付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「惑星間の狩人」 アーサー・K・バーンズ

2007-12-09 | 宇宙狩人・調教師
 書棚の整理をしたら、本がどこに仕舞ってあるか判らなくなりました。
 前はごちゃごちゃ山積みになっているならなっているなりに、この本は上から2列目の裏側にあるとか見当がついたのですが、棚を整理し、不要な本やダブった本は売り飛ばし、普段読まない本は梱包して押し入れに収納し、空いたスペースに平積みになっていた本を収納していったら、どこになにがあるのやら……。
 『惑星間の狩人』もつい先日までは、隣の部屋のいちばん手前の本棚の上から二段目か三段目にあったのに、英語版しか見つからないッてどーよ?

 『惑星間の狩人』はアーサー・K・バーンズのスペースオペラ。ロンドン動物園の専属として、太陽系を飛びまわる女ハンター、ゲリー・カーライルの物語。依頼された太陽系中の珍獣奇獣を捕獲せんと、宇宙船<箱舟号>で金星から彗星まで飛び回る生捕りカーライルを主人公とした連作短編ですが、この時代に主人公が女性のスペースオペラってのは珍しいし、捕獲しようとする怪物も環境も多種多様でなかなか面白い。
 まあ、ステロタイプな「勝ち気で行動的な女性」ではあるけれど、男だって同じようにステロな時代だからOK。けっこう姑息な引っかけも使うし、これはこれで良いヒロインですよ。

【惑星間の狩人】【A・K・バーンズ】【創元推理文庫】【太陽系】【動物園】
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「彩雲国物語~隣の百合は白」 

2007-12-09 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 『彩雲国物語』の外伝を収録した中編集。年末になると何故か士気が落ちて使い物にならなくなる軍のテコ入れに、急遽開催することになった武術大会の顛末を描く「恋愛指南争奪戦」、紅三兄弟の過去話「お伽噺のはじまりは」、若き日の紅黎深が都で傍若無人にして悪逆非道の限りを尽くす「地獄の沙汰も君次第」。その後日談「幸せのカタチ」だけは短編、というかエピローグ。
 いろいろ有って楽しい1冊だけれど、結局、紅三兄弟を中心に物語が回ってないかい?

【おしるこ】【恋愛】【親族殺し】【誤解】
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「電脳コイル」 NHK教育

2007-12-08 | VRMMO・ゲーム世界
 今よりも少し未来の、たぶん日本。電脳インフラが行き渡り、誰もが自覚することなく電脳を使っている世界。子供たちは電脳メガネと呼ばれるウェアラブルコンピューターを使ってインターネットに常時接続し、現実の街並とバーチャルな街並を重な合わせた世界でペットを飼ったり、ゲームをしたりしていた。
 父親の転勤で金沢から大黒市に引っ越してきた小学6年生、小此木優子は電脳ペットのデンスケが謎の電脳生物と共に壁の中へと消えていくのを目撃し、それを追ううちにコイル探偵局員と名乗る小学生フミエと知り合う。
 彼女らの前に現れ消えるのは黒い電脳生物イリーガル、そしてイリーガルの秘密について何か知っているらしい、もう1人の転校生天沢勇子だった……。


 少年ドラマシリーズの流れを汲む、視聴者である子供が見知った世界からちょっと外れたところで発生する事件を描く物語。
 『攻殻機動隊』のように「電脳空間の利用が日常茶飯事/生活の一部となった世界」で生きる少年少女を主人公に、「電脳空間の宝捜し」「廃棄データからの情報抽出」「違法改造ツール」「ハッキングによる情報戦」「闇マーケット」「記憶の植え付け」「電脳生命体」「管理者と非管理者の対立」「現実空間と電脳空間のギャップ」といった、サイバーパンクSFとかで登場したようなイベントやアイテムを一通り、「日本の子供の世界」と解釈して取り込んだ上で、「ボーイ・ミーツ・ガール」「信頼していた者の裏切り」「対立していた者たちの呉越同舟/協力体制の構築」から「さらなる真の敵の出現」と物語の王道を突き進んでいきます。もう、草薙素子が出てこないのが不思議なくらい。

