「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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遺伝子治療に関連した司法試験憲法学論述問題(H21)、医療関係者の皆様、如何に考えますか?

2013-12-18 23:00:00 | 医療
 遺伝子治療に関連した、司法試験 憲法学の論述問題です。

 医療分野では、日常問題となる悩ましい点が、出題されています。


 


********法務省ホームページより******************************
http://www.moj.go.jp/content/000006454.pdf

〔第1問〕(配点:100)

遺伝子は,細胞を作るためのタンパク質の設計図である。人間には約2万5000個の遺伝子が
あると推測されている。遺伝情報は,子孫に受け継がれ得る情報で,個人の遺伝的特質及び体質を
示すものであるが,その基になる遺伝子に係る情報は,当該個人にとって極めて機微に係る情報で
ある。遺伝子には,すべての人間に共通な生存に不可欠な部分と,個人にオリジナルの部分とがあ
る。もし生存に不可欠な遺伝子が異常になると,細胞や体の働きが損なわれるので,その個体は病
気になることもある。既に多数の遺伝子疾患が知られており,また,高血圧などの生活習慣病や癌,
そして神経難病なども遺伝子の影響を受けることが解明されつつある。

遺伝子治療とは,生命活動の根幹である遺伝子を制御する治療法であり,正常な遺伝子を細胞に
補ったり,遺伝子の欠陥を修復・修正することで病気を治療する手法である。遺伝子治療の実用化
のためには,動物実験の次の段階として,人間を対象とした臨床研究も必要である。遺伝子治療に
おいては,まず,当該疾患をもたらしている遺伝子の異常がどこで起こっているかなどについて調
べる必要がある。それを確定するためには,遺伝にかかわるので,本人だけではなく,家族の遺伝
子も検査する必要がある。遺伝子治療は,難病の治癒のための新たな可能性を有する治療法ではあ
るが,安全性という点でなお不十分な面があるし,未知の部分もある。例えば,治療用の正常な遺
伝子の導入が適切に行われないと,癌抑制遺伝子等の有益な遺伝子を壊すことがある。さらに,遺
伝子という生命の根幹にかかわる点で,遺伝子治療によって「生命の有り様」を人間が変えること
にもなり得るなど,遺伝子治療それ自体をめぐって様々なレベルで議論されている。
【注:本問では,遺伝子治療に関する知見は以上の記述を前提とすること。】


政府は,遺伝子を人為的に組み換えたり,それを生殖細胞に移入したりして操作することには人
間を改造する危険性もあるが,研究活動は研究者の自由な発想を重視して本来自由に行われるべき
であることを考慮し,研究者の自主性や倫理観を尊重した柔軟な規制の形態が望ましいとして,罰
則を伴った法律による規制という方式を採らなかった。2002年に,文部科学省及び厚生労働省
が共同して,制裁規定を一切含まない「遺伝子治療臨床研究に関する指針」(2004年に全部改正
され,2008年に一部改正された【参考資料1】。以下「本指針」という。)を制定した。こうし
て,遺伝子治療の臨床研究(以下「遺伝子治療臨床研究」という。)について研究者が遵守すべき指
針が定められ,大学や研究所に設置される審査委員会で審査・承認を受けた後,さらに文部科学省
・厚生労働省で審査・承認されて研究が行われている。


2009年に,国立大学法人A大学医学部B教授らのグループによる遺伝子治療臨床研究におい
て,被験者が一人死亡する事故が起きた。また,遺伝子に係る情報の漏洩事件も複数起きた。そこ
で,同年,Y県立大学医学部は,「審査委員会規則」を改正し,専門機関としてより高度の倫理性と
責任性を持つべきであるとして,遺伝子治療臨床研究によって重大な事態が生じたときには当該研
究の中止を命ずることができるようにした【参考資料2】。さらに,同医学部は,「遺伝子情報保護
規則」【参考資料3】を新たに定め,匿名化(その個人情報から個人を識別する情報の全部又は一部
を取り除き,代わりに当該個人情報の提供者とかかわりのない符号又は番号を付すことをいう。)さ
れておらず,特定の個人と結び付いた形で保持されている遺伝子に係る情報について規律した。当
該規則は,本人の求めがある場合でも,「遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報」以
外の開示を禁止している。その理由は,すべての遺伝子に係る情報を開示することが本人に与える
マイナスの影響を考慮したからである。また,当該規則は,被験者ばかりでなく,遺伝子検査・診
断を受けたすべての人の遺伝子に係る情報を第三者に開示することを禁止している。その理由は,
その開示によって生じるかもしれない様々な問題の発生等を考慮したからである。


