本書は、タイトルの通り、食道楽で有名な北大路魯山人が、食べ物にとって重要な「出汁」の取り方についての蘊蓄を述べたものだ。書かれているのは、「かつおぶしだし」と「昆布だし」の二つ。
さすがは魯山人先生。かつおぶしの削り方にも蘊蓄がある。かつおぶしをけずるには切れ味のよい鉋(かんな)が必用らしい。
「なお、わたしの案ずるところでは、百の家庭のうち九十九までがいい鉋を持っていまい。料理を講義する人でも、持っていないのだから、一般家庭によい鉋を持っている家は一応ないと考えて差し支つかえない。」
とさすがは魯山人先生。持っている道具自慢を忘れない。
昆布だしというのは、どこにでもありそうなものだが、昔はあまり東京では一般的ではなかったらしい。ここで、魯山人先生、蘊蓄を披露する。
「さて昆布だしのことは、東京では一流の料理屋以外はあまり知らないようだ。これは、東京には昆布を使うという習慣が昔からなかったからだろう。(中略)昆布をだしに使う方法は、古来京都で考えられた。周知のごとく、京都は千年も続いた都であったから、実際上の必要に迫られて、北海道で産出される昆布を、はるかな京都という山の中で、昆布だしを取るまでに発達させたのである。」
だし一つにも色々な蘊蓄があるものだと少し感心。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。