文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
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書評:地理 2016年12月号

2016-12-16 23:24:13 | 書評:その他
地理 2016年 12 月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
古今書院


 最近すっかり地理づいている私だが、「地理」2016年12月号の特集は、「地域の魅力度アップ」である。この特集は、6月に行われた「人文地理学会特別例会のシンポジウム」の報告でもあるようだ。

 ところで、私も毎回視ているのだが、テレビで「秘密のケンミンSHOW」という番組がある。番組の中で県別の魅力度ランキングというのがよく取り上げられる。これは、「ブランド総合研究所」というところが発表しているものだが、最下位が定位置となっているのは茨城県。最下位になった回数は、8回行われた調査のうちのなんと7回なのである。

 「住みやすいのになぜ最下位なのか?」という、住んでいる人たちとっての素朴な疑問から発して、「地域の魅力とな何か」ということを掘り下げてみたのがこの特集というわけだ。テレビ番組では、面白おかしく放映されているのだが、さすがにこちらは専門誌。真面目にこの魅力度ランキングについて調査・分析し、地方の大学によるその地域の魅力度アップのための取り組みの紹介までを行っている。

 まず「魅力度調査」とはなんだろう。実際には、その他の色々なことも調べられてはいるのだが、これは、アンケートの中の「以下の自治体について、どの程度魅力に感じますか?」というたった一つの設問に対する結果にしか過ぎないのである。5つの選択肢の中から回答させて、その回答内容に点数を割り当てただけのものらしい。

 だから色々な指標を細かく分析した結果というものではなく、非常に大雑把で、感覚的、主観的なものなのである。これを「観光意欲度」「居住意欲度」を説明変数として重回帰分析にかけると、「魅力度」の多くは、前者によって説明できるという。つまり「魅力度」というのは、住む場所としての魅力ではなく、観光地としての魅力を表しているのである。

 通常「地域の魅力」というのは、住みやすさというものがかなり大きな比重を占めるのではないだろうか。要するに、本誌でも言っているように「地域の魅力度」と「地域の魅力」というのはまったく異なるものなのである。だから我々も、何かの調査結果を目にした場合には、その結果だけを鵜呑みにするのではなく、どのような方法で調査が行われたのか、使われている言葉はどういう意味で使われているのかなどを確認しながら見ていく必要があるだろう。
 
 ところで、本特集で紹介されている大学の取り組みは、本家本元?の茨城大学の他、岐阜大学、和歌山大学、愛媛大学のものである。それぞれが、地域の魅力を上げるために、地域と連携して、特色のあると取り組みを行っておりなかなか興味深い。また、そんなところまで「地理」の分野なのかと、その幅広さにも驚く。

 この他、「常総市大規模水害の教訓」、「ジオパークで郷土愛を」など読み応えのある記事が多い。高校までで地理とはなんて退屈な科目なんだと思っていた人(私もその一人だが)は、一度この雑誌に目を通してみるといいだろう。地理というものは、単につまらないことを沢山覚えなければならない学問ではなく、もっと学際的で役に立つ学問だということが実感できるのではないだろうか。

☆☆☆☆

※本記事は、「風竜胆の書評」に掲載したものです。
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