・内田康夫
内田康夫による浅見光彦シリーズの旅情ミステリーの一冊。この作品の舞台は、タイトルからも分かる通り愛知県三河地方だ。
雪江未亡人が突然三河に行くということで、光彦がそのお供を命じられる。今回の旅の第一の目的は、愛知県幡豆町の三ヶ根山の山頂にある「殉国七士廟」に参ること。この廟は東京裁判でA級戦犯とされて絞首刑となった東条英機など7名のため、昭和35年に建立されたものだ。
光彦と雪江未亡人は、その「殉国七士廟」で変な老人にからまれる。その老人は地元の土建会社「三州総合開発」の会長・鹿島道泰だった。ところがその鹿島老人の死体が蒲郡の海岸で発見され、光彦たちは警察の事情聴取を受けるはめに。
ストーリーの前半は雪江未亡人と光彦の珍道中といったところか。いつもは兄の陽一郎に迷惑をかけないようにと、光彦の探偵活動にブレーキをかける役割の雪江未亡人が、今回は光彦をたきつけているのだから面白い。この事件では雪江未亡人のお墨付きもあるので、光彦は大手を振って事件の解明に乗り出したという訳である。そればかりではない。雪江未亡人、道泰の孫娘の里美と光彦の縁談まで画策するのだからもうやりたい放題(笑)。
このシリーズの一番の売りは、光彦をさんざん容疑者扱いしていた刑事たちが、彼が刑事局長の弟だと知ったとたん、手のひらを返したようになるという場面の面白さだと思うのだが、この作品では、最後まで、彼の素性はばれなかったようだ。嫌疑をかけられて、あの雪江未亡人がよく黙っていたものだが、これも陽一郎に迷惑をかけまいとする親心なのだろうか。
ところで内田氏は、作品の中に社会への風刺を込めていることが多い。この作品から読み取れるのは、行き過ぎた開発に対する批判といったところだろうか。開発には金が絡む。これが時には事件に繋がることもあるのだ。そんな人間の愚かさを良く描いたミステリーだろう。
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※本記事は書評専門の拙ブログ
「風竜胆の書評」に掲載したものです。