19日は第80期A級順位戦5回戦の4局が行われた。4日に山崎隆之八段VS菅井竜也八段戦が一足早く行われたが、どうせなら5局まとめてやればよかったのにと思う。
さて19日の私の注目は、糸谷哲郎八段と対戦する羽生善治九段の勝敗と、無冠に転落した豊島将之九段と、対する佐藤康光九段の戦いだった。
対局は羽生九段と佐藤九段が並んで座って行われたという。これ、昭和で言えば中原誠十六世名人と米長邦雄永世棋聖が並んでいるようなもので、この圧倒的迫力は藤井聡太竜王と豊島九段でも醸し出すことはできない。
将棋は羽生VS糸谷戦が角換わり、佐藤VS豊島戦が佐藤九段の角換わり力戦向かい飛車となった。羽生VS糸谷戦は予想通り。佐藤九段は裏芸として、この力戦振り飛車が多い。相居飛車の角換わりを指しても豊島九段はあらゆる形に精通しているから、佐藤九段には得策ではない。よって今回の戦法選択は正しかった。
局面、佐藤九段は△2四歩▲同歩に△同飛!(第1図) 元気よく飛車をぶつけた。

私なら恐くて△2四同銀だが、それだと▲2三歩△同飛▲3二角△2二飛▲4一角成のような手があって指し切れないのだろう。
ただ△2四同飛も▲同飛△同銀に▲2三飛の両取りがあるが、これも彼我の陣形を鑑み、後手が指せるという判断だったのだろう。
果たして本譜は豊島九段が▲2五歩と収めた。しかしこれは△2二飛で、1歩を手持ちにした佐藤九段に不満があるはずがなかった。
局面はそこから20手ほど進む。佐藤九段の左銀が中途半端だが、互角の形勢なのだろう。

ここで佐藤九段の△4八歩(第2図)に唸った。持駒のないとき、と金製造は有力な手段で、私は1992年2月5日に指された第5期竜王戦1回戦・▲大山康晴十五世名人VS△石田和雄九段戦での▲6二歩(参考図)を思い出したのである。

将棋はその後も難しい戦いが続いたが、108手まで佐藤九段の勝ち(投了図)。△4八歩はと金に昇格し、△7八とまで動き、玉の死命を制した。げに恐ろしき垂れ歩であった。

佐藤九段は3勝2敗と白星先行。この日も勝った斎藤慎太郎八段とは2ゲーム差ながら、挑戦戦線に残った。
また豊島九段は3勝2敗で一歩後退。今年度成績も18勝19敗(19日現在)で、とうとう5割を割ってしまった。もうまともに将棋を指せる状態ではないと思うが、21日のJT杯将棋日本シリーズ決勝戦では藤井竜王に勝ち、わずかに借りを返した。今後の巻き返しに期待したい。
いっぽう羽生VS糸谷戦は、中盤まで羽生九段が優勢と言われていたが、徐々に糸谷八段が盛り返し、深夜に逆転。そのまま糸谷八段が押し切った。
元来羽生九段は「羽生マジック」と称されるほど逆転勝ちが多い上、勝ち将棋はそのまま勝っていたから、勝率もすこぶる良かった。だから逆転負けは少なかったのだが、本局は羽生九段が優勢になっても、勝ちになるまで信用できなかった。本局はその危惧が現実になってしまった。
これで羽生九段は1勝4敗。ついにA級の地位に黄信号が灯った。
それにしても恐ろしいのは、ときどきの棋士の評価である。羽生九段はタイトル99期、佐藤九段は13期と大差で、直接対決は羽生九段の110勝、佐藤九段の55勝でダブルスコア。タイトル戦に至っては羽生九段の17期、佐藤九段の4期だ。
もう勝負の決着はついたと思われたが、今年度成績に限れば羽生九段8勝14敗、佐藤九段16勝7敗(!)で、勝ちと負けが奇しくもダブルスコアになっている。ましてや佐藤九段は将棋連盟会長も務めており、将棋の勉強をする時間はない。その結果、佐藤九段の株がストップ高になり、羽生九段のそれを上回ったのである。
佐藤九段は先の王座戦挑戦者決定戦で苦杯を喫したが、棋王戦ではベスト4に残っている。ぜひ挑戦者になってもらいたい。
さて19日の私の注目は、糸谷哲郎八段と対戦する羽生善治九段の勝敗と、無冠に転落した豊島将之九段と、対する佐藤康光九段の戦いだった。
対局は羽生九段と佐藤九段が並んで座って行われたという。これ、昭和で言えば中原誠十六世名人と米長邦雄永世棋聖が並んでいるようなもので、この圧倒的迫力は藤井聡太竜王と豊島九段でも醸し出すことはできない。
将棋は羽生VS糸谷戦が角換わり、佐藤VS豊島戦が佐藤九段の角換わり力戦向かい飛車となった。羽生VS糸谷戦は予想通り。佐藤九段は裏芸として、この力戦振り飛車が多い。相居飛車の角換わりを指しても豊島九段はあらゆる形に精通しているから、佐藤九段には得策ではない。よって今回の戦法選択は正しかった。
局面、佐藤九段は△2四歩▲同歩に△同飛!(第1図) 元気よく飛車をぶつけた。

