明けて2日目、羽生善治棋聖の封じ手は▲2五飛。歩を取らなかった。控室でも意外だったようで、立会人の中村太地王座は苦笑いしていたらしい。ただよく分からないが、タダで取れる歩から逃げているようじゃ、先手がつまらないのではないか。
さらに渡辺明竜王△2四歩。ここで▲2六飛と引くと思いきや、羽生棋聖は▲3三角成から▲2九飛。ちょっと見たことのない進行で、羽生棋聖苦心の手順という気がした。
渡辺竜王△5四銀に▲2五歩。中継コメントにもあったが、これで「▲2四歩△同歩」の2手を先手が得した形になった。なんだかどっちが得をしたのか分からず、キツネとタヌキの化かしあいみたいだ。
渡辺竜王△1六歩。待望の反撃で、こう伸ばされるだけで私などはビビってしまう。
以下渡辺竜王は端を破り、羽生棋聖は金を取る。そして△2八歩成▲3三と。
ここで私なら△2九とと飛車を取る。私は飛車が手元にないと安心できないのだ。
だが渡辺竜王は△3三同桂とと金を払った。これもプロ的な落ち着いた手なのだろう。
そこで羽生棋聖は▲1五角。この素朴な角打ちが厳しいと思った。以前佐藤康光九段の超急戦の将棋で、▲1五角と打って三枚換えになる実戦があったのを思い出した(後手が佐藤九段だったか)。
本譜は△2九とに▲3三角成となり、羽生棋聖は2一の桂馬を労せずして取った形となった。これは先手がやや得をしたのではないか?
△6二玉▲7五桂に、渡辺竜王はノータイムで△7四角。だが局後の検討によると、ここは△7二角が有力だったらしい。これが将棋の不思議なところで、渡辺竜王、10手目の局面では58分も考えたのに、なんでここはノータイムで指してしまったのだろう。
だけど▲6三銀を受けるには△7四角か△7二角の二択。△7四角は4七に利くし、「桂頭の銀」の親戚みたいなところもある。形からしてもこう打ちなくなるところで、これは渡辺竜王に運がなかった。
ちなみに「△7二角を逸する」局面だが、第2期竜王戦の本戦トーナメント、▲羽生五段VS△大山康晴十五世名人の一戦にそれがあったのを思い出した。
ここで昼食休憩。再開後、羽生棋聖は▲5五銀と打つ。△5四銀がいなくなれば6三に駒が打てる理屈で、ここで渡辺竜王はじっくり時間を使い、61分の考慮で△同銀と取った。が、自身のブログによると、これが決定的にマズかったらしい。▲5五銀に構わず△2八と引きを急ぐべきだったというのだ。
もっとも控室の検討では、△5五同銀でも大変な勝負、とのことだったから、これは渡辺竜王の「しくじった」という精神的ショックのほうが大きかったのではないか。
とはいえ▲5五同馬の形は馬が大威張りで、何となく先手がよく見えた気がした。
数手進んで75手目▲4五桂が気持ちいい跳躍。後手△4一玉の早逃げには、▲2四歩の垂らしがまた好手だった。「玉は包むように寄せよ」という味わい深い手だが、私クラスのアマにはこの類の手が指せない。羽生棋聖は自然な手を積み重ねている感じで格言に沿った手も多く、いつも勉強になる。
これで大勢決したようだ。以下は羽生棋聖が必至を掛け、渡辺竜王が1回王手を掛けて投了した。
ただ私たちなら、最終盤▲5五馬△2二歩の2手を省いて、最終▲7七玉に△7八銀成▲同銀△6八銀でトン死しているところ。かようにプロの将棋はどこまで行っても油断できないのだが、裏を返せば、プロは最善手の連続でないと、勝利を勝ち取れないということだ。
終了時刻は16時28分。消費時間は、渡辺竜王7時間8分、羽生棋聖6時間34分。初日のスローペースだと両者1分将棋になると思ったが、最終盤は変化がなく、渡辺竜王に粘る余地がなかったようである。
本局、羽生棋聖に悪手なし。渡辺竜王は二択の局面が3回あり、そのすべてで悪いほうを選んでしまったらしい。ただそれも疑問手といえるほどひどくなく、次善手レベルだったと思う。重ねて書くが、プロ同士では、次善手の多寡が勝敗の分岐点になってしまうのだ。プロのレベルの高さを改めて感じた。
かくして七番勝負は挑戦者の先勝となった。ふだんのタイトル戦では、初戦に羽生棋聖が負けてシリーズの行方がおもしろくなる、という構図だが、昨今はとてもそんな雰囲気ではない。今回も、第1局に羽生棋聖が勝って、イーブンになった(重ねて失礼)と思った。
もちろん羽生棋聖も、勝って兜の緒を締めているだろうし、渡辺竜王だってまだまだこれからと気を取り直していることだろう。
第2局は28日(土)・29日(日)に岩手県大船渡市で行われる。
さらに渡辺明竜王△2四歩。ここで▲2六飛と引くと思いきや、羽生棋聖は▲3三角成から▲2九飛。ちょっと見たことのない進行で、羽生棋聖苦心の手順という気がした。
渡辺竜王△5四銀に▲2五歩。中継コメントにもあったが、これで「▲2四歩△同歩」の2手を先手が得した形になった。なんだかどっちが得をしたのか分からず、キツネとタヌキの化かしあいみたいだ。
渡辺竜王△1六歩。待望の反撃で、こう伸ばされるだけで私などはビビってしまう。
以下渡辺竜王は端を破り、羽生棋聖は金を取る。そして△2八歩成▲3三と。
ここで私なら△2九とと飛車を取る。私は飛車が手元にないと安心できないのだ。
だが渡辺竜王は△3三同桂とと金を払った。これもプロ的な落ち着いた手なのだろう。
そこで羽生棋聖は▲1五角。この素朴な角打ちが厳しいと思った。以前佐藤康光九段の超急戦の将棋で、▲1五角と打って三枚換えになる実戦があったのを思い出した(後手が佐藤九段だったか)。
本譜は△2九とに▲3三角成となり、羽生棋聖は2一の桂馬を労せずして取った形となった。これは先手がやや得をしたのではないか?
