私は怪訝に思い、スマホで調べる。すると、熊本電鉄の始発駅は上熊本だった。JR熊本駅のひとつ隣りである。
私はJRの時刻を調べる。12時15分の列車はとっくに出ていて、次が12時48分だった。
いやしまった、と思う。このくらいの行程は、行き当たりばったりでも何とかなると思ったのだが、甘かった。前夜のうちに正確なダイヤを調べておくべきだった。
現実に戻り、上熊本にはバスで行く手もあるが、けっこう時間もかかる。結局JRを使うよりないのだった。
私はSuicaで駅に入場する。鹿児島本線の上り12時48分は2分遅れで出発し、12時53分、2分遅れで上熊本に到着した。この区間210円。つまり天神から通しで2,370円もかかったことになる。
これを天神から西鉄に乗っていれば、久留米でJRに乗り換え、上熊本着。都合1,960円で済んだ。おのが判断ミスで410円も損してしまったわけで、私は凹むばかりである。
熊本電鉄は駅舎前にホームがあり、駅員は不在。典型的なローカル線の雰囲気である。しかしこの光景自体が、もはや珍しいと思う。
構内で時刻表を見ると、次は13時20分発だった。携帯用の時刻表があったのでいただき子細に見ると。ほぼ30分ヘッドで出ており、利便性はよい。
上熊本発は北熊本から分岐し、一方は直進して御代志へ、一方は引き返す形で藤崎宮に行く。つまり熊本電鉄は、Y字型をしているのだ。
利用の際には「わくわく1dayパス」があり、熊本市電と一部バス路線が乗り放題だが、肝心の熊本電鉄が、北熊本の3つ先の堀川までしか利用できない。むろん私は全線踏破が目的なので、検討の末、ふつうに切符を購入することにした。
また上熊本には、近くに路面電車の発着場もあったが、これに乗るわけにはいかない。
熊本電鉄は、13時20分発の列車が入線した。車両のラッピングは、くまモンである。やや意外で、私は東京・旧玉川線の青ガエルのような列車が来るものと思っていた。
Suicaをタッチし乗車すると、中もくまモン一色だった。こういう列車に乗れば子供たちがよろこぶのだが、あいにく私にはその類がいない。
乗車率はけっこうよい。定刻に出発した。
列車は街中を走り可もなく不可もない光景だが、ローカル線に乗ること自体に価値がある。しかも今回初乗りとあって、私は感激を抑えきれない。
タイム9分で北熊本着。ここで何と乗り換えである。つまり御代志行きは、藤崎宮からが本線で、こちらが支線扱いなのだ。
ステンレス製の2両列車が到着した。こちらはくまモンのヘッドマークを付けているのみである。
北熊本13時31分発。タイム20分で、終着御代志に着いた(400円)。それにしても、3月に廃止になったJR三江線の三次(みよし)と同じ読みをする駅に着くとは、何かの導きかと思う。
さて乗り潰しならこの後すぐ引き返せばいいのだが、それでは味気ない。あたりを散策しようと思うが、この駅、ここで突然終着になっているのに違和を感じる。それにこの先、路盤があるじゃないか……。
それで調べてみると、かつてはこの先も線路が伸びていたことが分かった。
それが13.5km先の菊池まであった菊池線で、この区間は1986年2月15日をもって営業終了、部分廃止となっていた。
しかし菊池、菊池温泉……。あっ、3年前に玉名温泉と植木温泉に行った時、植木温泉の近くに廃線跡らしきサイクリングロードがあった。あれはこの路線だったのではあるまいか!?
