卸売市場のあり方について、 藤島廣二氏(東京農業大学国際食料情報学部教授)が、平成二十二年五月十七日(月曜日)開催の都議会 東京都中央卸売市場築地市場の移転・再整備に関する特別委員会に参考人で招かれて、話されています。
非常に参考になるお話であり、こちらでも掲載します。下線や太字は、小坂の判断でつけました。
規制緩和により失われつつある卸売市場のかつてあった意義・重要性をあらためて述べられているように私は感じます。
結局、三国氏の述べる卸売市場のあり方・方向性と通じていると思います。
****都議会 ホームページより*****
http://www.gikai.metro.tokyo.jp/record/market/009.html
〇藤島参考人 どうぞよろしくお願いいたします。
私は本日、卸売市場の現状と今後のあり方ということでお話しさせていただきたいと思っております。お手元の資料を見ていただきながらお聞きいただければと思っております。
まず、卸売市場についてでございますが、卸売市場の社会的役割というのはどういったところにあるんだろうかという点からお話しさせていただきたいと思います。
この卸売市場の社会的役割につきましては、これはいろいろなことがいえるかとは思うんですが、そこに挙げましたような七点が主なものだというふうに考えております。
第一番目は、流通コストの縮減ということでございます。よく卸売市場などが入りますと流通コストがふえるのではないか、価格が高くなるのではないかということがよくいわれております。しかし、実際には、卸売市場があることによって価格が安くなっている。都民の皆様あるいは国民の皆様、消費者の方々により安い価格で提供できているというふうに私は考えております。
その根拠は何なのかと申しますと、例えば消費者の方々は直接生産者から購入することは十分にできます。現に直売所あるいは宅配便を利用して購入されている方々もいらっしゃいます。しかし、そういった直売所の利用あるいは宅配便の利用が日常的に行われているかどうか。決して行われておりません。それよりも卸売市場を経由して小売店で販売されているものを日常的に購入されている。
それはなぜなのか。消費者の方々が愚かだからなのか。いや、決してそうではありません。消費者の方々は日々、日常的に物を買うときには、小売店で購入した方がコストが安いということを体験から知っているからです。ということは、そういった事実からもおわかりいただけますように、卸売市場を通すということはコストの縮減につながっているんですよと。そのことを説明している図が、これはよく用いられる図なんですけれども、その下の図1の1ということになります。
例えばここのところで、これはメーカーと小売店ということになっておりますが、生産者と消費者というふうにお考えいただいてもよろしいかと思いますが、直接に取引をしますと、取引回数は、業者が三名ずつであれば、三掛ける三で九回になります。ところが、中間に卸売業者が入りますと、これは掛け算ではなくて足し算になるということで、取引回数が減ってくる。取引回数が減れば、そこにございますように、交渉回数も減りますし、あるいは伝票等のさまざまな事務用品も減りますし、当然、輸送コストも減っております。そして、この輸送コストが縮減するというのは非常に重要でございます。
個々の消費者が購入されるということになりますと、輸送コストはキロ当たりで見ますとかなり膨大なものになります。ご存じですように、宅配便を利用されるということになりますと、山梨県から高級ブドウを東京都の方が購入されるということになりますと、一ケースで、場合によりますと、宅配便料は五百円ぐらい、一ケース五百グラムぐらいの高級品で、五百円あるいは六百円かかるだろうと思います。ということは、一キロ当たり何と千円とか千円以上かかっていると。
ところが、卸売市場等が十トン車で九州から運んでくる、あるいは北海道から運んでくるということになりましても、これは冷蔵機能つきでありましても、一キログラム当たりわずかに三十数円から四十円ほどで済んでいるわけです。コストが全然違うんです。
実際、これはさらに国際的に考えても、実は輸入を考えてみましても、輸入の方がコストが安いということもあります。例えば中国の青島港から東京港に四十フィートコンテナ、リーファーコンテナで物を運ぶと幾らかかるのかといいますと、わずかにキロ十円ぐらいで済んでしまう。もちろん着いてから荷おろしをしなければならない、あるいは東京都内まで運ばなければならないということがありますから、キロ二十円ぐらいにはなるんですけれども、この輸送費というのは、どれだけの大量の荷物を運ぶかによってコストが全然違ってくるということがございます。そういうようなことから、大量に荷扱いのできる卸売市場を通ると、当然、流通コストが縮減できるということでございます。
