半七捕物帳には、前半が怪談仕立てになっており、後半その仕組みも含めて半七が解き明かすというものが収められているが、この話もそんな一つだ。
まず前半だが、この話の舞台は小石川と牛込のあいだを流れている江戸川。ここは御留川になっており、殺生は禁じられていた。御留川になっているということは、ここで猟や釣をしてはいけないということだ。そしてこの川には紫色の鯉が泳いでいた。
紫色の鯉といっても、別に普通の鯉より美味しいと言う訳ではないが、本来採ってはいけない鯉を食べたがる人間がいる。要するに味はともかく、希少なものに価値を見出すのである。
牛込無量寺門前の小さい草履屋の亭主藤吉を訪ねて夜中に女が訪ねてきた。この藤吉は御留川で夜釣りをしてむらさき鯉を釣っていた。あいにく藤吉は留守で、対応したのは女房のお徳。この女の言う事には、この店にやってきたのは、夢で、むらさきの着物を被きて、冠をかぶった上品な人を見て、起きてみたら枕元に紫がかった金色の鱗のようなものが落ちていたからだ。そしてむらさき鯉を持って行ってしまった。
その後藤吉が帰ってきたが、釣り仲間の紙屋の亭主為次郎が川に引き込まれたという。ところが、この為次郎は生きていて、藤吉は死骸になって江戸川に浮いていた。そして為次郎は御留川で夜釣りをしたことはないという。
この怪談じみた事件を解き明かすのが半七親分というわけだ。もちろん終わってみれば不思議な事など何もなかったのである。半七親分の活躍ぶりを楽しみたい人にはいいだろう。
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