平成25年に出された重要判例のひとつ(平成25.9.4)。
「非嫡出子の相続財産が、嫡出子の半分である」という民法の規定(民法900条4号但書前段)を違憲とした判例。
以下、(3)で、様々な観点で分析を加え、(4)で結論を出しています。
どのような判断過程で、結論を導いたか、見てみます。
****民法****
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
****憲法******
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
○2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
○3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
***********
*********最高裁抜粋*****************
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83520&hanreiKbn=02
(3) 前記2で説示した事柄のうち重要と思われる事実について,昭和22年民
法改正以降の変遷等の概要をみると,次のとおりである。
ア 昭和22年民法改正の経緯をみると,その背景には,「家」制度を支えてき
た家督相続は廃止されたものの,相続財産は嫡出の子孫に承継させたいとする気風
や,法律婚を正当な婚姻とし,これを尊重し,保護する反面,法律婚以外の男女関
係,あるいはその中で生まれた子に対する差別的な国民の意識が作用していたこと
がうかがわれる。また,この改正法案の国会審議においては,本件規定の憲法14
条1項適合性の根拠として,嫡出でない子には相続分を認めないなど嫡出子と嫡出
でない子の相続分に差異を設けていた当時の諸外国の立法例の存在が繰り返し挙げ
られており,現行民法に本件規定を設けるに当たり,上記諸外国の立法例が影響を
与えていたことが認められる。
しかし,昭和22年民法改正以降,我が国においては,社会,経済状況の変動に
伴い,婚姻や家族の実態が変化し,その在り方に対する国民の意識の変化も指摘さ
れている。すなわち,地域や職業の種類によって差異のあるところであるが,要約
すれば,戦後の経済の急な発展の中で,職業生活を支える最小単位として,夫婦
と一定年齢までの子どもを中心とする形態の家族が増加するとともに,高齢化の進
展に伴って生存配偶者の生活の保障の必要性が高まり,子孫の生活手段としての意
義が大きかった相続財産の持つ意味にも大きな変化が生じた。昭和55年法律第5
1号による民法の一部改正により配偶者の法定相続分が引き上げられるなどしたの
は,このような変化を受けたものである。さらに,昭和50年代前半頃までは減少
傾向にあった嫡出でない子の出生数は,その後現在に至るまで増加傾向が続いてい
- 5 -
るほか,平成期に入った後においては,いわゆる晩婚化,非婚化,少子化が進み,
これに伴って中高年の未婚の子どもがその親と同居する世帯や単独世帯が増加して
いるとともに,離婚件数,特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数及び再婚件数も増
加するなどしている。これらのことから,婚姻,家族の形態が著しく多様化してお
り,これに伴い,婚姻,家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んで
いることが指摘されている。
イ 前記アのとおり本件規定の立法に影響を与えた諸外国の状況も,大きく変化
してきている。すなわち,諸外国,特に欧米諸国においては,かつては,宗教上の
理由から嫡出でない子に対する差別の意識が強く,昭和22年民法改正当時は,多
くの国が嫡出でない子の相続分を制限する傾向にあり,そのことが本件規定の立法
に影響を与えたところである。しかし,1960年代後半(昭和40年代前半)以
降,これらの国の多くで,子の権利の保護の観点から嫡出子と嫡出でない子との平
等化が進み,相続に関する差別を廃止する立法がされ,平成7年大法廷決定時点で
この差別が残されていた主要国のうち,ドイツにおいては1998年(平成10
年)の「非嫡出子の相続法上の平等化に関する法律」により,フランスにおいては
2001年(平成13年) の「生存配偶者及び姦生子の権利並びに相続法の諸規
定の現代化に関する法律」により,嫡出子と嫡出でない子の相続分に関する差別が
それぞれ撤廃されるに至っている。現在,我が国以外で嫡出子と嫡出でない子の相
続分に差異を設けている国は,欧米諸国にはなく,世界的にも限られた状況にあ
る。
ウ 我が国は,昭和54年に「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(昭和
54年条約第7号)を,平成6年に「児童の権利に関する条約」(平成6年条約第
- 6 -
2号)をそれぞれ批准した。これらの条約には,児童が出生によっていかなる差別
も受けない旨の規定が設けられている。また,国際連合の関連組織として,前者の
条約に基づき自由権規約委員会が,後者の条約に基づき児童の権利委員会が設置さ
れており,これらの委員会は,上記各条約の履行状況等につき,締約国に対し,意
見の表明,勧告等をすることができるものとされている。
