9月14日に打ち上げが成功したJAXAの小型ロケット「イプシロン」
鉄腕アトム世代の私には、「イプシロン」と聞くと、鉄腕アトムの「地上最大のロボット」という物語に登場した「エプシロン」というロボットを思い出します。
物語は、世界7大ロボットの一つとして、日本のアトムなど七人(?)のロボットがリストアップされて、悪役のプルートというとても強いロボットが自分こそ最強であることを証明するために、このロボットたちに挑戦し破壊していくというもの。
漫画の中のエプシロンというロボットは、オーストラリアの幼稚園の先生ロボットです。
彼は光をエネルギーにする光子ロボットで、子供たちから慕われる優しいロボットとして描かれていました。
最近では、この漫画を浦沢直樹さんがリメイクした「PLUTO」という漫画がヒットしましたが、イプシロンという名前に郷愁を感じる世代の方も多いことでしょう。
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さて、そんな漫画とは全く関係のない、日本の小型ロケット「イプシロン」ですが、発射中断というトラブルを経ながら、二度目は無事打ち上げ成功。
「ひさき」と名付けられた小型衛星の放出にも成功し、日本人として心の底から誇らしくて喜びが湧いてくる話題となりました。
さて、このイプシロンは、これまでのHⅡ-Aロケットよりもずっと小型で、打ち上げの手間を最小限に抑え、安く打ち上げられるロケットとして紹介されることが多いのですが、実はこれが成功した意味というのは日本の科学技術を進歩させる上でとても大きな意味を持っているのです。
そして、今回打ち上げられた衛星「ひさき」にも、新しい衛星開発の考え方が導入され、これもまた世界をリードする技術が結晶としてこめられていました。
そんな話題が、小型科学衛星プロジェクトのプロジェクトマネージャーである澤井秀次郎さんへのインタビュー記事としてJAXAのホームページに載っていたのでご紹介します。
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『世界最先端をめざすセミオーダーメイド型の衛星』
~惑星分光観測衛星「ひさき」(SPRINT-A)~
【Q. 小型科学衛星プロジェクトの概要と目的を教えてください。】
私たちが開発している小型科学衛星は重量500kg以下のもので、従来の中型・大型科学衛星を補完する位置づけにあります。近年の技術的進歩によって機器の小型化が進みましたので、これまで中型・大型衛星でなければできなかったミッションも、小型衛星で実現できると考えています。
しかし、複数の観測機器を搭載する、重量数トン以上の大型衛星と同じことを小型衛星でできるかというと限界があります。ミッションの目的を絞り込み、特化させることで、その分野における世界最先端の成果を出したいと思っています。また、短期開発によるコスト削減と、科学衛星ミッションのさまざまな要求に柔軟に対応することをめざしています。
【Q. これまでの衛星とは異なる、小型科学衛星の優れた点は何でしょうか?】
現在開発中の小型科学衛星は、世界に類例のないモジュール構造の衛星です。衛星には、いろいろな機能を実現するために、さまざまな装置が載っています。それらを各々、組み替え可能な単位、すなわちモジュールとして扱い、それらをどう組み合わせるかで、いろいろな役割を果たす衛星を作っていこうという取り組みです。
衛星の基本構造は四角い箱形をしていて、その中や、上にいろいろなモジュールを組み合わせていくことで、さまざまな用途に対応しようとしています。例えば、最近のパソコンは、基本の枠組みは同じでも、コンピュータのCPUやメモリーなどを選択して購入することができます。
パソコンの構成要素をグラフィックに特化させるか、事務処理用にするかは顧客の用途によって違います。それと同じ仕組みで、衛星としての基本部分は同じでも、中身をそれぞれの仕様に合わせることができるのです。私たちは、衛星仕様をできるだけメニュー化し、ミッションごとに自由に選択できるようにしたいと考えています。このように、中のパーツ(機器)を組み替えることを前提に、セミオーダーメイド型の人工衛星と言える枠組みを開発するのは、新しいチャレンジです。ぜひ実現させて、科学衛星ミッションの多様な要求に柔軟に応えたいと思います。
また、JAXAの小型科学衛星の基本構造は、一辺1mの立方体の箱形を予定しています。その内部には、スペースワイヤと呼ばれる、人工衛星などの宇宙機器に搭載する通信ネットワーク装置の国際的な規格を使う予定です。このように、共通モジュールを利用して規格をそろえることで、衛星の開発をより早く効率的に行い、衛星シリーズ全体のコスト低減にも貢献します。私たちは、今の標準的な科学衛星の半分以下の開発期間、数分の1程度の予算を目標にしています。
【Q. 衛星はどれくらいの頻度で打ち上げられる予定ですか?】
約5年間に3機程度の打ち上げを目指しています。H-IIA ロケットで打ち上げる時に相乗りして一緒に打ち上げることも可能ですが、相乗り衛星では打ち上げ時期、軌道などに制限があります。大型ロケットで打ち上げる大型衛星プロジェクトは開発期間が長いため、打ち上げを頻繁に行うことはできません。そのためJAXAでは、開発期間と打ち上げコストの削減をめざした固体燃料ロケット「イプシロンロケット」の開発も行っています。
