本書は元祖入れ墨奉行の南町奉行・根岸肥前守が活躍するシリーズのひとつである。
タイトルにある佃島は、江戸時代に徳川家康が摂津国の佃村から、漁師を呼び寄せ、墨田川河口の石川島南側を埋め立てて住まわせたことから始まる。海産物を醤油などで煮詰めた佃煮の語源となった場所である。
この佃島から対岸の船松河岸に向かう渡し舟に屋形船がぶつかり、渡し舟は転覆してしまう。屋形船は、渡し舟の人間を救助しようとせず逃げ去ってしまった。この事件の被害者は全部で4人。しかも、そのうち3人には、明らかに胸や腹への刺し傷があった。これが今回の事件の幕開けになる。
犠牲者のうち二人の身元は直ぐわかった。渡し舟の船頭の仙太、京橋近くの海産物問屋<東海屋>の手代音松。残りの二人の身元はなかなか分からなかった。そして、音松の肩口にはお店者には珍しい彫り物があった。
謎は二つ。身元がなかなか分からなかった二人の犠牲者は誰か。そして、事件の背景は。
この本筋の事件に、加藤清正のふんどしの話、銀杏の葉から作った胃腸薬の話などを絡めて、面白いミステリーに仕上げている。
それにしてもお奉行様は元気だ。何しろ「まだまだ十里くらいだったら小走りに駆け通すくらいの体力はある」(p24) 十里と言うのは大体40kmくらいだ。この距離を駆け通せるというのだからすごい。なにしろ根岸が南町奉行になったのが、還暦を過ぎてから。つまり、還暦過ぎても40kmを駆け通せるだけの体力はあるのである。だから力丸姐さんのような若くて綺麗な彼女がいるんだろうと思う。
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