 第1話から夫婦でワクワクしながら見守っていたけれど、仲間うちで一気に人気沸騰したのは第12話『ダイチ、発毛ス』、通称“ヒゲの回”から。「ヒゲ達のウワサによると紀元5550分、ヤサコ様が約束の地にお導きくださるそうです」の優子の語りから始まるこの回だけが特別にすごいわけではないのだけれど、1話完結の番外編的な作りで、しかもスラップスティック的な展開に勧めやすかったからです。
 本年度のSF映像作品としては『天元突破グレンラガン』とタメを張りますね。どっちが上になるのか。グレンラガンは決着したので、あとは電脳コイルのたたみ方を見守るだけです。(19.10/22)



 電脳コイルも終了。
 怒濤の展開で盛り上げ、キレイにすとんと落としましたね。さまざまな人やモノやシステムが内包していた問題が一気に噴出して、助けようとする者、すべて消し去り無かったことにしようとする者、問題を拡大させて破滅させようという者、さまざまな勢力のぶつかり合いの中、イサコを救おうとヤサコは崩壊しつつある電脳空間に飛び込みます。
 そしてコイルの本当の意味が明らかになり、父親は正体を明かし、ヤサコとイサコそれぞれの記憶の中に封印されていた真実が明らかになります。
 うん。やっぱりNHKのジュブナイルSFってスゴイわ。


【日常からの不思議】【電脳空間】【サイバー戦】【ヒゲ】【記憶】
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「銀河市民」 ロバート・A・ハインライン

2007-12-08 | 宇宙・スペースオペラ
 惑星サーゴンの奴隷市場で痩せこけた少年ソービーを買いとったのは年老いた乞食バスリムだった。
 バスリムに買われたソービーが気づいたのは、老人が優れた人格と知性を持ち、そしてときおり奇妙な行動を見せること。彼はいったい何者なのだろうか。そして自らの出自を探るべく、人類発祥の星である地球へと向かうのだが、そこには大きな陰謀が隠されていた……。


 この本は旧版(写真左)を持っていたのだけれど、ワールドコン2007に出かけた際に同行させた長男が「読む本が無くなった」というのでハインライン・コーナーで急遽買い与えたもの(写真右)。
 どちらも「タイトなスーツをまとった主人公の若者」「金髪の美少女」「宇宙船」とモチーフは同じなのに、刊行された時代というものを色濃く反映させている表紙だと思うね。どちらもハヤカワ文庫SF版でございます。

【銀河市民】【ロバート・A・ハインライン】【地球人】
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「バットマン~デッドホワイト」 ジョン・シャーリー

2007-12-08 | その他フィクション
 DCコミック最強のキャラクター、バットマンを主人公にした犯罪小説。暗闇の騎士バットマンにふさわしく、本のすべてが真っ黒な装幀に、ページを開いて思わずホッとした。まだ本文は白っぽい。黒をデザイン基調とした本は他にもあるけれど(新刊書棚でも1冊似たのが並んでいたけど)小さな「DeadWhite」の文字以外真っ黒なのはこれだけです☆

 大富豪ブルース・ウェインが正体を隠し、バットマンとしてゴッサムシティの悪党狩りを初めてまだ1年と少し。彼自身も承知していることだけれど、仮面のヒーローによる悪人退治は自警団による単なるリンチと変わりない。バットマン自身、警察に捕まる危険性があるのだ。
 けれども、それをしなければ仕方がないほど、ゴッサムシティは退廃していた。ギャングが横行し、人種差別主義者が武装闘争を始め、警察官は犯罪者と癒着していない者を探す方が困難だった。
 だからバットマンは戦う。しかし彼には犯罪者を逮捕することも殺すこともできないから、ただ戦い続けるしかなかった。夜の闇の中から犯罪者を静かに見つめているのだ。いつでも、いつまでも……。