【Q. どのようなきっかけで小型衛星の開発が始まったのでしょうか?】
JAXAの宇宙科学研究所では、これまで中型の科学衛星を定期的に打ち上げてきましたが、年々、衛星への要求が高まるにつれ、衛星が大きく複雑になってきました。その結果、開発に時間がかかり、それに準じてコストも高くなってしまったため、科学衛星を打ち上げる頻度が少なくなってしまいました。
科学衛星にはいろいろな分野や目的があり、X線でブラックホールを観測するものや、赤外線で幅広く天体を見るもの、地球周辺の磁場を観測したり、惑星を探査するものなどさまざまです。しかし、科学衛星の打ち上げ頻度が少なくなると、分野ごとで観測する機会が減ってしまい、これまで培ってきた日本の科学衛星の技術や経験が活かされません。そこで、科学衛星を早く、安く打ち上げるための枠組みが必要になったのです。
【Q. なぜ、今、小型科学衛星が必要だと思われますか?】
日本が宇宙科学の分野で世界最先端を狙うためには、新しい観測、新しい研究を継続して行うことがとても大切です。このままでは、同じ科学分野の科学衛星の打ち上げ頻度が非常に少なくなってしまう恐れがあります。これでは観測が途切れてしまい、大きな成果を出すことは困難です。そのためにも、早く効率的に衛星を開発し、いろいろな分野の科学衛星が活躍できる場を増やすことが重要だと思います。
一方で、高頻度に科学衛星を打ち上げることは、若い科学者の育成にも役立つと思います。やはり、何事も経験を積まないことには成長しません。しかし、10年や20年に一度しか科学衛星打ち上げのチャンスが巡ってこないと、なかなか経験を積むことができませんし、その経験を継承することもできなくなります。それでは、日本の科学が衰退することにもなりかねないのです。小型科学衛星のシリーズ化を実現することは、科学者の育成や日本の科学の発展にも貢献できると思います。
(…中略…)
【Q. 将来、小型科学衛星をどのように展開していきたいですか?】
小型科学衛星は、科学はもちろんですが、その他の用途の衛星などにも展開していければと思っています。私たちは、さまざまな用途に使えるように、セミオーダーメイド型の人工衛星を目指しているわけですが、その用途が、科学を超えて、商用利用を含めて拡がればよいと思っています。
例えば、私たちは、経済産業省の指導の下で運営されている無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)が打ち上げる予定の、地球観測衛星「ASNARO」と共同研究をしています。このASNAROという衛星は、経済産業省が主導していて、将来的には人工衛星の海外輸出まで視野に入れた、大きな構想の第一歩なのですが、その基本構造は、JAXAの小型科学衛星と共通の技術を使用する予定です。まさに、現在、開発試験を共同で行っています。
【JAXAホームページ】 http://www.jaxa.jp/article/interview/vol56/index_j.html
技術協力はNEC日本電気(株)です。こちらもどうぞ。↓
【NECホームページ】
http://jpn.nec.com/ad/cosmos/sprint_a/index.html?waad=uQcdnOkc&mid=e458h90800001378440
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澤井 秀次郎(さわい しゅうじろう)
JAXA宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 准教授 工学博士
1994年、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了、同年、旧文部省宇宙科学研究所(現JAXA)助手に着任 。1999年9月~2000年9月米国ミシガン大学工学部航空宇宙工学科客員研究員。2003年、宇宙科学研究所システム研究系助教授、同年、JAXA総合技術研究本部主任研究員。2004年、JAXA宇宙科学研究本部助教授。2009年より現職。専門は制御工学。
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いかがでしょうか。
ロケットが頻繁に格安で打ち上げられるということが科学技術をリードする上でいかに大切な力であるか、ということがよく分かりますね。
ヨーロッパやロシアにはイプシロンの打ち上げ費用35億円よりもずっと安いロケットがまだまだある、と言われていますが、他国の技術で他国の都合で打ち上げられるロケットに衛星を載せるよりも、自国の技術で自国の好きなように好きなタイミングで挙げられるロケット技術があるというのはすばらしいことです。
かつての天文小僧だった私としては、星と宇宙の世界に限りないロマンを感じます。
あらためて日本人としての誇りを抱きながら、JAXAを応援し、科学技術の面で後生の世代に良い国を遺したいものです。