我が国の嫡出でない子に関する上記各条約の履行状況等については,平成5年に
自由権規約委員会が,包括的に嫡出でない子に関する差別的規定の削除を勧告し,
その後,上記各委員会が,具体的に本件規定を含む国籍,戸籍及び相続における差
別的規定を問題にして,懸念の表明,法改正の勧告等を繰り返してきた。最近で
も,平成22年に,児童の権利委員会が,本件規定の存在を懸念する旨の見解を改
めて示している。
エ 前記イ及びウのような世界的な状況の推移の中で,我が国における嫡出子と
嫡出でない子の区別に関わる法制等も変化してきた。すなわち,住民票における世
帯主との続柄の記載をめぐり,昭和63年に訴訟が提起され,その控訴審係属中で
ある平成6年に,住民基本台帳事務処理要領の一部改正(平成6年12月15日自
治振第233号)が行われ,世帯主の子は,嫡出子であるか嫡出でない子であるか
を区別することなく,一律に「子」と記載することとされた。また,戸籍における
嫡出でない子の父母との続柄欄の記載をめぐっても,平成11年に訴訟が提起さ
れ,その第1審判決言渡し後である平成16年に,戸籍法施行規則の一部改正(平
成16年法務省令第76号)が行われ,嫡出子と同様に「長男(長女)」等と記載
することとされ,既に戸籍に記載されている嫡出でない子の父母との続柄欄の記載
も,通達(平成16年11月1日付け法務省民一第3008号民事局長通達)によ
- 7 -
り,当該記載を申出により上記のとおり更正することとされた。さらに,最高裁平
成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号136
7頁は,嫡出でない子の日本国籍の取得につき嫡出子と異なる取扱いを定めた国籍
法3条1項の規定(平成20年法律第88号による改正前のもの)が遅くとも平成
15年当時において憲法14条1項に違反していた旨を判示し,同判決を契機とす
る国籍法の上記改正に際しては,同年以前に日本国籍取得の届出をした嫡出でない
子も日本国籍を取得し得ることとされた。
オ 嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等なものにすべきではないかとの問
題についても,かなり早くから意識されており,昭和54年に法務省民事局参事官
室により法制審議会民法部会身分法小委員会の審議に基づくものとして公表された
「相続に関する民法改正要綱試案」において,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分
を平等とする旨の案が示された。また,平成6年に同じく上記小委員会の審議に基
づくものとして公表された「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」及びこれを更
に検討した上で平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正す
る法律案要綱」において,両者の法定相続分を平等とする旨が明記された。さら
に,平成22年にも国会への提出を目指して上記要綱と同旨の法律案が政府により
準備された。もっとも,いずれも国会提出には至っていない。
カ 前記ウの各委員会から懸念の表明,法改正の勧告等がされた点について同エ
のとおり改正が行われた結果,我が国でも,嫡出子と嫡出でない子の差別的取扱い
はおおむね解消されてきたが,本件規定の改正は現在においても実現されていな
い。その理由について考察すれば,欧米諸国の多くでは,全出生数に占める嫡出で
ない子の割合が著しく高く,中には50%以上に達している国もあるのとは対照的
- 8 -
に,我が国においては,嫡出でない子の出生数が年々増加する傾向にあるとはい
え,平成23年でも2万3000人余,上記割合としては約2.2%にすぎない
し,婚姻届を提出するかどうかの判断が第1子の妊娠と深く結び付いているとみら
れるなど,全体として嫡出でない子とすることを避けようとする傾向があること,
換言すれば,家族等に関する国民の意識の多様化がいわれつつも,法律婚を尊重す
る意識は幅広く浸透しているとみられることが,上記理由の一つではないかと思わ
れる。
しかし,嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする本件規定の
合理性は,前記2及び(2)で説示したとおり,種々の要素を総合考慮し,個人の尊
厳と法の下の平等を定める憲法に照らし,嫡出でない子の権利が不当に侵害されて
いるか否かという観点から判断されるべき法的問題であり,法律婚を尊重する意識
が幅広く浸透しているということや,嫡出でない子の出生数の多寡,諸外国と比較
した出生割合の大小は,上記法的問題の結論に直ちに結び付くものとはいえない。
キ 当裁判所は,平成7年大法廷決定以来,結論としては本件規定を合憲とする
判断を示してきたものであるが,平成7年大法廷決定において既に,嫡出でない子
の立場を重視すべきであるとして5名の裁判官が反対意見を述べたほかに,婚姻,
親子ないし家族形態とこれに対する国民の意識の変化,更には国際的環境の変化を
指摘して,昭和22年民法改正当時の合理性が失われつつあるとの補足意見が述べ
られ,その後の小法廷判決及び小法廷決定においても,同旨の個別意見が繰り返し
述べられてきた(最高裁平成11年(オ)第1453号同12年1月27日第一小
法廷判決・裁判集民事196号251頁,最高裁平成14年(オ)第1630号同
