筑紫哲也さんが、肺がんの治療のため、番組を一時降板されるという。しっかり直してもらいたい。ただ、一日60本のヘビースモーカーだったというから、やや無防備だった感もある。そういえば、昔オペラを見に行った時に、お見かけしたこともあったっけ。
たまたま、日本の癌研究の第一人者である関谷剛男さんの講演を聴く機会があった。癌発生のメカニズムを、わかりやすく説明いただいた。
癌で亡くなられた方が身近にいる人がほとんどだと思う。皆の関心も高い。そこで、この講演で、得た知識の一部をご披露する。一部勘違いもあるかもしれないが、その時は、ごめん。
1、日本の癌研究が本格したのは、1960年代。当時は、どこから手をつけていいかわからない状況だった。癌を増殖させるトランスフォーミング遺伝子が発見されたのは、何と1980年代(ついこの前)。研究の歴史は、まだまだ浅い。
2、日本で、癌による死亡は、死亡原因の1/3に上るが、その発生箇所は、性別で異なり、男が肺胃肝、女が大腸胃肺の順。要するにどこのDNAが傷ついたかで、癌の発生場所も異なる。
3、癌の原因を一言で言えば、DNAに傷がつくこと。人間のDNAは、30億個(最近、全てが解読された)の塩基対(AGCTの組み合わせ)でできており、その組み合わせが、活性酸素、紫外線、放射能、化学化合物(発ガン物質)などにより、変わったり、途切れたり、隣の塩基と合体したり、対になっている相手の塩基が変わったりすることにより、癌の元が発生する。たった(30億分の)一箇所でも、癌の元になる。これが、どの程度まで、増えると制御不能になるかは、まだ解明されていない。
4、この癌の元になる遺伝子は、数百種類発見されている。ただし、これが発生しても、すぐ癌になるわけではなく、酵素の働きにより、癌増殖はある程度抑えられる。逆に、細胞増殖を抑える遺伝子も数百種類発見されており、これが、壊れて、通常の細胞分裂が制御できなくなり、癌になることもある。
つまり、癌になるのは、アクセルをふみっ放しで、細胞増殖が止まらなくなるのが原因であるケースと、ブレーキが壊れて、細胞増殖の制御ができなくなるのが原因であるケースがある。
DNAが傷つき、アクセルが壊れて踏みっぱなしになるか、ブレーキが壊れて制御不能になることにより、細胞分裂の制御が効かなくなると、癌になる。
5、人は、皆、癌になる可能性を持っている(言い換えれば、人は、いつかは必ず癌になる)が、遺伝性の癌の人は、生まれた時から、癌になる可能性が高く、天寿を全うする前に、癌を発症する確率が高い。でも、必ず発症するわけではない。
一方、癌に対する耐性が強い体質の人もいる。これは、酒に強い人と弱い人がいるのと同じ理屈(エタノール(=酒)を酢酸に変えるアセトアルデヒドをどれだけ多く、持っているかの差)。筑紫さんは、自分は、耐性が強いと信じていらっしゃったそうだ。
年を経るに従い、癌になる可能性は、様々な外的要因が加わっていくため、加速度的に高まる。近時、癌による死亡率が高まったのは、長寿の人が増えたためと言える。だから、我々が成すべきは、癌になるのを遅らせて、その前に天寿を全うすること。
6、天寿を全うするためのTIPS
①バランスのとれた栄養をとる。
②毎日変化のある食事をとる。
③食べすぎを避け、脂肪を控えめに。
④お酒はほどほどに。
⑤タバコはすわない。発ガン物質が、50種類以上含まれている。
⑥適量のビタミン、繊維性食物を摂る。
⑦塩辛いもの、あまり熱いものは、避ける。
⑧こげた部分は、食べない。
⑨カビの生えたものは食べない。
⑩日光に当たり過ぎない。
⑪適度にスポーツする。
⑫体を清潔に。
言い古されたことのようだが、全て科学的裏づけがある。
7、現在は、まだ癌の特効薬は見つかっていない。効果の高い特効薬はあるが、副作用が強すぎて、なかなか実用性の高い特効薬にならない。現在、一番有効なのは、早期発見により、外科的に、小さな内に癌を取り除いてしまうこと。
ストレスが高いと、癌になるというが、これは、癌細胞の増殖を抑える酵素の働きが落ちるためで、DNAが傷つき癌の元ができることとは関係ない。癌になりやすい遺伝性のDNAがあるかどうかは、調べればわかるが、可能性が高いということで、必ず癌になるわけではない。
ちょっと長くなったが、要するに、癌の発生するメカニズムは解明されてきたものの、まだ、特効薬はなく、我々が成すべきは、日ごろ気をつけて、天寿を全うする前に、癌が発生しないようにすることと、万一発生した時は、早期発見により、外科的に取り除いてしまうことということのようだ。