一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

中倉宏美女流二段、会心の一局

2017-10-21 02:30:49 | 女流棋士
LPSAはマイナビ女子オープンでの成績がおしなべてパッとしない。本戦トーナメントに出場した所属女流棋士はいるのだが、それでも1回戦で負けているイメージがある。
19日(木)はその本戦トーナメント1回戦・甲斐智美女流五段対中倉宏美女流二段戦があった。だが宏美女流二段も然りで、本戦で活躍したイメージがない。
女流棋士の世界は男性棋士のそれと比べて、棋力のレベルに差があると思う。宏美女流二段も強いけれど、甲斐女流五段はタイトル7期の強豪である。さすがに本局は分がわるいと思った。

対局開始。戦型は先番甲斐女流五段の三間飛車。宏美女流二段は左美濃に組んだ。
このふたりの対戦で思い出すのは5年前の第6期マイナビ女子オープン予選1回戦で、宏美女流二段は終盤までうまく指しながら、最後は甲斐玉に詰みが見つけられず惜敗した。その時は宏美女流二段が、この世の終わりのような悲痛な表情をしていたという。
…とはいえ、ということは、宏美女流二段は大豪相手にも互角に指せるということである。これは本局も期待できるのではないか?
しかも考えてみたら、今期は予選決勝で中井広恵女流六段に勝っていた。宏美女流二段はよき流れを感じているはずだった。
22手目△2四歩に、25手目▲2六歩。最近時々見る手で、以下▲2五歩△同歩▲1七桂と進んだ実戦例がある。
ここで通常なら△2二玉だが、隠れ穴熊党の宏美女流二段は、将来の銀冠穴熊を目指しているはずだ。その場合、玉の△2二滞在時間はなるべく短いほうがよい。つまり△2三銀~△3二金~△1二香と囲いを万全にした後、玉がそそくさと穴に潜るケースが多い。
そんなわけで宏美女流二段は△2三銀を先にした。
ところが甲斐女流五段に▲6五歩と角交換を挑まれ、数手後甲斐女流五段に▲2三角~▲3四角成と馬を作られてしまった。これでは早くも宏美女流二段が劣勢で、私は天を仰いだ。まあ、ここは甲斐女流五段の開戦が機敏だった。
▲7四歩で昼食休憩。何だか甲斐女流五段が好きなように指している将棋で、手合い違いと感じる。私だったら早くも戦意喪失、投了も視野に入れているところである。
再開後、宏美女流二段は△2六歩。私にはまったく浮かばない手で、唸った。
天井のない美濃囲いはこの△2六歩が急所で、かつて米長邦雄永世棋聖が対ひねり飛車戦で、何度もこの手を指したものだ。
しかし▲6五歩△同銀▲7三歩成でと金を作られて大丈夫なのか。宏美女流二段の解答は△6四飛と浮き、これが▲3四の馬取りになる仕掛けだった。
しかし甲斐女流五段にじっと▲3五馬と引かれてみると、やはり後手が忙しい。持ち時間も、宏美女流二段ばっかり使っているような気がする。
△5六銀に▲6三と。甲斐女流五段も銀を取り返さず、飛車成を優先させる。数手後▲5二竜と迫り、これは大勢決したと思われた。
だが続く▲2一金が疑問で、△同玉▲4一竜に△3一金打が、手順に玉を固めさせてよくなかったらしい。
戻って▲2一金では▲5一竜と一手緩めるのがよかったらしい。だけどこの一瞬がいかにもさえない感じで、▲2一金の送りの手筋から幸便に▲8一竜は、こう指したくなるではないか。
しかし次の△4五角が竜取りと△2七歩成を見た好点で、何だか後手にも望みが出てきたようである。
甲斐女流五段は▲2四桂。これが先手の切り札で、△4五角がいなくなれば、後手玉が詰む。つまり後手の指し手に制約ができて、やっぱり宏美女流二段が負ける流れになっているのかと思った。
数手後甲斐女流五段は▲4五歩と角を取り、後手玉は詰めろ。この瞬間宏美女流二段も反撃に転じ、△3八と▲同玉に△4七銀打がものすごい迫力だ。
いつでも取られそうだった△5六銀が、ここではしっかり働いている。これは宏美女流二段に流れが来ていると思う。ただ、宏美女流二段はここから何かしでかしそうで怖い。
が、宏美女流二段は意外に?しっかり指し、72手目△3四角がまた好点だ。寄りそうで寄らない後手玉に、甲斐女流五段も持て余したことだろう。
ここで甲斐女流五段は▲5九金引としたが、宏美女流二段は△4五角と出て、これが王手竜取り。プロは王手飛車を掛けたほうが負けるというが、やはり勝つことが多いらしい。甲斐女流五段にとってはまったく呪わしい▲8一の竜だった。
以下ごちゃごちゃと大駒を振り替わって▲1三角成まで。次は▲1二銀までの詰めろだから、私だったら△1二銀と受けるところだが、オンナはそんな軟弱な手は指さないのである。宏美女流二段は△3四桂~△4七飛~△2五桂と決めに行った。この桂の跳躍を見よ!
▲2八玉に△2七歩。▲3八玉に△2八歩成。
これには▲2八同玉の一手だが、後手が1歩損した計算だ。だがこれが、時間がない時の手筋で、後手の2手で2分稼げる。なお後手の持ち駒が減っているから、この順を何度行っても、連続王手の千日手にはならない。
だが再度の△2七歩を甲斐女流五段は▲同玉と取り、△2六歩に投了してしまった!
?? なんでもう一度▲3八玉と逃げなかったのだろう。
たぶん甲斐女流五段は、自玉の詰み筋を読み切ってしまったのだ。▲3八玉は、△3七桂成から詰みがあるから。
しかし▲2七玉なら、△2六歩で詰みがあることを宏美女流二段は読んでいた。それを甲斐女流五段も察知し、投了したと思われた。
投了以下は▲2八玉△2七銀▲3九玉に△3八歩が利いて詰む。序盤甲斐女流五段が▲3四角成としたため、この筋に歩が利くようになったとは、何たる皮肉か。将棋にはおうおうにしてこういうケースがある。持ち時間も、最終的には両者とも使い切っていた。
いや、宏美女流二段は見事な勝利だった。どうも私が悲観したほど形勢は離れていなかったようだが、簡単に逆転できる将棋でもあるまい。わるくなっても諦めない姿勢が勝利を呼び込んだのだろう。


宏美女流二段がLPSAの代表理事に就いてから2年半になるが、それまで以上にLPSAファンと接することになり、応援を直で感じていたことと思う。
その期待に応えるには、将棋に勝つしかない。そして将棋に勝つには、将棋の勉強をするしかない。宏美女流二段の好調の影には、不断の努力があったと思う。そしてそこが、慢性的に危機感を感じていながら何の努力もせず会社を潰した私との、大きな違いだった。
宏美先生、次の対局も頑張ってください。陰ながら応援しております。
コメント
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