15年3月28日第二小法廷判決・裁判集民事209号347頁,最高裁平成14
- 9 -
年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事209号3
97頁,最高裁平成16年(オ)第992号同年10月14日第一小法廷判決・裁
判集民事215号253頁,最高裁平成20年(ク)第1193号同21年9月3
0日第二小法廷決定・裁判集民事231号753頁等)。特に,前掲最高裁平成1
5年3月31日第一小法廷判決以降の当審判例は,その補足意見の内容を考慮すれ
ば,本件規定を合憲とする結論を辛うじて維持したものとみることができる。
ク 前記キの当審判例の補足意見の中には,本件規定の変更は,相続,婚姻,親
子関係等の関連規定との整合性や親族・相続制度全般に目配りした総合的な判断が
必要であり,また,上記変更の効力発生時期ないし適用範囲の設定も慎重に行うべ
きであるとした上,これらのことは国会の立法作用により適切に行い得る事柄であ
る旨を述べ,あるいは,やかな立法措置を期待する旨を述べるものもある。
これらの補足意見が付されたのは,前記オで説示したように,昭和54年以降間
けつ的に本件規定の見直しの動きがあり,平成7年大法廷決定の前後においても法
律案要綱が作成される状況にあったことなどが大きく影響したものとみることもで
きるが,いずれにしても,親族・相続制度のうちどのような事項が嫡出でない子の
法定相続分の差別の見直しと関連するのかということは必ずしも明らかではなく,
嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とする内容を含む前記オの要綱及び法律
案においても,上記法定相続分の平等化につき,配偶者相続分の変更その他の関連
する親族・相続制度の改正を行うものとはされていない。そうすると,関連規定と
の整合性を検討することの必要性は,本件規定を当然に維持する理由とはならない
というべきであって,上記補足意見も,裁判において本件規定を違憲と判断するこ
とができないとする趣旨をいうものとは解されない。また,裁判において本件規定
- 10 -
を違憲と判断しても法的安定性の確保との調和を図り得ることは,後記4で説示す
るとおりである。
なお,前記(2)のとおり,平成7年大法廷決定においては,本件規定を含む法定
相続分の定めが遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能す
る規定であることをも考慮事情としている。しかし,本件規定の補充性からすれ
ば,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とすることも何ら不合理ではないと
いえる上,遺言によっても侵害し得ない遺留分については本件規定は明確な法律上
の差別というべきであるとともに,本件規定の存在自体がその出生時から嫡出でな
い子に対する差別意識を生じさせかねないことをも考慮すれば,本件規定が上記の
ように補充的に機能する規定であることは,その合理性判断において重要性を有し
ないというべきである。
(4) 本件規定の合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は,その中
のいずれか一つを捉えて,本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定
的な理由とし得るものではない。しかし,昭和22年民法改正時から現在に至るま
での間の社会の動向,我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の
変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置
された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化,更
にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば,家
族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らか
であるといえる。そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとして
も,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったと
いう,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に
- 11 -
不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきで
あるという考えが確立されてきているものということができる。
以上を総合すれば,遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時において
は,立法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する
合理的な根拠は失われていたというべきである。
したがって,本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1
項に違反していたものというべきである。