Y県立大学医学部の,X教授を代表者とする遺伝子治療臨床研究グループは,2003年以来難
病性疾患に関する従来の治療法の問題点を解決する新規治療法の開発を目的として,動物による実
験を行ってきた。201※年に,X教授のグループは,X教授を総括責任者とし,本指針が定める
手続に従って,遺伝子治療臨床研究(以下「本研究」という。)を実施することの承認を受けた。X
教授は,難病治療のために来院したCを診断したところ,Cの難病の原因は遺伝子に関係する可能
性が極めて高いと判断した。Cは成人であるので,X教授は,Cの同意を得てその遺伝子を検査し
た。さらに,X教授はCに,家族全員(父,母,兄及び姉)の遺伝子も検査する必要があることを
説明し,その家族4人からそれぞれ同意を得た上で,4人の遺伝子も検査した。その結果,Cの難
病が遺伝子の異常によるものであることが判明した。X教授は,動物実験で有効であった遺伝子治
療法の被験者としてCが適切であると考え,Cに対し,遺伝子治療を行う必要性等,本指針が定め
る説明をすべて行った。説明を受けた後,Cは,本研究の被験者となることを受諾する条件として,
自己ばかりでなくその家族4人の遺伝子に係るすべての情報の開示をX教授に求めた。X教授は,
Cの求めに応じて,C以外の家族4人の同意を得ずに,C自身及びその家族4人の遺伝子に係るす
べての情報をCに伝えた。Cは,本研究の被験者になることに同意する文書を提出した。
Cを被験者とする本研究が実施されたが,その過程で全く予測し得なかった問題が生じ,Cは重
体に陥り,そのため,Cに対する本研究は続けることができなくなった(その後,Cは回復した。)。
Y県立大学医学部長は,定められた手続に従い慎重に審査した上で,X教授らによる本研究の中
止を命じた。その後,この問題を契機として調査したところ,「遺伝子情報保護規則」に違反する行
為が明らかとなった。任命権者である学長は,X教授によるCへのC自身及びその家族4人の遺伝
子に係る情報の開示が「遺伝子情報保護規則」に違反していることを理由に,X教授を1か月の停
職処分に処した。


〔設問1〕
X教授は,本研究の中止命令(注:行政組織内部の職務命令自体の処分性については,本問で
は処分性があるものとする。)の取消しを求めて訴訟を提起することにした。あなたがX教授から
依頼を受けた弁護士であったならば,憲法上の問題についてどのような主張を行うか述べなさい。
そして,大学側の処分を正当化する主張を想定しながら,あなた自身の結論及び理由を述べな
さい。


〔設問2〕
X教授は,遺伝子に係る情報の開示(注:個人情報に関する法令や条例との関係については,
本問では論じる必要はない。)に関する1か月の停職処分の取消しを求めて訴訟を提起することに
した。あなたがX教授から依頼を受けた弁護士であったならば,憲法上の問題についてどのよう
な主張を行うか述べなさい。
そして,大学側の処分を正当化する主張を想定しながら,あなた自身の結論及び理由を述べな
さい。




