文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

ビジネスマンに薦めたい3冊

2016-12-10 11:35:18 | 書評:ビジネス
よく雑誌などに、「ビジネスマンが読んでおきたい本ベスト10」といったような特集が組まれることがある。私はあれが嫌いだ。そもそも忙しい一般的なビジネスマンが、そう簡単に10冊も本を読めるわけはない。また本はたくさん読めばいいというものでもない。受験生時代に、身の回りにいなかっただろうか。次から次に参考書を買い替えて、本人は勉強しているつもりでも、なんにも身についていないという人が。本読みの私がいうのも変な気がするが、本当に何かを身に着けたいと思ったら、優れた本を何度も繰り返した方がずっと身につくのである。理想は、優れた本を繰り返し読んで、自分の考え方の幹を作り上げたうえで、枝葉の材料として多読するということであろうか。

 といっても、あの手の特集にありがちなように古典など奨励するつもりはまったくない。古典は、合う人には合うのだろうが、合わない人には徹底的に合わないものだ。いくら良いこと(らしきもの)が書いてあっても、数ページ読んで寝落ちしてしまっては意味がない。また、こまかな枝葉的なことが書いてあるものは、それこそ必要な部分だけを拾い読みすればいいのだ。ここでは、ビジネスマンの基本的な考え方を確立していくうえで、ぜひ読んでおきたい本を3冊に絞って紹介しよう。


「論理の方法 社会科学のためのモデル」(小室直樹:東洋経済新報社)
論理の方法―社会科学のためのモデル
クリエーター情報なし
東洋経済新報社


 本書は、2010年に亡くなられた故小室直樹氏により書かれたものである。その副題の通り、社会科学で使われる論理は、モデルを使って展開されたものだということを、経済学、宗教学、政治学、歴史学などを例にとり解説したものである。モデルとは、ある現象をうまく説明したいときに構築するもので、本質的なものだけを抽出して、あまり影響のないようなものはとりあえず省いて考えるといったようなものである。だから似たようなことを説明しようとしても、目的によってモデルは異なってくるし、適用できる範囲というものも存在する。

 ところがこのあたりのことを、案外社会科学系の人は分かっていないのではないのではないかと感じることがある。例えば経済学者やエコノミストたちだ。なぜ人によってあれだけ言うことが違うのか。それはそれぞれが信奉する特定のモデルを絶対化し、それでなんでも説明できると勘違いしているからだろうと思う。

 一例をあげよう。マクロ経済学の初歩では、国民所得Yは、消費関数C(Y)と投資Iによって、Y=C(Y)+I となると説明されている。通常Iは定数とされるが、これは、有効需要の法則などを説明するためのひとつのモデルである。消費が少ないときにも企業が同じように投資をすると考えるのだとしたら、それはビジネスというものをあまりに分かっていない。しかし、投資は消費によって変化するというと、投資は定数でしょうと言う者がいたのも事実である。

 本書には、社会科学のいろいろな場面でモデルによる論理構築が行われていることが示されている。これらは、ビジネスの場においても応用範囲が広いものと思われる。


「まぐれ 投資家はなぜ運を実力と勘違いするのか」(ナシーム・ニコラス・タレブ、(訳)望月衛:ダイヤモンド社)
まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか
クリエーター情報なし
ダイヤモンド社


 「ブラックスワン」で我が国でも有名なタレブだが、これはそれに先立って書かれたものである。本書に書かれていることは副題の通り。成功の多くは、結局は確率の問題に過ぎないということである。

 この本は、著者がトレーダーだったこともあり、主としてトレーダーを例にして書かれているが、その内容はビジネスの多くに当てはまるだろう。皆さんはいわゆる「ビジネス本」を読んで違和感を覚えたことはないだろうか。ビジネス本には一見良さそうなことがたくさん書かれている。書かれている通りにやれば、誰でもすぐに大金持ちになれそうだ。そんな本を読んで「そんなわけあるかい!」と、突っ込んだあなたの感覚は正しい。

 たとえそのビジネス本を書いた著者がどんなに成功していたにしても、それは「まぐれ」に過ぎないかもしれないという目で見ていけば、ほとんどの「ビジネス本」が自慢話のオンパレードということに気が付くだろう。読むべき本と、読まなくても良い本の区別も次第についてくるのではないか。要はビジネス本に書かれてあることをうのみにしないで、それが「まぐれ」ではなかったかどうかを割り引いて、自分の頭で考えていくことが必要だということなのだと思う。


「いかにして問題をとくか」(G.ポリア、(訳)柿内賢信;丸善出版)
いかにして問題をとくか
クリエーター情報なし
丸善


 これは、日本語訳の初版が発行されたのが1954年とかなり古いが、今でも発売されている古典的な名著である。アマゾンの本書のページよれば、2011年にNHKの「クローズアップ現代」で、ビジネスに応用できる数学本として取り上げられたとのことである。基本的には数学書なのだが、考え方自体は、ビジネスの場面でも問題解決に応用できると思う。ルーチン的な問題なら、これまでと同じ方法が使えるが、新しく出てきた問題だとそういうわけにはいかない。本書に書かれている方法論を身に着ければ、そんな場合でも、どうやって手をつけたらいいかのヒントが得られるのではないだろうか。

 以上、ビジネスマンの考え方の幹を作るのに有用だと思える本を3冊ほど紹介してきた。もちろん一度読んだだけで分かったつもりになってはいけない。何度も繰り返し読んで、考えかたを自家薬籠中の物とし、機会があれば、実際の場面で応用してみるという実践を積み重ねていくことが必要なのは言うまでもないことだろう。

※本記事は、「シミルボン」に掲載したものです。

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