何だか長年の疑問が氷解した気がして、私は頭のモヤモヤがひとつなくなった。
私は廃線跡探訪が好きで、昔はあっちこっちに繰り出したものである。今回もちょっと先に行ってみる。
廃線跡は県道に並行して走る。しかし木々がこんもりしていて、行く手を阻んでいるように思える。私は歩道から廃線跡を眺めながら歩く。
そろそろ廃線跡がスッキリしてきたが、廃線跡が一段低くなっているのと、家々が連なっているので、なかなか侵入できない。
道の反対側を見ると、前方に「うどん・五島庵」なる食堂があった。これは長崎の五島うどんを食べさせてくれるに違いない。時間も午後2時で、ちょうど腹も減っていた。暖簾が出ていたので、ありがたくそれをくぐった。
テレビ朝日で、ローカル線やローカルバスに乗って食事処に入る「帰れマンデー見っけ隊!!」という番組をやっているが、あれは私がすでに、25年以上も前からやっていることである。
ランチタイムにはすべり込みセーフで、うどん定食を頼む。うどんにミニカツ、高菜ごはんのセットである。テレビは野球中継を流していて、当然、ソフトバンクホークスVSオリックスバファローズ戦だった。でもまだ1回の攻防だった。
食事はどれも美味かった。なんだか器もシャレていて、842円でこれを味わえるのはリーズナブルである。大いに満足した。
再び廃線跡探訪に戻る。廃線跡は、沿線に住む方の生活道路として整備されている場合が多々あり、この辺りもそうだ。
家と家の間に侵入道を見つけ、侵入する。ただしこれは違法だろうから、それなりの覚悟は必要だ。
コンクリートが打たれた場所はレールが埋まっていて、かつてここに鉄路があったことを示している。私はその現役時代を想像し、ひとり感激にひたるのであった。
やや広い場所に出た。ここが大池駅跡ではなかろうか。
廃線跡探訪は、一駅ぶんを徒歩で行けば、クリアしたことにしている。よってこれでいいのだが、やや物足りないので、もう一駅くらい進むことにする。
しかししばらく歩くと巨大な公園になり、廃線跡が分からなくなってしまった。
公園に入ってみるが丘になっており、線路はこんなにカーヴしないだろうと思う。
何かのモニュメントがあり、「熊本県 シベリア抑留者慰霊碑」とあった。
県道に戻り、広い歩道を歩く。ちょっと不安になって地元のオッチャンに聞くと、ここが廃線跡、とのことだった。
そうか、廃線跡が道路に吸収されて広くなる、というのはよくあるパターンである。
沿道にはたこやき屋が営業しているが、さすがに食べる気がしない。
なおも歩くと、大きな敷地のバス乗り場があった。熊本電鉄バスの整備工場で、辻久保駅跡だ。
辺りにはバスが何台も並び、壮観である。
その先にローソンが見えたので、行ってみる。中はクーラーが効いていい気持ちだ。ガリガリ君を購入した。
この辺でそろそろ引き返そうと思う。しかし3時19分、辻久保に着くと、今まさにバスが出て行った。どう考えても御代志方面行きで、これは痛い乗り遅れではないか?
ちょっともよおしてきたので、事務所に行ってトイレを借りる。トイレは大きく、個室が4つもあった。
バス待合所には女子高生が何人かいた。そこに頭の薄いオッサンが乱入するわけにはいかないので、離れたところでボンヤリと、バスの到着を待った。
御代志方面行きバスは、定刻を6分遅れの、15時53分に出発した。乗客はそれほど多くないが、この路線は廃止にならないだろう。
15時58分、バスは御代志駅前に着いた(160円)。まさに列車の脇に横づけをする感じで、このバトンタッチは乗客の負担が少ない、と感心した。
御代志発16時11分。タイム20分で北熊本着。もちろん乗り換えはせず、さらに6分後、もうひとつの終着駅、藤崎宮に着いた(370円)。
藤崎宮駅は、11階建てのビルの1階にある、斬新な構造だった。
さて、これからどうしようか。
(つづく)
私はJRの時刻を調べる。12時15分の列車はとっくに出ていて、次が12時48分だった。
いやしまった、と思う。このくらいの行程は、行き当たりばったりでも何とかなると思ったのだが、甘かった。前夜のうちに正確なダイヤを調べておくべきだった。
現実に戻り、上熊本にはバスで行く手もあるが、けっこう時間もかかる。結局JRを使うよりないのだった。
私はSuicaで駅に入場する。鹿児島本線の上り12時48分は2分遅れで出発し、12時53分、2分遅れで上熊本に到着した。この区間210円。つまり天神から通しで2,370円もかかったことになる。
これを天神から西鉄に乗っていれば、久留米でJRに乗り換え、上熊本着。都合1,960円で済んだ。おのが判断ミスで410円も損してしまったわけで、私は凹むばかりである。
熊本電鉄は駅舎前にホームがあり、駅員は不在。典型的なローカル線の雰囲気である。しかしこの光景自体が、もはや珍しいと思う。
構内で時刻表を見ると、次は13時20分発だった。携帯用の時刻表があったのでいただき子細に見ると。ほぼ30分ヘッドで出ており、利便性はよい。
上熊本発は北熊本から分岐し、一方は直進して御代志へ、一方は引き返す形で藤崎宮に行く。つまり熊本電鉄は、Y字型をしているのだ。
利用の際には「わくわく1dayパス」があり、熊本市電と一部バス路線が乗り放題だが、肝心の熊本電鉄が、北熊本の3つ先の堀川までしか利用できない。むろん私は全線踏破が目的なので、検討の末、ふつうに切符を購入することにした。
また上熊本には、近くに路面電車の発着場もあったが、これに乗るわけにはいかない。
熊本電鉄は、13時20分発の列車が入線した。車両のラッピングは、くまモンである。やや意外で、私は東京・旧玉川線の青ガエルのような列車が来るものと思っていた。
Suicaをタッチし乗車すると、中もくまモン一色だった。こういう列車に乗れば子供たちがよろこぶのだが、あいにく私にはその類がいない。
乗車率はけっこうよい。定刻に出発した。
列車は街中を走り可もなく不可もない光景だが、ローカル線に乗ること自体に価値がある。しかも今回初乗りとあって、私は感激を抑えきれない。
タイム9分で北熊本着。ここで何と乗り換えである。つまり御代志行きは、藤崎宮からが本線で、こちらが支線扱いなのだ。
ステンレス製の2両列車が到着した。こちらはくまモンのヘッドマークを付けているのみである。
北熊本13時31分発。タイム20分で、終着御代志に着いた(400円)。それにしても、3月に廃止になったJR三江線の三次(みよし)と同じ読みをする駅に着くとは、何かの導きかと思う。
さて乗り潰しならこの後すぐ引き返せばいいのだが、それでは味気ない。あたりを散策しようと思うが、この駅、ここで突然終着になっているのに違和を感じる。それにこの先、路盤があるじゃないか……。
それで調べてみると、かつてはこの先も線路が伸びていたことが分かった。
それが13.5km先の菊池まであった菊池線で、この区間は1986年2月15日をもって営業終了、部分廃止となっていた。
しかし菊池、菊池温泉……。あっ、3年前に玉名温泉と植木温泉に行った時、植木温泉の近くに廃線跡らしきサイクリングロードがあった。あれはこの路線だったのではあるまいか!?