【参考資料1】
文部科学省/厚生労働省「遺伝子治療臨床研究に関する指針」平成14年3月27日
(平成16年12月28日全部改正;平成20年12月1日一部改正)(抄録)
第一章総則
第一目的
この指針は,遺伝子治療の臨床研究(以下「遺伝子治療臨床研究」という。)に関し遵守すべ
き事項を定め,もって遺伝子治療臨床研究の医療上の有用性及び倫理性を確保し,社会に開か
れた形での適正な実施を図ることを目的とする。
第二定義
一この指針において「遺伝子治療」とは,疾病の治療を目的として遺伝子又は遺伝子を導入
した細胞を人の体内に投与すること及び二に定める遺伝子標識をいう。
二この指針において「遺伝子標識」とは,疾病の治療法の開発を目的として標識となる遺伝
子又は標識となる遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与することをいう。
三この指針において「研究者」とは,遺伝子治療臨床研究を実施する者をいう。
四この指針において「総括責任者」とは,遺伝子治療臨床研究を実施する研究者に必要な指
示を行うほか,遺伝子治療臨床研究を総括する立場にある研究者をいう。
五~九(略)
第三~第五(略)
第六生殖細胞等の遺伝的改変の禁止
人の生殖細胞又は胚(一の細胞又は細胞群であって,そのまま人又は動物の胎内において発
生の過程を経ることにより一の個体に成長する可能性のあるもののうち,胎盤の形成を開始す
る前のものをいう。以下同じ。)の遺伝的改変を目的とした遺伝子治療臨床研究及び人の生殖細
胞又は胚の遺伝的改変をもたらすおそれのある遺伝子治療臨床研究は,行ってはならない。
第七適切な説明に基づく被験者の同意の確保
遺伝子治療臨床研究は,適切な説明に基づく被験者の同意(インフォームド・コンセント)
が確実に確保されて実施されなければならない。
第八(略)
第二章被験者の人権保護
第一(略)
第二被験者の同意
一総括責任者又は総括責任者の指示を受けた医師である研究者(以下「総括責任者等」とい
う。)は,遺伝子治療臨床研究の実施に際し,第三に掲げる説明事項を被験者に説明し,文書
により自由意思による同意を得なければならない。
二同意能力を欠く等被験者本人の同意を得ることが困難であるが,遺伝子治療臨床研究を実
施することが被験者にとって有用であることが十分に予測される場合には,審査委員会の審
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査を受けた上で,当該被験者の法定代理人等被験者の意思及び利益を代弁できると考えられ
る者(以下「代諾者」という。)の文書による同意を得るものとする。この場合においては,
当該同意に関する記録及び同意者と当該被験者の関係を示す記録を残さなければならない。
第三被験者に対する説明事項
総括責任者等は,第二の同意を得るに当たり次のすべての事項を被験者(第二の二に該当す
る場合にあっては,代諾者)に対し十分な理解が得られるよう可能な限り平易な用語を用いて
説明しなければならない。
一遺伝子治療臨床研究の目的,意義及び方法
二遺伝子治療臨床研究を実施する機関名
三遺伝子治療臨床研究により予期される効果及び危険
四他の治療法の有無,内容並びに当該治療法により予期される効果及び危険
五被験者が遺伝子治療臨床研究の実施に同意しない場合であっても何ら不利益を受けること
はないこと。
六被験者が遺伝子治療臨床研究の実施に同意した場合であっても随時これを撤回できるこ
と。
七個人情報保護に関し必要な事項
八その他被験者の人権の保護に関し必要な事項
(以下略)



【参考資料2】
Y県立大学医学部「審査委員会規則」
第1条~第7条(略)
第8条医学部長は,被験者の死亡その他遺伝子治療臨床研究により重大な事態が生じたときは,
総括責任者に対し,遺伝子治療臨床研究の中止又は変更その他必要な措置を命ずるものとする。
(以下略)



【参考資料3】
Y県立大学医学部「遺伝子情報保護規則」
第1条本学部において,遺伝子に係る情報であって,匿名化されておらず個人を識別すること
ができるもの(以下「遺伝子情報」という。)の取扱いについては,この規則によるものとする。
第2条~第5条(略)
第6条本学部の教職員は,いかなる理由による場合であっても,遺伝子情報を開示しないもの
とする。
2 前項の規定にかかわらず,総括責任者は,遺伝子検査又は診断を受けた者からの求めがある
場合には,遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報に限り,本人に開示しなけれ
ばならない。
(以下略)




以上
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