文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:琵琶法師 -<異界>を語る人びと

2016-02-25 12:37:30 | 書評:学術・教養(人文・社会他)
琵琶法師―“異界”を語る人びと (岩波新書)
クリエーター情報なし
岩波書店

・兵藤裕己

 ハーンの「怪談」に収められている「耳無し芳一」の話。琵琶を持ち、物語を弾き語る琵琶法師は、中世における物語・語り物伝承の担い手だった。本書は、この琵琶法師について歴史的な沿革をたどりながら、その芸能と宗教の面についても考察したものだ。

 楽器としての琵琶自体はペルシャ周辺で発生したものが、中国で改良され日本に渡来したものだという。また盲人が琵琶を弾いて芸能や宗教活動に関わるのも、同じように大陸渡来と推測されるとのこと。琵琶法師が文献にあらわれるのは平安時代中期のことらしい。ここでは琵琶法師は、琵琶を弾いて歌謡や物語を演唱する芸能民であると同時に、寺院に付属する下級の宗教民として描かれているという。彼らはかまど祓いで、五竜王や堅牢地神を称えた「地神経」(地心経)を唱えた。

 冒頭でも触れたように、琵琶法師と平家物語との関係は切っても切れないものだ。本書はこの「平家物語」の成立過程や、どのようにして琵琶法師が平家物語を語るようになったのか、そして彼らが権力の中でどのように位置づけられてきたかなどに関して、多くのページを使い詳細な考察を行っている。それらは、この方面に興味がある方にはぜひとも熟読して欲しいような内容だと思える。

 残念なことに、現代において、琵琶法師というものは消え去ってしまった民俗のひとつだ。それでも、中国地方西部から九州一円にかけては、琵琶演奏が民間宗教儀式と結びついていたこともあり、近代まで琵琶法師が存在していたようである。1996年に亡くなった山鹿良之という方は、最後の琵琶法師と呼ばれていた。

 このような民俗的なものは、放っておけばどんどん忘れ去られてしまうだろう。我が国にこのような文化があったことを、本書のように誰でも読みやすいかたちで残した意義は大きいのではないかと思う。同じ岩波新書の「瞽女うた」(ジェラルド・グローマー)と併せて読みたい。

☆☆☆☆

※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。
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