 考えてみれば、スーパーマンみたいに銃弾を弾いて空を飛ぶわけでもなく、スパイダーマンみたいに蜘蛛の糸でビルの谷間を闊歩するわけでもなく、ただ車を走らせ自分の足で走り、敵を殴り倒して縛り上げる……という地味な話なんだけれどねえ。これぞ、ヒーローの原点って感じですね。

【バットマン】【人種差別主義者】
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「The MANZAI」 あさのあつこ

2007-12-07 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 とりあえず最新の4巻まで読んでみた。熱烈なファンではないけれど、なんとなく新刊書棚で見かけると買ってしまうのですね。手軽に読める厚さなので、本当に中学生向きの青春小説ですね。

 小柄な瀬田歩はとにかく目立たないように生きていきたいと思っていた。しかし新しい中学に転校し、その望みは打ち砕かれた。サッカー部の次期キャプテンと噂される秋本貴史に、放課後の駐輪場へ呼びだされたのだ。
 呼出の理由に心当たりはないものの「なぐられっぱなしだけはいやだ」と巨漢の貴史相手に覚悟を決める歩だが、彼の言葉はまったく予想外だった。これだったら意味もなく殴られた方が何倍もマシだった。
 貴史は歩とコンビを組んで漫才をやりたいというのだ……。


 イヤだイヤだといいつつその掛け合いが周囲にはウケてしまうし、話の流れですることになってしまった女装はやけに似合ってしまう。漫才コンビ結成を拒否し続けるも、いつの間にか既成事実が積み上がっていく上に、まったく意に反する三角関係の成立と、歩の御先は真っ暗。
 自分の人生を自分で決められない中学生ならではのもどかしさが良く出てます。

【漫才】【ボーイ・ミーツ・ボーイ】【中学生】【恋愛】
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「ロシアは今日も荒れ模様」 米原万里

2007-12-07 | エッセー・人文・科学
 先日亡くなられた通訳者、米原万里さんのロシアに関するエッセーとか記事をまとめたもので、時代的にはゴルバチョフからソ連が崩壊し、エリツィン(酔っぱらい加減が最高!)が大統領になったあたりまで。まだプーチンは出ていません。
 後半は真面目な社会分析みたいな話とかインタビューの比重が増えてきますが、前半はひたすらウォッカとかウォッカとかウォッカの話。民族問題とかマナーに疎い日本の政財界や文化人への皮肉もたっぷり効いていて面白いし、シェスタコービッチの話なんか涙なくしては食事中には読めません……☆
 ロシアの国民性とか社会が成立している背景についてとか、いろいろ考察してますが、これってロシア相手の外交をするにせよ経済取引を試みるにせよ基本事項。やはり読んで損はありませんでした。でもシェスタコービッチ……。

【シェスタコービッチ】【ウォッカ】
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「妖精郷の騎士」 L・スプレイグ・ディ・キャンプ&フレッチャー・プラット

2007-12-06 | 異世界転移・召喚
 世の中には自分のささやかな常識を打ち破られることが何度もあるわけですが、このハロルド・シェイのシリーズもその1つ。
 現代アメリカの大学教授たちがさまざまな神話や叙事詩の世界で冒険するという話なのですが、現実から異世界へ転送するのに使うのが、マナの力でも神の御技でもなく「論理方程式」ってところがミソですね。異世界への移行は論理的に世界構造を認識することによって成し遂げられる!ってのは……。
 主人公の心理学者ハロルド・シェイが、方程式を編み出したチャーマーズ教授や同僚ヴォッツィーらと繰り広げるドタバタ絵巻なんですが、いちばん好きなのは『妖精郷の騎士』かな。ハロルドの妻となるベルフィービーの登場する巻であり、天野さんの表紙イラストがいちばん美しい巻です。いやあ、異世界で妖精の嫁さんを見つけて連れて来ちまうってのは、どーかと思うんだけどね。
 でも、現実では社会的地位も異性からの人気も今ひとつな主人公が、異世界で意外な能力を発揮し、名声を得てモテモテになってめでたしめでたしという王道路線ではあります。

