新聞の情報が、政府の都合のよい情報であって、与党の宣伝や世論誘導をするために掲載されることも多々あります。
その新聞の情報、政府の情報の根拠として、統計が用いられることもありますが、この統計自体が、都合のよい結論を出すために操作されていることも多々あります。
それら情報に、決して騙されないようにしなくてはならないと思います。
東京大学社会科学研究所教授佐々木彈氏の論説は、統計に騙されぬようにするためのひとつのよい参考になると考えます。
*******朝日新聞******
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12740846.html
■数字の虚実、見抜ける力を 佐々木彈さん(東京大学社会科学研究所教授)
かつて世界を制覇した英国の言語である英語が国際化時代の共通語とすれば、統計は「情報化時代の共通語」として、今後、ますます重要性が高まってくると思います。
情報の説得力や重さを裏打ちする根拠として、統計が引用されるからです。しかし、正確さや公正さなどの観点から見て、玉石混交です。
AI(人工知能)技術の進化で、翻訳ソフトや言葉のスペルチェック機能はかなり高度化しています。でも、統計の意味や真実を見抜くソフトは今世紀中でも開発は難しいでしょう。統計は人為的な産物で、思惑や目的を背景にできあがっているからです。当面は、統計を見る目を訓練して鍛えなくてはなりません。
しかし経済の専門家や役人たちのように、普段から接している人はともかく、統計は世間の人には縁遠いものかも知れません。このままでは、統計の虚実を見抜ける人と見抜けない人の格差は広がってしまう。そうした思いもあって、2010年から一般の人を含めて統計の使い方を考える公開講座を開いています。
「凶悪犯罪が増えている」などと説明されることがあります。根拠として、懲役5年以上に科せられた人の増加が挙げられる。しかし、法律が厳しくなって、かつて懲役5年以下だった犯罪が5年以上に変われば凶悪犯罪に計上される母数は増えるわけです。
どう考えても常識的にはあり得ない言説を、統計によって証明しようとする試みも後を絶ちません。
「二酸化炭素は地球温暖化などの環境変化を招かない」「たばこは肺がんの原因にならない」。特定のデータを取り上げ、主張するのに都合のいい統計をつくり上げた結果です。ナチスドイツによる優生学を道具にした人種政策も、劣悪な生活環境による疾病や寿命を人種のせいにした統計をつくり、収容所に入れ虐殺しました。
日本でも、歴代の政権は統計などの数字を政策の道具に使いたがります。とりわけ、現政権は「国内総生産(GDP)600兆円の達成」「希望出生率1・8の実現」などと様々な数値目標を出しています。
しかし、GDPはお金が動いた結果。人々の豊かさと必ずしも一致しません。公共事業で穴を掘って翌日埋めても、GDPは増える。これが借金の積み重ねの結果ならどうでしょう。豊かとは言えませんね。出生率も、子どもの貧困率の上昇の解決策に手を付けなければ、貧しい子どもを新たに生みだすだけです。
「情報化時代の共通語」がわからない人が増えれば、だまされたり好機を得られなかったりする人も増える。高校数学で統計教育を拡充し必修化させ、大学入試でも必ず出題するようにすべきです。
(聞き手・編集委員 駒野剛)
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ささきだん 1966年生まれ。経済企画庁、米プリンストン大大学院などを経て2009年から現職。専門は法と制度の経済学。