![]() | 古代史を読み直す (PHP文庫) |
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教科書に載っている歴史と違い、古代史というのは面白い。何しろ、何が本当か分からない事が多い。例え日本書紀や、古事記に書かれているからといって、そのまま信じ難いようなことも多い。正に百家争鳴、色々な人が、色々な事を言っているが、果たして、何が本当のことかはよく分からない。
本書「古代史を読み直す」(PHP文庫)は、古代史の世界を描いた小説で有名な故黒岩重吾氏による古代史案内である。本書では、縄文時代から始まり、邪馬台国と卑弥呼、畿内王権と倭の五王、継体天皇、任那問題と蘇我・物部戦争などの概要やそこに秘められた謎、著者の見解といったものを分かりやすく纏めており、古代史全体の基礎知識を得るには最適だと思う。
ただし、どこまで本当のことかは、古代史の特性として、なかなか分かりにくい。これについては、今後の考古学的な発見がどれだけあるかということにもかかってくるだろう。文献に書かれていることが、必ずしも本当だとは限らない。正しい歴史は、鍬の一掘りで出た証拠を積み重ねていくしかないのだ。
しかし、著者の邪馬台国についての考えは、卓見だと思う。著者は邪馬台国九州説を取るのだが、その根拠として、魏志倭人伝に、帯方郡から邪馬台国まで1万2千里と書かれていることをあげる。ここで、千里というのは、倭人伝の記述からは50~60kmらしい。書かれている距離を足すと、福岡県にあったと思われる不弥国までで1万7百里を使ってしまう。残りが1千3百里では、絶対に九州からは出ないというのだ。無理に方向が間違っているとして畿内説を取るよりは、シンプルで、説得力の高い見解だと思う。
もう一つ私見を付け加えれば、魏志倭人伝には、倭の国は温暖で冬でも生野菜を食べると書かれているので、これも大和地方よりは、九州に相応しい。もっとも、卑弥呼の時代より後に作られたとされていた箸墓古墳の造営年代が、卑弥呼の時代と重なるかも知れないという説も最近唱えられているようで、まだまだ予断は許されない。
少し古い本で、古書しか流通していないようだが、古代史ファンなら一度は目を通しておくことをお勧めしたい。
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