【妖精郷の騎士】【ハロルド・シェイ】【ディ・キャンプ&プラット】【ハヤカワ文庫FT】【魔法】【論理】
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「ロマンチックはままならない」 鏡貴也

2007-12-05 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 エル・ウィン武官弁護士所業務日誌の1冊目。長編シリーズの本編に対して、番外編的な短編集というのは富士見ファンタジア文庫の定番フォーマット。

 武官弁護士とは、超法規的権力を持って弱者を護り悪を裁く存在。
 スーパー・エリートであるエル・ウィンの武官弁護士事務所には、人間以外にも神やら竜やら死神やらが依頼者として訪問する。
 ミア・ラルカイルはエル・ウィンの秘書であると同時に、彼に恋する17歳の乙女でもある。といっても思うだけで言い出せずにウジウジするような少女でもなく、日夜ウィンの傍でラブアタックを続けているのだが、仕事以外のことにはすっかりさっぱり朴念仁のエル・ウィンには通じないのだった……。

 ワンダー・ラブコメ・ファンタジー短編集ということなんだけれど、自分的には今ひとつ。長編/本編の方を読んでいないせいなんだろうけれど、武官弁護士が全然弁護士をしていないというのが非常に気になるのです。それが気になるので他の部分も評価が辛くなる。
 タイトルからして職業ものなんだから、まずその職業をしっかり描いて欲しいのですね。依頼を受けて犯人を探し、見つけたら即刻退治!……って、どこの宇宙刑事か特捜司法官ですか? 特捜戦隊デカレンジャーだって敵を退治する前に宇宙最高裁判所に即決裁判の要請を出して判決が出てからだし、まして弁護士を名乗るものが……と、そのあたりが非常に気になって、気になったまま読了。

【武官弁護士】【ラブコメ】
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「我が竜を見よ外伝~秋葉原竜戦記」 海法紀光

2007-12-04 | その他SF(スコシフシギとかも)
「我が竜を見よ!」

 クライマックスでこのセリフを読んだ途端、思わず涙ぐんじゃいましたよ。とにかくカッコイイ男や女たちが竜に乗って戦う話。
 ゲームのノベライズなんだけれど、原作を知らなくても……というか原作の存在を知らなかったけど、1冊のファンタジーとして楽しんで読みました。ただ、ところどころ、「この設定や人物配置になんか意味があるのかね?」と思うような箇所があったんだけれど(なぜキリコは双子である必然性があったのかとか)、そこはゲームの方をやればわかるのかな……。

 ゲームの方は異世界を舞台にした、暴走した精霊と戦う竜使いの話らしい。オールドゲーマーにはダンジョンの広大さに泣かされた『サンサーラ・ナーガ』を連想させるストーリー。でも小説の方は、突如発生した寒波に凍結したオタクシティ秋葉原を戦場に、常人には視認できない精霊を視ることができる竜使いと遺伝子操作で生み出された竜がペアとなって戦う設定。能力があるということで否応なしに閉鎖都市アキバへ放り込まれた主人公が、一癖も二癖もある先輩竜使いたちにもまれながら、暴れ回る精霊を倒して賞金を手に入れていくのだが……という話。自分はむしろ戦車で戦う『メタルマックス』を連想しちゃいました……。

【竜】【精霊】【アキバ】
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「へびつかい座ホットライン」 ジョン・ヴァーリィ