そして、いうまでもありませんけれども、卸売市場の場合には、非常に多様な品ぞろえができるという特性がございます。これは、どうしてそういうことができるのかといいますと、卸売市場の場合は、だれもが出荷できる。契約取引であれば、特定の人としか取引ができないわけですけれども、卸売市場の場合は、だれもが出荷できる。自分でつくったものがあれば、それを出荷できます。また、輸入したものがあれば、それを出荷できるということで、非常に卸売市場は多様な物をそろえられる能力が高いということでございます。
そしてさらに、日々の需給調整ということに関しましても、卸売市場は非常に高い能力を持っております。これは、ここにいらっしゃる方々はご存じのことだろうと思いますけれども、市場外流通が実は需給調整を卸売市場に依存した形で行っていると。契約取引で数量が決まっているようなとき、もし、より多くできたならば、より多くできたものを市場に出荷します。あるいは、足りなければ市場から購入してくるという形で、市場外流通の場合は、需給調整は卸売市場を利用してやるということからもおわかりいただけますように、卸売市場の需給調整機能というのは非常に高いところがございます。
また、商品価値、これについても、よく目ききという言葉がございますけれども、卸売市場の担当者の方々、担当者といいますか、卸売会社の人々ないし仲卸業者の人々というのは、これは専門家ですから、価値を十分に判断できるというところがございます。ですから、その価値に応じた価格を形成することができる。我々ですと価値を十分に判断することは難しいところがございますので、価値のより低いものを価値の高いものよりも高く購入するということが多々あり得るわけですが、卸売市場の方たちは、そのようなことはほとんどないであろうというふうに考えられます。そういった点からも、商品価値に応じた価格形成能力がある。
また、代金決済につきましては、ご存じですように、卸売市場の場合は三日から一週間程度の代金決済が可能です。これが、量販店等との取引になりますと、三十日前後というのが一般的だというふうにいわれております。
そしてさらに、卸売市場の場合は、生産者の方々あるいは輸入業者の方々の販売先、出荷先として非常に重要な機能も果たしている。自分たちがつくったものはいつでも販売できる。卸売市場でいつでも売ることができる。もし契約取引であれば、自分ができたからといって簡単に販売することはできないわけですけれども、卸売市場の場合はそれが可能だということでございます。
そしてさらに、小売業者といいますか、仕入れる側にしてもそのとおりでございます。仕入れる側の方は、卸売市場があれば、そこからいつでも仕入れることができます。これが、もしも量販店の集配センターが近くにあったからといって、そこからその系列以外の小売業者が仕入れられるかというと決してそうではありません。卸売市場があれば、いってみれば、小売業務を行うだけの資本があればいつでも小売業務を行うことができる。ところが、もしも卸売市場がなければ、卸売業務もできるような資本がなければ小売業務ができないということでございます。
そのようなことで、日本では、卸売市場があることによって小売店の寡占化が進んでおりません。非常に自由な競争が行われているということでございます。
実は三月にオーストラリアに行ってきたんですが、オーストラリアでは現在、二つの小売チェーンがシェア七〇%というふうにいわれています。そこのところで聞いた話としては、生産者の方たちは非常に安く買いたたかれている。消費者の方たちは高い物を買わされているという不満が非常に強いということでございました。日本はそういうことがないということでございます。
そういったようなことで、非常に卸売市場としては重要な機能を果たしているだろうと。そういった卸売市場を、公共的といいますか、あるいは公的な支援を行うということが行われているわけでございます。東京都の場合もまさにそのとおりですが、じゃ、なぜそういった公的支援あるいは公共性ということがいわれるのかということでございますけれども、それにつきましては、次のところにございますように、これも幾つかの理由があろうかと思いますが、主なものとしてはそこに挙げたようなものがいえるのではなかろうかと思っております。
一つは、卸売市場で取り扱う品目というのは、ご存じですように、生鮮品が中心でございますが、これは日々の必需品でございます。しかも、必需品であるにもかかわらず、需給は非常に不安定です。これは、生産の方でいえば、例えばきょう台風が来ると全くとれないということがございますが、消費側においても非常に需要量は不安定です。例えば、よくいわれることですが、十月ないし十一月に温度が二十度を上回るか下回るかでもって白菜の需要量が全く違いますよと。温度が二十度を上回っていると白菜の需要量は一店舗でわずか一ケースです。一店舗で一ケースしか売れないということなんですけれども、それが温度が二十度を下回ると、なべ需要などが急に出るものですから、一気に十倍の十ケースも売れてしまう、需要量が十倍になってしまう。それほど需要量も大きく変動している。