私なら恐くて△2四同銀だが、それだと▲2三歩△同飛▲3二角△2二飛▲4一角成のような手があって指し切れないのだろう。
ただ△2四同飛も▲同飛△同銀に▲2三飛の両取りがあるが、これも彼我の陣形を鑑み、後手が指せるという判断だったのだろう。
果たして本譜は豊島九段が▲2五歩と収めた。しかしこれは△2二飛で、1歩を手持ちにした佐藤九段に不満があるはずがなかった。
局面はそこから20手ほど進む。佐藤九段の左銀が中途半端だが、互角の形勢なのだろう。

ここで佐藤九段の△4八歩(第2図)に唸った。持駒のないとき、と金製造は有力な手段で、私は1992年2月5日に指された第5期竜王戦1回戦・▲大山康晴十五世名人VS△石田和雄九段戦での▲6二歩(参考図)を思い出したのである。

将棋はその後も難しい戦いが続いたが、108手まで佐藤九段の勝ち(投了図)。△4八歩はと金に昇格し、△7八とまで動き、玉の死命を制した。げに恐ろしき垂れ歩であった。

佐藤九段は3勝2敗と白星先行。この日も勝った斎藤慎太郎八段とは2ゲーム差ながら、挑戦戦線に残った。
また豊島九段は3勝2敗で一歩後退。今年度成績も18勝19敗(19日現在)で、とうとう5割を割ってしまった。もうまともに将棋を指せる状態ではないと思うが、21日のJT杯将棋日本シリーズ決勝戦では藤井竜王に勝ち、わずかに借りを返した。今後の巻き返しに期待したい。
いっぽう羽生VS糸谷戦は、中盤まで羽生九段が優勢と言われていたが、徐々に糸谷八段が盛り返し、深夜に逆転。そのまま糸谷八段が押し切った。
元来羽生九段は「羽生マジック」と称されるほど逆転勝ちが多い上、勝ち将棋はそのまま勝っていたから、勝率もすこぶる良かった。だから逆転負けは少なかったのだが、本局は羽生九段が優勢になっても、勝ちになるまで信用できなかった。本局はその危惧が現実になってしまった。
これで羽生九段は1勝4敗。ついにA級の地位に黄信号が灯った。
それにしても恐ろしいのは、ときどきの棋士の評価である。羽生九段はタイトル99期、佐藤九段は13期と大差で、直接対決は羽生九段の110勝、佐藤九段の55勝でダブルスコア。タイトル戦に至っては羽生九段の17期、佐藤九段の4期だ。
もう勝負の決着はついたと思われたが、今年度成績に限れば羽生九段8勝14敗、佐藤九段16勝7敗(!)で、勝ちと負けが奇しくもダブルスコアになっている。ましてや佐藤九段は将棋連盟会長も務めており、将棋の勉強をする時間はない。その結果、佐藤九段の株がストップ高になり、羽生九段のそれを上回ったのである。
佐藤九段は先の王座戦挑戦者決定戦で苦杯を喫したが、棋王戦ではベスト4に残っている。ぜひ挑戦者になってもらいたい。