2007-12-04 | 宇宙・スペースオペラ
「あまり人のことを知りすぎるのも、神経にこたえるものなんだ」
 キャセイの言葉。

 地球が異星人によってあっけなく占領され、人類が地球から追い出されて侵入することもままならなくなった時代。あまりに異質であるがゆえに、異星人が人類を排除すべき存在とすら認識しなかったために、人類は8つの太陽系内の惑星や衛星に新たな人類社会を築いていたという八世界シリーズの1冊にして唯一の長編。
 追い出されて無視されっぱなし。しかも手も足も出ないってのは情けない話ですが、500年も経つとそれなりに慣れてしまうようです。すぐ目の前にあっても手の届かない故郷の星ってどんなもんなんでしょうか。

 テクノロジーの発達により、クローンが普及し、外見を変え、性別を変えることがあたりまえになっていても、それゆえに遺伝子の改変は死刑に値する犯罪とされていた。このタブーを犯したばかりに生命工学者リロは死刑に処せられるのだが、地球解放主義者で元大統領のトイードによって寸前で助けられ利用されることになる……。


 性転換とかクローンとか、SF的なアイデアをこれでもかと注ぎ込んで作った異世界をあたりまえのように提示して繰り広げられる八世界の物語は、登場人物が増えたり、性別変わったりとなかなかめまぐるしい。短編集「バービーはなぜ殺される」なんか、被害者も容疑者も通りすがりの第三者もみんな同じ姿形というコロニーが舞台だし。
 ジョン・ヴァーリィはアイデアを素直に楽しむ作家ですね。

【へびつかい座ホットライン】【ジョン・ヴァーリィ】【八世界シリーズ】【クローン】【封鎖された地球】
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「串刺しヘルパーさされさん~呪われチルドレン」 木村航

2007-12-03 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 『串刺しヘルパーさされさん~呪われチルドレン』……このC級ホラーが裸足で逃げ出しそうなタイトルだけで勝ったも同然ですね!

 呪いとか祝福みたいな現象が普通に存在すると認識されているだけで、あとは普通の現代日本。理由不明なまま呪われた江戸っ子娘がホームヘルパーとして、同じく呪われた姉弟のいる家庭へやってくるという話。
そう、想像してみてください。べらんめえ口調のメリー・ポピンズが、傘を手に持つ代わりに腹から背中に大きな呪いの剣を突き刺したまま自転車で走ってくるところを……って無理か☆

 根っこの所に重いテーマを据えたまま、キャラクターたちはそんな舞台裏なんか関係ないよとばかり軽快なテンポで物語が進む木村節は健在。展開している話はごく普通の「両親が不在がちの家庭で異母姉弟たちが問題を抱えながら生きているところへやって来た家政婦が、少しずつ心のわだかまりを溶かしていき家族や友人たちとの絆を深めていく」という王道パターンのはずなのに、どこか変で面白い。
 欲を言えば、もう少し「さされさん」と「剣」を中心にしたエピソードが欲しかったですね。プロローグ以後、呪いの剣が「呪われている」という表現記号に落ち着いてしまっている感じがします。せっかく腹から背中に大剣が突き出ているのですから、良い感じに話がまとまりかけているところをぶち壊すツールとして使えるはずだと、ちょっと残念。すっかり慣れているはずだけど、ここ一番というときに「泣きながら追いかけてきた相手を振り向いて受け止めようとした途端に剣の鞘で殴り飛ばしてしまった」とか落としどころはあるんじゃないかな……。

【ホームヘルパー】【串刺し】【呪い】【祝福】
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「海軍肉じゃが物語」 高森直史

2007-12-02 | 食・料理
 肉じゃがを中心に、海軍における食の変遷をあちこち飛びながら語ったもの。
 面白いけど、1冊の本として読むとちょっとくどいかもしれません。
 用語の扱いとか、同じことを何回も繰り返すのは雑誌や新聞の連載コラムとして読む時は重宝だけれど、まとめて読むときにはうざったい。「それについては後で」と話があちこち脱線しかけて、ネタを振るだけ振ってお預け。それが本論に入った時も、少しかじってまた別の話題へと……なんか構成がおかしい。ゴッホから「男たちの大和」まで話がいろいろ飛ぶので、講演で話を聞くと絶対面白いし、パラパラつまみ読みするにはいいけれどなあ……。
 ……編集者が何か言ってやりなさいよ……。
 ときどきつまみ読みするには面白い本ですね。

