宮部みゆきさんの「ほのぼのお徒歩日記」で半七捕物帳の中でも名作と紹介されていたので、興味を持って読んでみた。この話も半七老人が、語り手に昔の話を語るという形式である。半七は江戸時代の岡っ引き。岡っ引きという存在は歴史的にはいろいろあるものの、要するに、探偵役。捕物帳は、江戸時代を舞台にした日本独特のミステリーだ。
津の国屋とは、裏伝馬町にある酒屋のことだ。元々は、3代前に、本家からのれん分けしてもらった店だが、本家の方はとうに潰れて、この店はますます繁盛してきた。今の主人は3代目だが、子がないということで、八王子の遠縁のものから、お安という娘を養女にした。ところが、実子が二人もできたもので、お安がじゃまになり、あらぬ言いがかりをつけて追い出してしまった。そして、お安は八王子に帰ってしばらくすると死んだそうだ。自殺らしい。
ところが津の国屋の実子であるお清が、お安の死んだ17で病により死んでしまう。そして妹のお雪もことし17になる。赤坂裏伝馬町に住む常磐津の師匠文字春は、堀の内の御祖師様への参詣の帰りに、八王子から津の国屋のお雪に逢いに来たという不思議な娘と出会う。そして、津の国屋の女房と番頭が心中事件を起こす。このように前半は怪談風味で進むが、最後は人が企んだ事件になっている。
私は、読んでみて、二つの点で不満があった。まず、この話に半七親分は出てくるといえば出てくるのだが、最後の方で少し出てくるという感じだ。その代わりに活躍するのが桐畑の常吉という若い目明し。半七は、その親父の幸右衛門に世話になったことがあるということから、彼に協力するという立ち位置なのだ。
二つ目は、それまでまったく登場していない人物が、事件の解決時点で出てくることだ。事件解決の時にそれまで出てこなかった人物を登場させるというのは、ミステリーとしてどうかと思う。
まあ、1話当たりがそう長くなく、気軽に読めるので、あまり読書時間を取れないときにはいいだろう。
☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。