(抜粋、終わり)
「非嫡出子の相続財産が、嫡出子の半分である」という民法の規定(民法900条4号但書前段)を違憲とした判例。
以下、(3)で、様々な観点で分析を加え、(4)で結論を出しています。
どのような判断過程で、結論を導いたか、見てみます。
****民法****
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
****憲法******
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
○2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
○3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
***********
*********最高裁抜粋*****************
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83520&hanreiKbn=02
(3) 前記2で説示した事柄のうち重要と思われる事実について,昭和22年民
法改正以降の変遷等の概要をみると,次のとおりである。
ア 昭和22年民法改正の経緯をみると,その背景には,「家」制度を支えてき
た家督相続は廃止されたものの,相続財産は嫡出の子孫に承継させたいとする気風
や,法律婚を正当な婚姻とし,これを尊重し,保護する反面,法律婚以外の男女関
係,あるいはその中で生まれた子に対する差別的な国民の意識が作用していたこと
がうかがわれる。また,この改正法案の国会審議においては,本件規定の憲法14
条1項適合性の根拠として,嫡出でない子には相続分を認めないなど嫡出子と嫡出
でない子の相続分に差異を設けていた当時の諸外国の立法例の存在が繰り返し挙げ
られており,現行民法に本件規定を設けるに当たり,上記諸外国の立法例が影響を
与えていたことが認められる。
しかし,昭和22年民法改正以降,我が国においては,社会,経済状況の変動に
伴い,婚姻や家族の実態が変化し,その在り方に対する国民の意識の変化も指摘さ
れている。すなわち,地域や職業の種類によって差異のあるところであるが,要約
すれば,戦後の経済の急な発展の中で,職業生活を支える最小単位として,夫婦
と一定年齢までの子どもを中心とする形態の家族が増加するとともに,高齢化の進
展に伴って生存配偶者の生活の保障の必要性が高まり,子孫の生活手段としての意
義が大きかった相続財産の持つ意味にも大きな変化が生じた。昭和55年法律第5
1号による民法の一部改正により配偶者の法定相続分が引き上げられるなどしたの
は,このような変化を受けたものである。さらに,昭和50年代前半頃までは減少
傾向にあった嫡出でない子の出生数は,その後現在に至るまで増加傾向が続いてい
- 5 -
るほか,平成期に入った後においては,いわゆる晩婚化,非婚化,少子化が進み,
これに伴って中高年の未婚の子どもがその親と同居する世帯や単独世帯が増加して
いるとともに,離婚件数,特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数及び再婚件数も増
加するなどしている。これらのことから,婚姻,家族の形態が著しく多様化してお
り,これに伴い,婚姻,家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んで
いることが指摘されている。
イ 前記アのとおり本件規定の立法に影響を与えた諸外国の状況も,大きく変化
してきている。すなわち,諸外国,特に欧米諸国においては,かつては,宗教上の
理由から嫡出でない子に対する差別の意識が強く,昭和22年民法改正当時は,多
くの国が嫡出でない子の相続分を制限する傾向にあり,そのことが本件規定の立法
に影響を与えたところである。しかし,1960年代後半(昭和40年代前半)以
降,これらの国の多くで,子の権利の保護の観点から嫡出子と嫡出でない子との平
等化が進み,相続に関する差別を廃止する立法がされ,平成7年大法廷決定時点で
この差別が残されていた主要国のうち,ドイツにおいては1998年(平成10
年)の「非嫡出子の相続法上の平等化に関する法律」により,フランスにおいては
2001年(平成13年) の「生存配偶者及び姦生子の権利並びに相続法の諸規
定の現代化に関する法律」により,嫡出子と嫡出でない子の相続分に関する差別が
それぞれ撤廃されるに至っている。現在,我が国以外で嫡出子と嫡出でない子の相
続分に差異を設けている国は,欧米諸国にはなく,世界的にも限られた状況にあ
る。
ウ 我が国は,昭和54年に「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(昭和
54年条約第7号)を,平成6年に「児童の権利に関する条約」(平成6年条約第
- 6 -
2号)をそれぞれ批准した。これらの条約には,児童が出生によっていかなる差別
も受けない旨の規定が設けられている。また,国際連合の関連組織として,前者の
条約に基づき自由権規約委員会が,後者の条約に基づき児童の権利委員会が設置さ
れており,これらの委員会は,上記各条約の履行状況等につき,締約国に対し,意
見の表明,勧告等をすることができるものとされている。
我が国の嫡出でない子に関する上記各条約の履行状況等については,平成5年に