そういうふうに、需給が大きく変動するということは、それを扱って商売をするということでありますと、リスクが大きいということでございます。余ればだめになりますし、足りなければ、これまたいろいろと問題が出てくるということがございますから、非常にリスクの大きい商売をしている。そのため、そういったところを、何らかの形でそのリスクに対応できる仕組みをつくっていこうということで公的な支援が行われている。それはもう既に江戸時代に、神田であれ日本橋であれ、そういったところが幕府によって支援されていたのと同じだということであろうかと思っております。
それから、二つ目でございますけれども、生鮮品が中心ですから、それらは非常に劣化が激しい、腐敗しやすい。当然、衛生的な問題が出てくる。となりますと、これは公的に規制をするということも必要になってきます。あるいは、そういう衛生問題を起こさないために公的に支援するということも必要になってくる。そういった意味で、公共性あるいは公的支援の必要性が出てくる。
もちろん、三つ目に書きましたように、利用者が全国に分散している。生産者が全国に分散しておりますし、消費者も全国に分散している。そういった利用者の方々が、必要なときに必要に応じて利用できるということで、非常にこれは、卸売市場というのは便利なものになっている。消費者の方々、生産者の方々にとって非常に便利なものであるという意味で、公共性があるんだということでございます。
また、消費地の問題もございますけれども、申しわけありませんが、ちょっと時間の関係でそこは省かせていただきます。
こういった卸売市場の役割、機能ないしその公共性、あるいは公的支援の必要性ということがいえるわけでございますけれども、その卸売市場が現在どういった状況にあるのか、どういった環境の変化があるのかということを簡単にご説明申し上げます。
まず一つは、卸売市場を取り巻く環境の変化ということでございますけれども、その一つといたしましては、流通のグローバル化が進んでいるということでございます。流通のグローバル化ということは、我々日本側から見ると、輸出ということもありますけれども、中心は輸入でございます。その輸入が急速にふえ出したのが、下の図にございますように、一九九〇年代の中ごろ以降でございます。それ以前から小麦、大豆はそれなりの輸入量はあるんですけれども、食料品全般の輸入が進むのが一九八〇年代中ごろからです。これは、いうまでもなく円高の影響によるものです。
そして、食料品だけではなく、次にもありますように、卸売市場で取り扱っている花き類についても、次の図にございますように、やはり一九八〇年代の半ば以降、非常に輸入がふえております。いずれにしろ、このような形でもって流通の国際化、グローバル化というのが現在かなり大幅に進んでいるんだということでございます。
そして、二つ目といたしましては、供給過剰傾向が強まっているということでございます。供給過剰傾向というのは、消費量が減っているということからもいえるんですが、それよりは、例えば図2の2の2というところを見ていただきたいと思いますが、ここのところで供給熱量と摂取熱量というのを出してございます。摂取熱量というのは、申し上げるまでもなく、口の中に入る分でございます。供給熱量というのは、口の中に入る分プラスアルファ、ごみなどとして捨てる部分も含んでいるということでございますが、その供給熱量と摂取熱量の動きを見ていただきますと、摂取熱量というのは一九七〇年代以降、一貫して減少してきている。最近は供給熱量も減少はしておりますけれども、摂取熱量に対する供給熱利用の多い差がどの程度なのかというのを見ているのが図2の2の3でございます。
そこのところを見ていただきますと、一九七〇年には、供給熱量は摂取熱量に対してわずか一二、三%ほどの多い差でしかなかったんですが、現在は三五%前後の多い差になっている。つまり、現在は一九七〇年前後と比べると、かなり供給過剰になってきている。豊かさといいますか、社会が豊かになってきたから、ある意味では供給過剰になるというのは、これは必然的なのかもしれませんが、いずれにしても供給過剰傾向になると。
そして、供給過剰傾向になっているということはどういうことなのかというと、価格が上がらないということでございます。そのことを示しているのが図2の2の4あるいは図2の2の5ということになります。
