文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
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書評:一九七七青春の記憶 喫茶店と受験と仲間たち

2014-11-19 21:33:04 | 書評:小説(その他)
一九七七青春の記憶 喫茶店と受験と仲間たち
クリエーター情報なし
ブックコム


 主人公の山田一は、妻と二人の子供を東京に残して、札幌で単身赴任中に、リストラの憂き目にあってしまう。札幌は、彼がかって浪人時代に過ごした街でもあった。傷心の彼は、浪人時代に通った喫茶店(店の名は変わっていたが)で、あのころの思い出に浸る。「一九七七青春の記憶 喫茶店と受験と仲間たち」(新藤いっせい:ブックコム)は、主人公の浪人時代をノスタルジックに描いた作品だ。

 実は私もこの年は受験生だった。といっても受験したのは、大学ではなく大学院だったのだが(あっ!心は永遠の20代ですからw)。だから、この作品に出てくる、当時の世相は、とても懐かしい。言葉一つとっても、今とは大分違う。例えばエアコンでなく冷房(昔は冷やすのみで、温める方の機能はなかった)、女性社員ではなくOL(本来、レディって、あくせく仕事をしなくてはならないような身分の人じゃないんだよね。その前はBG(ビジネスガール)といった言葉もあったなあ)。そして、オールナイトニッポンにキャンディズなど。少年チャンピオンも、「ブラックジャック」や「エコエコアザラク」、「がきデカ」などが連載されており、このころが黄金時代だった。

 ただ、ノスタルジーに浸れるのもここまで。中味については色々と突っ込みたいところが出てくる。まず、大学名のセンス。主人公の志望校は帝大らしいが、おそらく北海道大学がモデルなのだろう。帝大は、京城や台北も入れて、全部で9つ作られている。あえて、北大を帝大と呼ぶ意図はなんだろう。それとも帝京大学のことか。確か北海道にはキャンパスは無かったと思うのだが。それに、主人公の友人の東海林の志望校の京丸大って、いったいどこやねん!?

 納得がいかないのは、ミニスカートのお姉さんからもらったチラシを見るため、主人公が一瞬立ち止まったら、いかにもその筋らしい男がぶつかってきたというエピソード。「時計が壊れた」と殴られたり、念書を書かされたりしたあげく、その男の子分らしい3人組の予備校生たちに、強引に麻雀に引きこまれて、勉強どころではなくなってしまったのである。

 このエピソードの結末は、「人を見かけで判断してはいけない」とか、「心から謝罪することの大切さを教わった」とか、なんだか美談めいて終わっているが、もともとぶつかってきた男の方の前方不注意ではないか。時計が壊れたのだって、自業自得のようなものだし、いきなり殴りかかってきたら、「アブナイ奴」だと思うのは当たり前のことだ。いっそこんな話はなくてもよかったのではないか。

 また、キャンディズが出ているのに、どうして太田裕美が出ていないんだろう。山口百恵も、このころが絶頂だったのではなかったかと思うのだが、なぜ出てこない? もしかして、山崎ハコを忘れている? いちいち挙げるときりがないな。

 最後に、この作品には、オチが二つばかり用意されている。ひとつは主人公の帝大合否に関するオチ、もう一つは主人公の嫁に関するオチだ。こちらの方も、どこか既視感が感じられ、特に驚くようなものでもなかったのだが。

☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。
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