粘菌 その驚くべき知性 (PHPサイエンス・ワールド新書) | |
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粘菌というのは不思議な生物だ。変形体としてアメーバのように動き回っていたかと思いきや、環境が変われば、カビやキノコのように、子実体を作って、胞子を蒔き散らす。変形体は、数センチ程度になるが、それでも単細胞生物だと言う。粘菌よ、君は一体何者だ!?
知の巨人、南方熊楠も魅了された粘菌。その粘菌は、単細胞生物でありながらも、原子的な知性を備えているという。ネイチャーにも掲載され、イグ・ノーベル賞にも輝いた、粘菌の知性に関する研究を紹介したのが、「粘菌 その驚くべき知性」(中垣俊之:PHPサイエンスワールド新書)である。
粘菌は単細胞生物なので、もちろん脳も神経系もない。それにも関わらず、粘菌にはある種の情報処理能力が備わっているという。例えば、迷路いっぱいに広がった粘菌に、2つの餌場を与えると、粘菌は、それを最短経路に近いるルートで結ぶような管を形成する。また、周期的な刺激を記憶して、実際に刺激が与えられなくても、あたかも刺激が与えられたような行動をとるという。
著者は、前者を「適応ネットワークモデル」というもので、モデル化している。これは、水の流れる水道管が、流量によって太くなったり細くなったりするようなものと考えればよい。また後者については、少しずつ長さの違う振り子が連なった「一連振り子モデル」やそれを改良した「位相同期モデル」で説明しようとしている。更に、粘菌の移動に対しては、マッチ棒延焼モデルというものを紹介している。
これらのことは、科学において、アナロジーで考えたり、モデルを作って考えたりすることの大切さをよく教えている。複雑な自然現象を、そのままで考えるというのは非常に難しい事が多い。しかしモデルをつくってそれを単純化すれば、解決の糸口が見えてくることもあるし、思わぬ応用も可能となる。実際、本書には、「適応ネットワークモデル」の、カーナビなどへの応用も紹介されているのだが、これがなかなか興味深い。
著者は、粘菌の持つ情報処理能力をある種の「知性」と考えているようだ。もっとも、「知性」というのは、著者も言っているように、それをどういった意味で使うかということにもよるところが多い。これをはっきりさせたうえでないと、粘菌が「知性」を持っているかなど議論しようがない。ただ、言葉の定義はともかく、単細胞生物にも関わらず、実際に粘菌にそのような機能が備わっているということは、驚くべきことだろう。不思議生物「粘菌」、本書はその面白さの一端を私たちに教えてくれる。
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