世の中には人に何かを伝えるために、しかつめらしい顔をして説教をするよりも心にしみることがあります。
今月号の「致知」からのお話です。
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「ビートたけし氏とお母さんの感動秘話」
…いまの日本には偉人伝というだけで拒否反応を持つ人がいるんですよ。
それ自体、異常な社会だと思うのですが、そういう時、私はタレントの北野武さんの話をするんです。
そうすると皆さん「なるほど」と言って聞いてくださいます。
それは北野さんのお母さんのお話なんですね。
北野さんが芸能界に入って売れるようになった頃、お母さんから「金をくれ」と言われたというんです。
それからも何かにつけて法外なお金を要求されたと。
とんでもない親だと思ったけれども、親には世話になったし迷惑を掛けたのも事実だから言われたままに出していたそうです。
そして、お母さんの命がもう何日もないという時に軽井沢の病院に行った北野さんはお母さんから一冊の通帳を渡されるんです。
帰りの新幹線の中でその通帳を見た北野さんはビックリするんですね、いままで渡していたお金が全額入金されていた。
芸能界は浮き沈みの激しい世界ですから、お母さんとしては息子が売れなくなった時のことを考えて、そっと蓄えておられたのでしょうね。
子供は親孝行したいと思っているけれども、親が子を思う気持ちはもっと深い。
吉田松陰が「親思う心にまさる親心」と詠んでいますが、親が亡くなって「もっと孝行しておくべきだった」と子供だったら皆思うんじゃないでしょうか。
これは何も国が「親孝行しろ」と言うのとは違うわけでしょう。
道徳の授業の中でそういう話がエピソードとして出てくれば、誰でも素直に皆受け取るはずです。
人が人として生きるために大事なことを学ぶのは、本当は英語や数学の学力を高めること以上に必要なことなんですね。
…
下村博文(文部科学大臣/教育再生担当大臣)
『致知』2013年6月号
特集「一灯照隅」より
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下村さんは、若い時から教育問題に力を入れていて、周りからは、「教育は票にならない」と言われ、「よし、それなら余計にやってやろうじゃないか」と心に決めたそうです。
世の中にはいろんないい話がありますね。