自由権規約委員会が,包括的に嫡出でない子に関する差別的規定の削除を勧告し,
その後,上記各委員会が,具体的に本件規定を含む国籍,戸籍及び相続における差
別的規定を問題にして,懸念の表明,法改正の勧告等を繰り返してきた。最近で
も,平成22年に,児童の権利委員会が,本件規定の存在を懸念する旨の見解を改
めて示している。
エ 前記イ及びウのような世界的な状況の推移の中で,我が国における嫡出子と
嫡出でない子の区別に関わる法制等も変化してきた。すなわち,住民票における世
帯主との続柄の記載をめぐり,昭和63年に訴訟が提起され,その控訴審係属中で
ある平成6年に,住民基本台帳事務処理要領の一部改正(平成6年12月15日自
治振第233号)が行われ,世帯主の子は,嫡出子であるか嫡出でない子であるか
を区別することなく,一律に「子」と記載することとされた。また,戸籍における
嫡出でない子の父母との続柄欄の記載をめぐっても,平成11年に訴訟が提起さ
れ,その第1審判決言渡し後である平成16年に,戸籍法施行規則の一部改正(平
成16年法務省令第76号)が行われ,嫡出子と同様に「長男(長女)」等と記載
することとされ,既に戸籍に記載されている嫡出でない子の父母との続柄欄の記載
も,通達(平成16年11月1日付け法務省民一第3008号民事局長通達)によ
- 7 -
り,当該記載を申出により上記のとおり更正することとされた。さらに,最高裁平
成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号136
7頁は,嫡出でない子の日本国籍の取得につき嫡出子と異なる取扱いを定めた国籍
法3条1項の規定(平成20年法律第88号による改正前のもの)が遅くとも平成
15年当時において憲法14条1項に違反していた旨を判示し,同判決を契機とす
る国籍法の上記改正に際しては,同年以前に日本国籍取得の届出をした嫡出でない
子も日本国籍を取得し得ることとされた。
オ 嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等なものにすべきではないかとの問
題についても,かなり早くから意識されており,昭和54年に法務省民事局参事官
室により法制審議会民法部会身分法小委員会の審議に基づくものとして公表された
「相続に関する民法改正要綱試案」において,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分
を平等とする旨の案が示された。また,平成6年に同じく上記小委員会の審議に基
づくものとして公表された「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」及びこれを更
に検討した上で平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正す
る法律案要綱」において,両者の法定相続分を平等とする旨が明記された。さら
に,平成22年にも国会への提出を目指して上記要綱と同旨の法律案が政府により
準備された。もっとも,いずれも国会提出には至っていない。
カ 前記ウの各委員会から懸念の表明,法改正の勧告等がされた点について同エ
のとおり改正が行われた結果,我が国でも,嫡出子と嫡出でない子の差別的取扱い
はおおむね解消されてきたが,本件規定の改正は現在においても実現されていな
い。その理由について考察すれば,欧米諸国の多くでは,全出生数に占める嫡出で
ない子の割合が著しく高く,中には50%以上に達している国もあるのとは対照的
- 8 -
に,我が国においては,嫡出でない子の出生数が年々増加する傾向にあるとはい
え,平成23年でも2万3000人余,上記割合としては約2.2%にすぎない
し,婚姻届を提出するかどうかの判断が第1子の妊娠と深く結び付いているとみら
れるなど,全体として嫡出でない子とすることを避けようとする傾向があること,
換言すれば,家族等に関する国民の意識の多様化がいわれつつも,法律婚を尊重す
る意識は幅広く浸透しているとみられることが,上記理由の一つではないかと思わ
れる。
しかし,嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする本件規定の
合理性は,前記2及び(2)で説示したとおり,種々の要素を総合考慮し,個人の尊
厳と法の下の平等を定める憲法に照らし,嫡出でない子の権利が不当に侵害されて
いるか否かという観点から判断されるべき法的問題であり,法律婚を尊重する意識
が幅広く浸透しているということや,嫡出でない子の出生数の多寡,諸外国と比較
した出生割合の大小は,上記法的問題の結論に直ちに結び付くものとはいえない。
キ 当裁判所は,平成7年大法廷決定以来,結論としては本件規定を合憲とする
判断を示してきたものであるが,平成7年大法廷決定において既に,嫡出でない子
の立場を重視すべきであるとして5名の裁判官が反対意見を述べたほかに,婚姻,
親子ないし家族形態とこれに対する国民の意識の変化,更には国際的環境の変化を
指摘して,昭和22年民法改正当時の合理性が失われつつあるとの補足意見が述べ
られ,その後の小法廷判決及び小法廷決定においても,同旨の個別意見が繰り返し
述べられてきた(最高裁平成11年(オ)第1453号同12年1月27日第一小
法廷判決・裁判集民事196号251頁,最高裁平成14年(オ)第1630号同