【海軍肉じゃが物語】【高森直史】【海軍】【肉じゃが】
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「ヨコハマ買い出し紀行」 芦奈野ひとし

2007-12-02 | 破滅SF・侵略・新世界
 『ヨコハマ買い出し紀行』も連載開始から12年で完結……。しかし良い意味でも悪い意味でも、いつ終わっても良かったような最終回ですねえ。とくに大事件が起こるわけでなく、ただ昨日の続きの今日が来て、今日の続きの明日になるのですね。

「地上はますます静かになっている。また、いくつかの街の灯が消えてしまった」

 のんびり喫茶店の店番をしているアンドロイドのアルファさんを主人公にした、彼女の周囲で流れる日常生活のスケッチ集。静かな滅び? 人類の黄昏? 人々は今も会社へ通い、喫茶店に顔を出し、海で遊びます。そんなありきたりの毎日がすごく貴重に思えてしまうのは、その周囲に見え隠れする世界から人の姿が消えつつあるから。
 沿岸部の都市は既に水没して長く、道は次第に荒れ果てて行き交う人もまばらになり、住宅街からは家並みが消え、ただ草が覆い繁るばかり。


 「のちに夕凪の時代と呼ばれる」そうだから、もしかしたらこの先も人類は存続するのかもしれないけれど、衛星軌道から人類を見下ろす目も決して賑やかな世界には見えず、それだからこそ優しい人と人のふれあう姿が貴重なのですね。

【海面上昇】【人類の黄昏】【アンドロイド】【喫茶店】
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「老人と宇宙」 ジョン・スコルジー

2007-12-01 | ミリタリーSF・未来戦記
 地球人は宇宙から閉め出されていた。
 唯一の宇宙への道である軌道エレベーターはコロニー防衛軍CDFの管理下にあり、地球人が宇宙へ出るためには地球国籍を捨て、書類上の死人としてCDFに入隊し、二度と地球へは帰れないまま最低2年最大10年の軍務を勤め上げる必要があった。そして志願資格が与えられる年齢は75歳。
 しかしそれでもCDFに志願しようとする者は後を絶たなかった。
 その秘密は、入隊後に志願者に与えられるという「軍務に耐えられる若い肉体」にあった。もとは同じ地球人でありながら、宇宙植民者たちは地球では数世代では追いつけないほどの技術を手に入れていたのだ。
 最愛の妻と死に別れたジョン・ペリーはCDFに入隊し、そこで同じような老人たちと出会い、オイボレ団を結成。そして新たな肉体を得て軍務に付くことになる。生存率25%という異星人たちとの戦いの場へと送り出されるのだ。


「いついかなるときも、心はオイボレ団とともに。見てろよ、宇宙」

 ……ということで、『老人と宇宙』はバリバリのミリタリーSFです。
 訓練施設に入るまでで1/3。実戦部隊に配備されるまでで半分。あとは種々雑多な敵との戦いが描かれていくことになります。
 うん。確かに主人公は75歳の老人でなければいけませんね。みんなが若返った肉体に浮かれ騒ぐ辺りは映画『コクーン』をもっと赤裸々に描いた感じ。それから異星人や反乱者たちとの戦いやら、幽霊部隊との遭遇とか、仲間との別れとか、なかなかテンポ良く進んで面白いですね。帯には21世紀版『宇宙の戦士』とか書いてありますけど、パワードスーツは出てきません☆
 ツッコミどころはあるけどね、面白かったよ。続きが読みたくなるくらい。

【老人と宇宙】【ジョン・スコルジー】【異星人】【戦争】【若返り】【幽霊】
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