本書が「機巧のイヴ」シリーズのおそらく最終巻。いや最終巻とは書いてないが、あの終わり方をみれば、おそらくこれが最終巻になるのだろう。
舞台は、もう一つの日本。要するに異世界ものである。もっともここでは日本とは言わず日下国と呼ばれているが。 そして、ある程度日本史を知っているものなら、モデルになった事件が何なのかは検討がつくだろう。関東大震災、甘粕事件、満州国の建国、李香蘭など。
物語のヒロインは、イヴと呼ばれた機巧人形。この作品では、轟伊武として、女学校に通っている。伊武は馬離衝(バリツ)の師範である轟八十吉の養女として登場する。馬離衝というのは、シャーロックホームズが使った、あの架空の日本武術である。ところが大震災の混乱で、伊武の友人のナオミが、彼女の思い人である林田といっしょに憲兵につれていかれ行方不明になる。
この作品では機巧人形にオートマタというルビがふられている。オートマタと言えば、週刊少年サンデーに連載されていた藤田和日郎さんの「からくりサーカス」に出てくるようなものをつい連想してしまうのだが、この作品では特別な能力を持っているわけではない。人と同じように、喜怒哀楽が表情に出るし、恋もするのである。伊武にしても馬離衝の黒帯を持っているはずだが、人間相手にあっさりやられるくらいの能力なのだ。
この表紙イラストを見て、もしかすると伊武が最後に、人ならざる力を見せるのかと思ったが、それもなかったのは残念。
この作品のテーマは二つあると思う。一つは、魂とはなんなのかということ。どうして機巧人形に喜怒哀楽があるのか。機巧人形に宿っているのは果たして魂なのか。
もう一つは軍部の暴走の恐ろしさ、いやらしさ。彼らが林田やナオミにした非人道的な行為は目を覆いたくなる。でもこのシリーズ、興味がわいたので、時間が許せば遡って読んでみようかな。
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