興趣つきぬ日々

僅椒亭余白 (きんしょうてい よはく) の美酒・美味探訪 & 世相観察

ビアグラスの理想形

2006-03-06 | 美酒・美味探訪
 ビールは一口グラスで飲むのがいちばんおいしい飲み方であるという。果たしてそうだろうか。
 ビールはつぎ足しをすると味が落ちる。だからつぎ足しをしなくてすむように、一口で飲める分だけ小さなグラスにその都度そそぐのがいい、というのが一口グラス支持派の言い分である。

 わたしが時々いっしょに飲みにいくO氏はその支持派の一人である。
 居酒屋では一口グラスは出さないから、O氏は普通の大きさのグラスに半分だけビールをそそぎ、カパッと一口で飲む。
 つぎ足しをされるといやだし、そそぎ方にも自分なりの流儀があるからと、いつも手酌である。
 いくらつぎ足しを好まないからといって、いっしょに飲みにいってそれぞれ手酌というのもねえ……。

 一口グラスで飲むビールはたしかに旨い。けれど、わたしはこれがいちばん旨い飲み方だとは思わない。「ビールはのど越し」というが、のど越し感を得るには一口グラスでは量的なボリュームが足りないように思う。
 ボリュームがほしいなら、なんてったってビールジョッキでしょうといわれそうだが、ビールジョッキは唇に当たる部分が厚すぎる。半分ジョッキをしゃぶっているようで、ビールそのものを味わうには必ずしも向いていないように思える。

 ビールジョッキはそもそも、ビアホールなどでウエイターが一度にたくさん運ぶために生み出されたものではなかろうか。
 ドイツのビアホールでは、ウエイターが10個ほどのジョッキを両手にかかげ客のもとに運ぶ。実際に見たことはないが、そんな情景を写真やテレビで目にしたことがある。
 こんなときジョッキなら、ガチャガチャぶつかりあっても、ドシンと荒っぽくテーブルにおかれても、簡単には割れない。

 ついでながら、ビールジョッキを冷凍庫でギンギンに冷やしておいて、注文を受けるとそれに生ビールを入れ、出してくれる飲み処もある。
 ジョッキは冷凍庫から出すと、一瞬のうちに霜がまとわりつき真っ白になる。演出効果としては買うが、ほんとうのところビールは冷えすぎてもおいしくない。

 わたしが奨めたい理想のビアグラスは、ブランデーグラスである。
 そう、あのたっぷりと下部がふくれ、口元がややすぼまったグラス。葉巻をくゆらせた上品な紳士がコニャックを入れ、てのひらでつつみ込むようにして持つあのグラスを、普通のおじさんがビール用に使ってもいいのだ。

 このグラスにビールをゆっくり口もとまでそそぐ。一口などとケチなことを言ってはいけない。
 そして、ずしりと重いグラスをおもむろに持ち上げ、口まで持ってくる。いや、口のほうで迎えにいかねばならない。なにしろグラスの上部は向こう側に反っているのだ。

 グビグビ、グビグビ、グビグビ、グビ・・・

「グビグビ。」でも「グビ。」でもない。ましてや、「カパッ。」ではない。
 ブランデーグラスこそビール本来の味を味わい、のど越し感をえられる格好のビアグラスだったのである。お試しあれ。

2004.3.20


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