カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ! ? | |
クリエーター情報なし | |
集英社 |
・高城剛
正式名称「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」、通称「カジノを中心とする統合型リゾート(IR)整備推進法」、いわゆる「カジノ法」が、先般国会で可決・成立して施行されたことは記憶に新しい。
これまで報道されたものを見聞きする限り、「カジノ」と「IR」は同じようなものだと思っていた。ところが、本書のタイトルは「カジノ」と「IR」を二律背反するようなもののような感じで並べて、「日本の未来を決めるのはどっちだ!?」と煽っている。おまけに、「はじめに」の部分で次のように明言しているではないか。
<カジノとIR、それは似て非なるものであり、このふたつにおける成り立ちや目的の違いをはっきりと認識していなければ、日本での成功の目はないであろう。>(p.10)
果たして、「カジノ」と「IR」は、別物なのだろうか?本書を読んでみると、完全に別物という訳でもなく、IRの中心となるのはやはりカジノのようだ。しかし、「カジノ」を単体で設置すると、どうしても「博打場」といったダーティな雰囲気がつきまとう。だが、これを「IR」にすれば、「カジノ」は数々のアミューズメント施設の中のひとつとなるため、ファミリーで滞在して楽しめる場所として、まったくイメージの異なるものになるのである。そして本書では、世界の潮流は、この「IR」であり、我が国もこれを目指していくべきだという。
ところで世間では、「カジノ法」に対する風当たりがかなりきついようだ。しかし考えてみると良い。我が国には既に「競輪」、「競馬」といった公営ギャンブルが存在している。また実質的なギャンブルである「パチンコ」の類に嵌っている人も多いではないか。
例えば職場の同僚が1日で小遣いをパチンコで使ってしまったと言っているのを耳にしたり、おじさんたちが乗り物の中で、一生懸命スポーツ新聞や予想紙などをチェックしているのを見かけたというようなことはないだろうか。
この本によれば、日本人の20人に一人が「ギャンブル依存症」だそうだ。パチンコ市場などは20兆円もあり、日本は既に「ギャンブル大国」なのである。こういったことには目をつむって、カジノだけを攻撃対象にするというのは、いかにも日本人特有のホンネとタテマエの二面性を見るようだ。
本書は、このIRやカジノについて、シンガポール、マカオ、マニラ、欧州、アメリカの実情を紹介して、我が国が目指すべきはシンガポール型であると主張している。シンガポール型の基本コンセプトは「外国人による外国人のためのIR施設」だそうだ。要するに外国資本で、IR施設をつくって、基本的には外国の富裕層に金を落としていってもらうということである。だから、自国民がカジノに入るには様々な規制があるらしい。我が国にIRを作る場合にも、いかに外国から富裕層を呼び寄せるかということが一番の課題だろう。
<アジア各国は、シンガポールのポジションを虎視眈々と狙っている。このタイミングに大きく後れを取れば、日本はIR大国となり得る可能性をみすみす逃すことになるだろう。>(pp.217-218)
そして、IR大国となるために必要なのは、そのための戦略である。これまでのような、あちらこちらからの意見を調整するような調整型の行政では、IR大国となることなど夢の夢だと思うのだが。
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※本記事は、「風竜胆の書評」に掲載したものです。