阿寒湖畔のまりむ館で、NPO法人阿寒観光協会が主催する「マリモの勉強会」が開催されました。
今日は、知床財団の事務局長である増田泰さんをお迎えしましたが、増田さんは、斜里町の博物館学芸員から知床財団へ出向中で、この四月から事務局長になり、以前は自然保護の現場も担当されていた方です。
本日は、「世界自然遺産その効果と責任~知床の経験から」というタイトルで、知床における世界自然遺産の裏話を聞かせていただきました。
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【挨拶するのはNPOの松岡さん】
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まず世界遺産とは何か、というお話。
世界遺産とは、世界的に普遍的な価値を持つ自然、文化を認定するもので、世界自然遺産と世界文化遺産、そしてそれらが融合した、世界複合遺産という三種類があります。
世界自然遺産は、知床の前に白神山地と屋久島が登録されていて、知床の跡に東京都の小笠原諸島が認定をされました。
さて、知床の世界自然遺産ですが、遺産地域は先端の半島部の71,000haのエリア。
これは、屋久島の10,700haや白神山地の17,000haに比べてもずいぶん大きなものです。
しかも知床は、世界で初めて海域を含んだ遺産登録地でした。これは海と陸との結びつきに価値があるとみなされたからで、後には小笠原諸島も海域を含む世界自然遺産となりました。
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さて、ではなぜ知床は世界自然遺産に相応しいとして認定されたのか。
世界自然遺産にはクライテリアと呼ばれる四種類の評価基準があります。
その四種類とは、①自然景観、②地形・地質、③生態系、④生物多様性の四つで、このうちの一つ以上に当てはまることが求められます。
知床はこのうち、①の自然景観と③の生態系、そして④の生物多様性の三でどうか、と申請をしましたが、結果は、③の生態系と④の生物多様性が世界自然遺産としての価値があるとみなされました。
③の生態系では、流氷がもっとも南まで来る地域であり、しかもそこで育まれたサケマス類が陸の生態と繋がっていることが高く評価されました。
サケマス類は、海の中にあるたんぱく質が川を伝って上流へと移動するという活動であり、それがやがて熊など上流の生物や森林に栄養を与え、生態系を豊かにしていると判断されたのだそうです。
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【流氷が最も南下する知床】
④の生物多様性と絶滅危惧種では、シマフクロウ、シレトコスミレ、サケ科の魚類、海洋ほ乳類、トドや鯨類が希少とされました。
知床は日本列島の中では最も北東に位置していますが、オホーツク海を内海として見ると一番南西に当たると見ることもできます。
そして流氷が流れる地域は数あれど、北半球で最も南まで下ってくる地域であり、それがもたらす恵みの栄養素が豊かな海を育んでいるのです。
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さて、自然遺産の前提条件としては、
1)十分な規模と必要な要素
2)法的措置などにより保護・保全が十分担保されていること
3)既登録地と比較して優位性・独自性が明らかであること、が必要。
1)の十分な規模と必要な要素としては、上記の四つのクライテリアに合致していることが必要ですが、候補としては、まず国内で候補地を推薦し、その後に世界に申請するということになります。
2)の法的措置などにより保護・保全が十分担保されていることとしては、国立公園、原生自然環境保全地域(自然環境保全法)、森林生態系保護地域、国指定鳥獣保護地域、という多くの保全のための法律体系で守られているのが知床です。
もっとも、全ては独立したエリアを指定しているので、それらを包含する一番大きなエリアとして線が引かれて指定エリアとされています。
さらには、各種の管理計画などの管理体制整備が求められました。
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【世界自然遺産エリア】
そして3)の既登録地と比較して優位性・独自性が明らかであることとしては、中央シホテアリン、カムチャツカ火山群というライバルとの比較となりましたが、最終的には、海氷南限として特殊な生態系ということが強くアピールしたと言います。
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そうした活動の結果、知床は世界自然遺産になった訳ですが、登録後もやらないと行けない活動が結構あると言います。
知床財団はインフォメーション施設の管理だけではなく、今では自然を知り、守り、伝えるための、調査研究や、野生動物対策、森林再生など、普及啓発・研修実習・環境教育やインフォメーション提供活動などの諸活動をしています。
まさに登録されれば終わるのではなく、登録されることで守るべき価値を再認識して、それを守り、伝える活動を継続することが求められるのです。
私たちも、マリモ群落を育む阿寒湖を世界自然遺産目指して活動をしてゆこうと思いますが、登録されることだけが目的なのではなく、その運動や活動の過程で阿寒湖の自然の持つ魅力や価値をアピールしてゆくことが大切なのだと思います。
息の長い活動になるでしょうけれど、生まずたゆまず歩んでいきましょう。
増田さんには貴重なお話をありがとうございました。