岡本綺堂の代表作、半七捕物帳。この話は半七の最初の事件である。まだ半七が神田の吉五郎という岡っ引きの下で働いていた頃の物語だ。これも、「わたし」が明治になってから、半七老人の話を聞くと言う形になっている。半七は、日本橋の木綿店の通い番頭の子として生まれた。十三の時に父に死に別れ、母は父のあとを継いでもとの店に奉公することを期待していたが、半七は道楽の味を覚えて家を飛び出し、吉五郎の子分となったらしい。
さて事件の方だが、日本橋の小間物屋菊村の娘・菊が、行方不明になった。菊村の主人は5年前に死に、今はその女房のお寅が女あるじだという。菊は一度帰ってきたがすぐまた居なくなってしまった。そしてお寅が殺害される。菊に殺されたという。本当に菊は親を殺害したのか。これを解決したのが半七というわけだ。
半七が注目したのが、庭の石灯籠の笠の上にある小さな爪先だけの足跡。ここから半七は事件の解決まで繋げるのだが、この一件が基で、半七は吉五郎の後を継ぐことになってしまう。つまり、この事件あっての半七ということだ。
小さな事実から推理して真相を炙り出す。まさにミステリーの原点といえよう。
☆☆☆☆
※初出は「風竜胆の書評」です。