何だか長年の疑問が氷解した気がして、私は頭のモヤモヤがひとつなくなった。
私は廃線跡探訪が好きで、昔はあっちこっちに繰り出したものである。今回もちょっと先に行ってみる。
廃線跡は県道に並行して走る。しかし木々がこんもりしていて、行く手を阻んでいるように思える。私は歩道から廃線跡を眺めながら歩く。
そろそろ廃線跡がスッキリしてきたが、廃線跡が一段低くなっているのと、家々が連なっているので、なかなか侵入できない。
道の反対側を見ると、前方に「うどん・五島庵」なる食堂があった。これは長崎の五島うどんを食べさせてくれるに違いない。時間も午後2時で、ちょうど腹も減っていた。暖簾が出ていたので、ありがたくそれをくぐった。
テレビ朝日で、ローカル線やローカルバスに乗って食事処に入る「帰れマンデー見っけ隊!!」という番組をやっているが、あれは私がすでに、25年以上も前からやっていることである。
ランチタイムにはすべり込みセーフで、うどん定食を頼む。うどんにミニカツ、高菜ごはんのセットである。テレビは野球中継を流していて、当然、ソフトバンクホークスVSオリックスバファローズ戦だった。でもまだ1回の攻防だった。
食事はどれも美味かった。なんだか器もシャレていて、842円でこれを味わえるのはリーズナブルである。大いに満足した。
再び廃線跡探訪に戻る。廃線跡は、沿線に住む方の生活道路として整備されている場合が多々あり、この辺りもそうだ。
家と家の間に侵入道を見つけ、侵入する。ただしこれは違法だろうから、それなりの覚悟は必要だ。
コンクリートが打たれた場所はレールが埋まっていて、かつてここに鉄路があったことを示している。私はその現役時代を想像し、ひとり感激にひたるのであった。
やや広い場所に出た。ここが大池駅跡ではなかろうか。
廃線跡探訪は、一駅ぶんを徒歩で行けば、クリアしたことにしている。よってこれでいいのだが、やや物足りないので、もう一駅くらい進むことにする。
しかししばらく歩くと巨大な公園になり、廃線跡が分からなくなってしまった。
公園に入ってみるが丘になっており、線路はこんなにカーヴしないだろうと思う。
何かのモニュメントがあり、「熊本県 シベリア抑留者慰霊碑」とあった。
県道に戻り、広い歩道を歩く。ちょっと不安になって地元のオッチャンに聞くと、ここが廃線跡、とのことだった。
そうか、廃線跡が道路に吸収されて広くなる、というのはよくあるパターンである。
沿道にはたこやき屋が営業しているが、さすがに食べる気がしない。
なおも歩くと、大きな敷地のバス乗り場があった。熊本電鉄バスの整備工場で、辻久保駅跡だ。
辺りにはバスが何台も並び、壮観である。
その先にローソンが見えたので、行ってみる。中はクーラーが効いていい気持ちだ。ガリガリ君を購入した。
この辺でそろそろ引き返そうと思う。しかし3時19分、辻久保に着くと、今まさにバスが出て行った。どう考えても御代志方面行きで、これは痛い乗り遅れではないか?
ちょっともよおしてきたので、事務所に行ってトイレを借りる。トイレは大きく、個室が4つもあった。
バス待合所には女子高生が何人かいた。そこに頭の薄いオッサンが乱入するわけにはいかないので、離れたところでボンヤリと、バスの到着を待った。
御代志方面行きバスは、定刻を6分遅れの、15時53分に出発した。乗客はそれほど多くないが、この路線は廃止にならないだろう。
15時58分、バスは御代志駅前に着いた(160円)。まさに列車の脇に横づけをする感じで、このバトンタッチは乗客の負担が少ない、と感心した。
御代志発16時11分。タイム20分で北熊本着。もちろん乗り換えはせず、さらに6分後、もうひとつの終着駅、藤崎宮に着いた(370円)。
藤崎宮駅は、11階建てのビルの1階にある、斬新な構造だった。
さて、これからどうしようか。
(つづく)