△6二玉▲7五桂に、渡辺竜王はノータイムで△7四角。だが局後の検討によると、ここは△7二角が有力だったらしい。これが将棋の不思議なところで、渡辺竜王、10手目の局面では58分も考えたのに、なんでここはノータイムで指してしまったのだろう。
だけど▲6三銀を受けるには△7四角か△7二角の二択。△7四角は4七に利くし、「桂頭の銀」の親戚みたいなところもある。形からしてもこう打ちなくなるところで、これは渡辺竜王に運がなかった。
ちなみに「△7二角を逸する」局面だが、第2期竜王戦の本戦トーナメント、▲羽生五段VS△大山康晴十五世名人の一戦にそれがあったのを思い出した。
ここで昼食休憩。再開後、羽生棋聖は▲5五銀と打つ。△5四銀がいなくなれば6三に駒が打てる理屈で、ここで渡辺竜王はじっくり時間を使い、61分の考慮で△同銀と取った。が、自身のブログによると、これが決定的にマズかったらしい。▲5五銀に構わず△2八と引きを急ぐべきだったというのだ。
もっとも控室の検討では、△5五同銀でも大変な勝負、とのことだったから、これは渡辺竜王の「しくじった」という精神的ショックのほうが大きかったのではないか。
とはいえ▲5五同馬の形は馬が大威張りで、何となく先手がよく見えた気がした。
数手進んで75手目▲4五桂が気持ちいい跳躍。後手△4一玉の早逃げには、▲2四歩の垂らしがまた好手だった。「玉は包むように寄せよ」という味わい深い手だが、私クラスのアマにはこの類の手が指せない。羽生棋聖は自然な手を積み重ねている感じで格言に沿った手も多く、いつも勉強になる。
これで大勢決したようだ。以下は羽生棋聖が必至を掛け、渡辺竜王が1回王手を掛けて投了した。
ただ私たちなら、最終盤▲5五馬△2二歩の2手を省いて、最終▲7七玉に△7八銀成▲同銀△6八銀でトン死しているところ。かようにプロの将棋はどこまで行っても油断できないのだが、裏を返せば、プロは最善手の連続でないと、勝利を勝ち取れないということだ。
終了時刻は16時28分。消費時間は、渡辺竜王7時間8分、羽生棋聖6時間34分。初日のスローペースだと両者1分将棋になると思ったが、最終盤は変化がなく、渡辺竜王に粘る余地がなかったようである。
本局、羽生棋聖に悪手なし。渡辺竜王は二択の局面が3回あり、そのすべてで悪いほうを選んでしまったらしい。ただそれも疑問手といえるほどひどくなく、次善手レベルだったと思う。重ねて書くが、プロ同士では、次善手の多寡が勝敗の分岐点になってしまうのだ。プロのレベルの高さを改めて感じた。
かくして七番勝負は挑戦者の先勝となった。ふだんのタイトル戦では、初戦に羽生棋聖が負けてシリーズの行方がおもしろくなる、という構図だが、昨今はとてもそんな雰囲気ではない。今回も、第1局に羽生棋聖が勝って、イーブンになった(重ねて失礼)と思った。
もちろん羽生棋聖も、勝って兜の緒を締めているだろうし、渡辺竜王だってまだまだこれからと気を取り直していることだろう。
第2局は28日(土)・29日(日)に岩手県大船渡市で行われる。