![]() | 奇跡は自分で起こせ! 新潟の山の麓の高級寿司店にお客が殺到する理由 |
クリエーター情報なし | |
旭屋出版 |
・佐藤正幸
本書は、新潟県の南魚沼市で寿司屋を営む、佐藤さんのこれまでの取り組みを纏めたものだ。龍寿しというのは、本書によれば、海からも離れた、交通の便もそれほどよくない山の中の寿司屋らしい。念のためにネットで地図を確認すると、確かにそんな感じだ。
新潟県は昔大糸線経由で北陸旅行をした際に糸魚川を通過したことはあるくらいで、私にとっては未知の土地である。今住んでいるところからも遠いので、さすがにこちらの方まで「龍寿し」の情報は入ってこないのだが、このような場所で繁盛しているというのは、きっと知る人ぞ知る名店なのだろう。
もっとも龍寿しの経営がずっと順調だったわけではない。一時は、年収が100万円を切ったこともあるという。しかしそれでも佐藤さんは寿司屋を繁盛させるために工夫を重ねた。佐藤さんの工夫もさることながら、龍寿しの成功には、次のことも、追い風になったと思われる。
1つは、業態が高級寿司屋だったということだ。日本人には寿司(特に回らない方)とは、どちらかといえば「ハレの日」の食べ物だというコンセンサスができているように思える。つまりは、ある程度の値段がして当然だと思われているのである。要するに客単価が高いのだ。本書によると客単価は8,000円だということだ。
売上=客単価×回転率である。これが、ラーメン店のように客単価が安くて(さすがに、客単価8,000円のラーメン屋というのはないだろう)、回転率で稼いでいるような業態だったら、果たして同じような結果になるだろうか。
そして田舎だと、回転率を上げるにも限度があるだろう。だから客単価の高い商品で勝負するしかないのだ。
もう一つは、モータリゼーションの進展である。地方は鉄道もバス路線もどんどん廃止されている。田舎では車がないと生活できないという現状があるのだ。しかしこれは、逆に駐車スペースさえあれば、割と遠くからでも客が来ることができるのである。だから最近はテレビなどで、辺鄙なところある繁盛店が話題になったりするのだろう。
教訓となるのは、SEOなどのネット対策はコストばかりかかりあまり効果がないということ。有名人のブログなら大したことは書いてなくても(本当にくだらないことしか書いてないので、私は
まず読まない)かなりのアクセスがあるのに、無名の人間がどんなにいいことを書いても、訪れる人はほとんどいないというのがネット社会の現実だ。ネットにアップすればそれだけで人が来るようになるわけはない。
佐藤さんの取り組みは、なかなか戦略的なのだが、最後に龍寿しの戦略をマーケティングの4Pの観点からまとめて終ろう。
1.Price(価格)
これは上に述べたように、かなり客単価の高い層を狙っている。本書に失敗例として載っているのだが、佐藤さんはいなり寿司にかなり熱心だった時もあったようだ。色々味を研究して自信をもって店に出したが、さっぱり売れなかったらしい。まあ、この客単価でいなり寿司を食べたい客は来店しないだろう。
2.Place(流通)
寿司屋なので商品は店で出すしかないが、ネタの仕入れ先には工夫がある。また、仕入れ先をパートナーと考えて信頼関係を築いている。
3.Product(製品)
これは店で出す寿司のことだが、この龍寿しには、いろいろ面白い寿しがある 太刀魚のポアレやナスの寿司など。イタリアンを食べても、そこからヒントを得て寿しに応用していく。写真も掲載されているが、これは機会があれば、ぜひ食べてみたいものだ。
4.Promotion(プロモーション)
龍寿しでは、DMの出し方を工夫したり、プレスリリースを活用したりしている。人に知ってもらわなくては、どんなにいいものを作っても売り上げにはつながらないのである。
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※初出は「本が好き!」です。