15年3月28日第二小法廷判決・裁判集民事209号347頁,最高裁平成14
- 9 -
年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事209号3
97頁,最高裁平成16年(オ)第992号同年10月14日第一小法廷判決・裁
判集民事215号253頁,最高裁平成20年(ク)第1193号同21年9月3
0日第二小法廷決定・裁判集民事231号753頁等)。特に,前掲最高裁平成1
5年3月31日第一小法廷判決以降の当審判例は,その補足意見の内容を考慮すれ
ば,本件規定を合憲とする結論を辛うじて維持したものとみることができる。
ク 前記キの当審判例の補足意見の中には,本件規定の変更は,相続,婚姻,親
子関係等の関連規定との整合性や親族・相続制度全般に目配りした総合的な判断が
必要であり,また,上記変更の効力発生時期ないし適用範囲の設定も慎重に行うべ
きであるとした上,これらのことは国会の立法作用により適切に行い得る事柄であ
る旨を述べ,あるいは,やかな立法措置を期待する旨を述べるものもある。
これらの補足意見が付されたのは,前記オで説示したように,昭和54年以降間
けつ的に本件規定の見直しの動きがあり,平成7年大法廷決定の前後においても法
律案要綱が作成される状況にあったことなどが大きく影響したものとみることもで
きるが,いずれにしても,親族・相続制度のうちどのような事項が嫡出でない子の
法定相続分の差別の見直しと関連するのかということは必ずしも明らかではなく,
嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とする内容を含む前記オの要綱及び法律
案においても,上記法定相続分の平等化につき,配偶者相続分の変更その他の関連
する親族・相続制度の改正を行うものとはされていない。そうすると,関連規定と
の整合性を検討することの必要性は,本件規定を当然に維持する理由とはならない
というべきであって,上記補足意見も,裁判において本件規定を違憲と判断するこ
とができないとする趣旨をいうものとは解されない。また,裁判において本件規定
- 10 -
を違憲と判断しても法的安定性の確保との調和を図り得ることは,後記4で説示す
るとおりである。
なお,前記(2)のとおり,平成7年大法廷決定においては,本件規定を含む法定
相続分の定めが遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能す
る規定であることをも考慮事情としている。しかし,本件規定の補充性からすれ
ば,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とすることも何ら不合理ではないと
いえる上,遺言によっても侵害し得ない遺留分については本件規定は明確な法律上
の差別というべきであるとともに,本件規定の存在自体がその出生時から嫡出でな
い子に対する差別意識を生じさせかねないことをも考慮すれば,本件規定が上記の
ように補充的に機能する規定であることは,その合理性判断において重要性を有し
ないというべきである。
(4) 本件規定の合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は,その中
のいずれか一つを捉えて,本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定
的な理由とし得るものではない。しかし,昭和22年民法改正時から現在に至るま
での間の社会の動向,我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の
変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置
された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化,更
にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば,家
族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らか
であるといえる。そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとして
も,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったと
いう,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に
- 11 -
不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきで
あるという考えが確立されてきているものということができる。
以上を総合すれば,遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時において
は,立法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する
合理的な根拠は失われていたというべきである。
したがって,本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1
項に違反していたものというべきである。
(抜粋、終わり)