一日一条ずつの日本国憲法の解説と、自民党改憲案の問題点の考察。
8月22日は、憲法22条。
経済的自由にも関連した重要条文です。
これまた、大きな問題点が自民党改憲案にはあります。
ここでは、落としてはならない文言を落としています。
「公共の福祉に反しない限り」という文言です。
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日本国憲法
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
自民党案
(居住、移転及び職業選択等の自由等)
第二十二条 何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 全て国民は、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を有する。
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自民党案では、22条1項において、「公共の福祉に反しない限り」という文言が削除されています。
いままでは、「公共の福祉」を削除して、その部分にこっそりと「公益及び公の秩序」という文言を置き換えでしたが、ここでは新たな手口です。
「公共の福祉に反しない限り」の文言の重要性は、憲法学者故芦部先生も、以下、述べられています。
「経済的自由は、精神的自由と比較して、より強度の規制を受ける(「二重の基準」の理論参照)。憲法22条が、とくに「公共の福祉に反しない限り」という留保をつけているのも、公権力による規制の要請が強いという趣旨を示したものである。それは、一つには、職業は性質上、社会的相互関連性が大きいので、無制限な職業活動を許すと、社会生活に不可欠な公共の安全と秩序の維持を脅かす事態が生じるおそれが大きいことになるが、それにとどまらず、現代社会の要請する社会国家の理念を実現するためには、政策的な配慮(たとえば、中小企業の保護)に基づいて積極的な規制を加えることが必要とされる場合が少なくないからである。」(『憲法 第5版』216-217頁)
経済活動の規制の手段は、二つに大別されます。
○消極目的規制(警察的規制):主として国民の生命および健康に対する危険を防止もしくは除去ないし緩和するために課せられる規制。
○積極目的規制:福祉国家の理念に基づいて、経済の調和のとれた発展を確保し、とくに社会的・経済的弱者を保護するためになされる規制であり、社会・経済政策の一環としてとられる規制。
これら、規制すべきを規制するには、「公共の福祉に反しない限り」という文言は必要です。
自民党案は、安易に削除していますが、経済を自由奔放にまかせ、本当に大丈夫とお考えなのでしょうか?
次に、22条2項は、侵害されてはならないものを、「有する」という文言に置き換え問題です。
国籍は特定の国家に所属することを表す資格であり、それを個人の自由意志で離脱することは、明治憲法時代の国籍法では許されず、原則として政府の許可を必要としました。その意味で、憲法22条が国籍離脱の自由を認めたことは、一つの画期と言えました。
その自由を侵害されないものとしていたところ、単に自由が有るという文言に、自民案はこっそりと置き換えています。国籍離脱の自由について、自民案では保障する気がないということであり、自民案が大日本帝国憲法回帰と言っても過言ではないひとつの根拠です。