学習指導要領にある「はどめ規定」
小学校理科:「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」
中学校保健体育:「妊娠の経過は取り扱わないものとする」
98年度の学習指導要領改訂で盛りこまれ、2002年度から全国の小中学校で実施されたとのことです。
「はどめ規定」と命名することが、はどめを強化しているかもしれません。
文科省は規定について、「発達段階に配慮して設けた規定で、性交を教えてはいけないと禁止するものではない」と説明する一方、「集団で一律に指導する内容としては取り扱わない」ともしています。
子ども達には、学校で教える教えないはおいておいても、『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』の内容が、伝わるようにしていきたい。
学習指導要領:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm
関連記事:『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』もう一歩踏み込んで、健康教育で取り組むべき分野
********朝日新聞2023.12.21***********
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15821640.html
(性教育を問う)「はどめ規定」作られた経緯は 減る授業時間、教科・学年間のだぶり避けるため
性教育の事実上の制約になっていると言われる、学習指導要領にある「はどめ規定」。1998年度の改訂時に盛り込まれた規定で、教育現場では「性交を教えてはならない」と捉えられている。昨年10月の衆院文部科学委員会で永岡桂子文科相(当時)は規定について、「撤廃することは考えておりません」と答弁。若者や子どもへの性暴力が社会問題となり、性教育の必要性が認識されるなか、改めて注目を集めているこの規定は、どんな目的で作られたのか――。
「はどめ規定」とは、学習指導要領の小学校理科で「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」、中学校保健体育で「妊娠の経過は取り扱わないものとする」と記されている部分。98年度の学習指導要領改訂で盛りこまれ、2002年度から全国の小中学校で実施された。
文科省は規定について、「発達段階に配慮して設けた規定で、性交を教えてはいけないと禁止するものではない」と説明する一方、「集団で一律に指導する内容としては取り扱わない」ともしている。
規定ができるにあたり、どんな議論があったのか。特に問題視された中学校保健体育をたどった。
1992年、HIVの感染拡大などを受け、小学校の保健と理科の学習内容に初めて「性に関する指導」が盛り込まれた。98年度改訂の指導要領について議論していた中学校教育課程分科審議会(98年)の議事録には、「子どもの現状を考えると、性教育はむしろ学年を下げて扱っていかなければならない」といった、性教育に積極的に取り組むべきだという意見が出ていた。
一方、「はどめ」を求める意見の記載は見当たらない。文科省は、当時の経緯について「答申には書かれていないが、性行為をイラストで示したり、映像などを使って教えたりするなど、発達の段階をふまえていない指導が行われていたりする実態を踏まえて、規定を設けた」と説明する。
だが、規定ができた経緯について行政文書の開示請求をすると、スポーツ庁からは「文書の保存期限が過ぎており、保有していない」として、不開示とされた。
経緯を知ろうと、文部省(当時)の教科調査官だった男性を訪ねた。教科調査官は文科省が教科や科目、領域ごとに選んで雇う教員らで、学習指導要領や、学習指導要領解説を編集する。
日本安全教育学会の戸田芳雄・前理事長は当時、中学校で教える保健体育の基準を作成する教科調査官として、この規定の導入に携わった。
こう断言した。
「『はどめ規定』と呼ばれること自体に違和感がある。はどめをした覚えはない」
規定を設けた背景には、学習内容の削減による教育課程の編成の厳しさがあったという。98年度改訂の学習指導要領は、後に「ゆとり教育」と呼ばれ、授業時間数が大幅に削られた。
その中で重視されたのが、教科や学年間で学習内容の重複を避けるための「精選」と、保健の主たる内容である「心身の機能の発達」に焦点化することだった。授業時間が限られる中で「だぶり」を防ぐために規定は設けられたという。戸田前理事長は、規定を「区分けのための留意事項」だったと表現した。
こうした考え方は、学習指導要領及び解説の作成協力者の会合で検討され、中央教育審議会でも本規定に関して異論はなかったとする。
体育局体育官として、98年度の学習指導要領改訂を担当した石川哲也・神戸大学名誉教授も、規定ができたのは「だぶり」を避けるための「区分け」だったと認識する。92年から小学5、6年に保健の教科書が導入されたことが一つのきっかけとなり、「小中高の教科書が、どれも同じような内容になってしまう懸念があった」と話す。
「協力者」として関わった別の専門家も、「性教育にはどめをかけるような『規定』ができたという解釈ではなかった」と証言する。「高校で受精、妊娠、出産を扱うことから、重複を避けるための区分けとして認識していた」と述べた。(島崎周)
■「教えてはいけない」と禁止する規定ではない 前日本安全教育学会理事長・戸田芳雄さんに聞く
「はどめ規定」はなぜ必要だったのか。文部省(当時)の教科調査官として導入に携わった戸田芳雄・前日本安全教育学会理事長に話を聞いた。
◇
当時は、性教育に関して推進派から反対派まで様々な意見があり、文部省にも、意見や批判が届いた。ただ、少なくとも私に対しては、(圧力は)なかった。
98年の改訂は非常に難しいものだった。授業時間数が大幅に削られ、中学の保健体育も例外ではなく、教科や学年の間で学ぶ内容の重複を避けることが重要な課題だった。
一方で、健康課題として、ストレスへの対処法など心の健康に関することや阪神・淡路大震災(95年)の教訓からの防災教育、HIVなどの性感染症の予防などが、保健分野の新たな課題として上がっていた。授業時間数が減る中、この三つの要素を盛り込まなければいけない。学習指導要領は「これだけは学習する」という最低基準。内容を盛り込みすぎないようにするのが大前提だ。
当時、教職員への聞き取りや研修会の報告などから、小学校でも特別活動などで、胎児の成長などについては多くの学校で学習しているとのことだった。ならば、中学の保健でもやると重複してしまうため、必要ないと判断した。
また、(「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」「妊娠の経過は取り扱わないものとする」の表現を)「受精・妊娠を取り扱う」の表現のみにすると、性交も含まれると考える先生方もおり、さらにジェンダーなど身体の発達以外の内容にまで拡大していくと、授業時間数が足りなくなる懸念があった。
あくまでも学習内容の際限ない拡大を防ぐための留意点。「性交などを教えてはいけない」と禁止するほど、強い規定ではない。
「『はどめ規定』はなくていい」という考えがあるのは知っている。もし規定をなくすなら、きちんと授業時間数を確保し、保健体育科で扱う内容を指導要領の中で位置づける必要がある。(聞き手・島崎周、塩入彩)