トリカブトといって連想するのは毒草ということだろう。ミステリーによく出てくる毒と言えば、東西の正横綱は、青酸カリとヒ素だろうと思う。前者は、現代ものによく出てくるが、後者は石見銀山ネズミ捕り(本当は石見銀山では算出されなかったそうだが)と言う名前で時代ものによく登場する。
そして、その次の張り出し横綱もしくは東の正大関とでもいうような位置づけがこのトリカブトである。トリカブトという言葉を聞いただけで、毒に関係がありそうだということが推測できるので、これは殺人事件が起こるのかと思っていたが、結局殺人事件とは関係がなかった。
主人公は、上倉星哉という高校生。アルバイトで、祖母の経営するトランクルームの管理をしている。そのトランクルームの客である西条聖子という年上のお姉さんにほのかな恋心を抱いている。
この作品には、亡霊というものが大きな役割を果たしている。亡霊というと、普通は幽霊のようなものを思い浮かべるのだが、ここでの亡霊とは、何かに対する強い感情のようなもの。だから本人の生死には関係がないし、複数表れることもある。なぜかこのトランクルームにしか現れないようだ。そして、亡霊が見えるには、「強い殺意」を持つことが条件のようだ。
聖子はアートフラワー教室でアシスタントをやっているが、最近亡霊が見えるようになった。いったい誰に対して殺意を抱いているのか。
タイトルにあるトリカブトの花言葉は最初「復讐」かと思われたが、実はもう一つの花言葉「騎士道」である。そして描かれるのは、不器用で肉親の縁の薄い二人の結びつきの物語。
ただ次の記述は疑問だ。アートフラワー教室の千園美先生は、聖子を養女にしたいというのだが、それに対して聖子が星哉に言ったセリフだ。
「話を進めるとなると、私の親の了解がいるみたいなの」(p275)
聖子は、28歳という設定だ。立派な成年である。成年というのは、自分の責任で色々できるということだ。結婚でも成年になると、両性の合意だけで、親の了解は不要だ。養子になるのに、実親の了解がいるのか、少し引っかかったので、色々調べてみた。しかし、実親の了解という要件は見当たらなかった。もし根拠があるのなら示して欲しいと思う。
ともあれ、亡霊というものを使って推理を進めていくというのは面白いと思う。
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