したたかな寄生 脳と体を乗っ取る恐ろしくも美しい生き様 (幻冬舎新書) | |
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幻冬舎 |
・成田聡子
皆さん寄生というと頭の中に浮かぶのは、あのうにうにとした気持ちの悪い寄生虫ではないだろうか。東京目黒にある寄生虫会館に行けば、その手のものの標本をいやというほど目にすることができる。
しかし、寄生するのはいわゆる寄生虫ばかりではない。その他の動物だって、植物だって立派に?寄生しているのである。
本書には、そんないろいろな寄生の例が示されている。ところで、「寄生」に対して「共生」という言葉がよく使われるが、生物学的には、「寄生」とは、片方のみが利益を得て、片方が害を被る「共生」の一形態であるという。そしてそんな「寄生」には、寄生する側が宿主を操るという不思議な現象がみられるのだ。
例えば、カマキリをつぶした時によく見られるハリガネムシ。大きな腹をしたカマキリにはたいてい入っており、結構大きくて、うにうにしているので気持ち悪いことこの上ない。本書によると、このハリガネムシ、カマキリだけでなくコオロギやカマドウマにも入っているらしい。
カマドウマといっても最近は見たことのない人も多いだろうが、昔の土間のある家などにはよくいたものだ。翅のないコオロギのような形をしているが、苦手な人も多いようである。
ハリガネムシが面白いのは、自分たちが繁殖できるように宿主を操るところである。ハリガネムシというのは、水中でのみ交尾や繁殖ができる。だから宿主を操って、水の中に飛び込ませるというのだ。この現象だけを見ると、ハリガネムシとはとんでもない奴だというように思えるが、実は、水の中に飛び込んだ虫は渓流魚たちの餌となり、生態系が維持されているというのだから、自然の仕組みというのはなんとも複雑で面白い。
ブードゥ・ワスプという寄生バチも紹介されている。このハチは、シャクガの幼虫に卵を産み付ける。イモムシの胎内で育ったハチは、やがてイモムシの体を突き破って出てきて、その近くで蛹になるが、面白いのはここからである。この時点ではイモムシはまだ生きており、ハチが成虫になるまで、蛹を守るような行動を見せるという。
この他、寄生に関する不思議さ、面白さが満載である。本書を一読すれば、自然というものはよくできているものだということを実感できるものと思う
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※初出は、「風竜胆の書評」です。