出不精のくせに、いつも元気な平次だが、この話では珍しく風邪で寝込んでいる。なんでも寝込むのは、六つのときに麻疹以来らしい。
物語は子分の八五郎が、平次を見舞いに来たときから始まる。このとき八五郎が見舞いに持ってきたのが、上菓子と灘の生一本の剣菱5升。八五郎がいつになく金回りがいいので、怪訝に思った平次が問いただすと、なんでも叔母が天霊様という新興宗教の総本山にお参りの旅に出るが、二度と江戸に帰れるかどうかわからないというので、片身として5両をくれたというのだ。
日本は1神教などではなく、八百万の神様がいらっしゃる。民衆は、現金なもので、この神様は利益があるという噂が立つと、それこそ猫も杓子もそちらへなびく。そして潮が引くように廃れていく。これがいわゆる「はやり神」というやつである。中には、カルト教団のようなものもあったことは想像に難くない。この天霊様というのもはやり神のひとつだが、最近信者が行方不明になっているという。裏では恐ろしい犯罪が行われている臭いがする。
平次は石原の利助の娘で女御用聞と言われるお品に協力を仰ぐが、こんどはそのお品が行方不明になる。果たして、平次は八五郎の叔母やお品を助け出すことができるのか。なお、この作品では平次が女装している。しかし、間違っても、ドラマで銭形平次を演じている役者の女装姿を思い浮かべないように。
この話からの教訓は、宗教にはご用心ということか。
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