5四銀と打ったが、この感触がよく、これで有利になったと思った。
が、ここで△5五銀▲同銀△同角と捌かれたら、下手は容易ではなかった。
本譜は上川女流初段が△5四同飛以下猛攻を掛けてきたが、私は落ち着いて対処し、最後は▲9六角(△4一金取り)△5二金左▲2二飛まで、上川女流初段が投了。私はうれしい勝利となった。
まだ、開始して50分も経っていないのではないか。が、ここでは「救済制度」がある。麹町サロンの指導時間は2時間だが、その時間内なら、何局でも指せるのだ。芝浦では「おかわり対局」として追加料金1,000円を取られたから、これはうれしい改正である。
上川女流初段も当然のように、駒を並べ始めた。すなわち、2局目の開始である。
(17日につづく)
氏の勤務地がどこだか知らないが、わざわざ予約を取って来るということは、氏が上川香織女流初段のファンということを意味する。とはいえ、きょうここで会うとは思わなかった。
私とHak氏、もうひとりが指導料の4,000円を払う。これはファンクラブ会員料金で、通常だと5,000円である。もはや、相当な覚悟がないと来られない額である。
上川女流初段を挟む形で、私とHak氏が座った。対局スペースはここしかなく、三方が壁で囲まれている。先ほどのドアが将棋盤の「8九」の位置だとすると、ここは「1一、1二、2一、2二」の感じだ。とにかく狭いが、妖しい雰囲気もあって、これはこれでよい。
とはいえ天井の灯りは少なく、将棋を指すには室内が薄暗い。もう少し明るい方がいいと思うのだが…。
駒を並べていると、
「マッカラン勝負はどうなりました?」
と上川女流初段。
これはLPSA芝浦サロンのときに行っていたもので、女流棋士と最大12局指して、私が5勝すればセーフ。その前に女流棋士側が8勝すれば、求めるお酒を進呈するというものである。
上川女流初段とは2011年から行っていたが、途中で上川女流初段の休場があったり、私がサロンから遠のいたりして、すっかりご無沙汰になっていた。
しかしまだ勝負は続いているので、もちろん継続中の旨を述べた。足かけ4年の長期戦である。
対局開始。上川女流初段はゴキゲン中飛車で、予想された作戦である。私は7手目に角道を止める。軟弱だが、振り飛車側に角交換から暴れられてはたまらない。
先行対局の将棋は、上川女流初段の振り飛車に、お客の居飛車穴熊。ほかの2局は、上川女流四段の飛車落ちだった。
上川女流初段は、きょうはピンクのブラウスに同系色のフレアスカート。春らしいさわやかな装いである。
「名人戦はどうなりました?」
と上川女流初段。
「羽生さんが勝ちましたよ。60手で。名人戦史上最短手数らしいです」
と、これは私。上川女流初段がヒトの将棋に関心があるとは思わなかった。
上川女流初段は、5筋の歩を交換して、5一に引く。
「今度、陽子ちゃんと私のコラボ扇子が出るんですよ」
「ほおお…40歳コンビで」
「……。歳のこと言う? ふつう」
「でもここにいる人はみんな知ってるでしょう」
「だからと言って口に出していいってものでもないでしょう」
と、これはHak氏。「でもそれを言っちゃうのが大沢さんらしいところなんですけどね」
こういう、おしゃべりをしながらの対局が、いかにもサロンらしい。私は本来無口だが、必要とあれば、しゃべる。上川女流初段は相変わらずおっとりしていて、けだるさも漂い、そそられるものがある。
スタッフが来て、室内の灯りを点けた。やっぱり、点け忘れていたのだ。このあたりの不備がよく分からないが、まあいい。
「大野教室にはまだ行ってるんですか?」
と上川女流初段。
「はい、ときどきお邪魔しています」
LPSAサロンと大野・植山教室は曜日が違うから競合しない。しかしどこか気になるのだろう。麹町サロンも、日曜営業を考えればいいのにと思う。
将棋は、5筋と6筋でお互い銀を取り、私が▲5五歩とフタをした。
以下の指し手。△6五銀▲6六銀打△同銀▲同銀△4五歩▲6五銀打△5七銀▲5六銀△6六銀成▲同角△6五歩▲8八角△6六銀▲5四銀 以下、一公の勝ち。
こちらからはHak氏の姿が見にくいが、形勢はどうなのだろう。
△4五歩に私は▲6五銀と打ったが、▲5四銀と打つべきだった。
△6五歩の角取りでは△5四歩がイヤだったが、▲6三銀で下手が指せるようだ。
△6六銀に私はやっと▲5四銀と打ったが、この感触がよく、これで有利になったと思った。
が、ここで△5五銀▲同銀△同角と捌かれたら、下手は容易ではなかった。
本譜は上川女流初段が△5四同飛以下猛攻を掛けてきたが、私は落ち着いて対処し、最後は▲9六角(△4一金取り)△5二金左▲2二飛まで、上川女流初段が投了。私はうれしい勝利となった。
まだ、開始して50分も経っていないのではないか。が、ここでは「救済制度」がある。麹町サロンの指導時間は2時間だが、その時間内なら、何局でも指せるのだ。芝浦では「おかわり対局」として追加料金1,000円を取られたから、これはうれしい改正である。
上川女流初段も当然のように、駒を並べ始めた。すなわち、2局目の開始である。
(17日につづく)