どちらかというと図2の2の5の方がご理解いただきやすいかと思いますので、そちらの方を見ていただきたいと思いますけれども、これを見ていただきますと、レタスの値段、月の平均単価でございますけれども、このレタスの値段は、一九八〇年代末ごろも現在においても、安いときの価格というのはほとんど変わっていないんです。しかし、高いときの価格というのが、これを見ていただくと、どんどん低下してきているというのがおわかりいただけるかと思います。もちろん一九九八年の十二月前後でありますとか、二〇〇〇年末前後のようなときには、レタスの供給量が急に減っておりますので、価格は高騰しておりますけれども、そういったところを除きますと、高いときの価格がどんどん減ってきている。つまり、安いときの価格に収れんするような形で動いてきているというのをご理解いただけるかと思います。
いずれしましても、そのような形で供給過剰傾向が強まってきている中で、価格は低位なところに収れん化する傾向が強まってきている。つまり、低い価格が、いってみれば普通の価格になりつつある。そのこと自体は、消費者の方々から見れば、生活の豊かさにつながりますから、決して悪いことではありません。しかし、生産者の方々にとってみると、これは大変なことだということになろうかと考えております。
三つ目の変化でございますが、これはいうまでもなく、高齢化ということでございます。ここにいらっしゃる方々は、既にそのことについてはよくご存じのことですので、私が申し上げるまでもないことなんですけれども、その高齢化によってどのようなことが起きているのかと申しますと、図2の3の4の次あたりのところを、ちょっと整理してあるところを見ていただきたいと思いますけれども、高齢化の中で、人口が減少しているということもあるんですが、そうした中で消費量が減ってきている、さらに減るという傾向が強まっておりますから、先ほど見ていただいた供給過剰傾向、価格の低位収れん化ということは今後も続くだろうというふうに考えて間違いないだろうと。
そしてまた、高齢化が進んできますと、やはり女性の方々が仕事につかれる割合がふえてくる。そういった方々が仕事につかれる割合がふえてきますと、加工食品でありますとか、中食、外食がふえてくるということがいえるかと思います。
特に、例えば図2の3の4のところに戻っていただきたいんですけれども、これは私どものところで、イトーヨーカ堂さんの大井町店で調査させていただいたものなんですが、そこのところを見ていただくとおわかりいただけますように、外食の利用というのは、男の方たちの場合ですと五十代がピークで、その後急速に減っています。つまり、仕事をやめられると外食の利用頻度というのは減るんだと。また、女性の方は二十代が一番高くて、その後減っております。かつては女性の方は二十代で仕事につかれていて、その後、結婚等でやめられるということがあったものですから、このようなことになっていたと思うんですけれども、中食の方は、これを見ていただくとおわかりいただけますように、年代が高くなるにつれて利用頻度が高くなってきている。
つまり、高齢化というのはそういった意味で、中食の利用、外食もこれからはふえてくるだろうと思うんですけれども、そういった利用あるいは加工食品の利用がふえてくるということになってくるだろうというふうに考えております。
そしてさらに、卸売市場の変化の四つ目といたしましては、卸売市場法の改正ということでございます。この改正につきましては、もう既にここにいらっしゃる方々は十分ご存じのことですので、その要点だけをお話しさせていただきたいと思います。
コペルニクス的転回というふうに書いてあるところなんですけれども、そこのところに四点ほどまとめてございます。この四点が大きく変わった点でございます。一つは、委託、競り原則が撤廃されてしまったと。従来、卸売市場といいますと、委託、競り原則ということになっていたんですが、これが一九九九年、二〇〇四年の改正によって撤廃されております。
また、二つ目といたしましては、ご存じですように、公定手数料制度が廃止されております。これは国の方で野菜八・五、果実七、水産五・五というような形で、大まかにといいますか、全国一律に決めていたわけでございますが、これが廃止されております。
そしてさらに、固定販路制度といいますか、卸売市場においては、卸売業者が仲卸業者に販売し、仲卸業者がさらに一般小売店に販売するんですよというような意味での販路の固定化というのがある程度あったんですが、それも廃止されている。
また、四つ目といたしましては、中央卸売市場から地方卸売市場の転換が認められるようになった。従来、卸売市場の整備といいますと、これは地方卸売市場を整理して中央卸売市場をつくり出すというのが卸売市場の整備のあり方だったんですが、二回の卸売市場法の改正を契機にして、これが全く変わってしまったということでございます。このようなことで、卸売市場制度は、従来とはある意味では全く異質のものに変わってきております。