これも「半七捕物帳」の中の話だが、半七が聞いた話で、直接関わったわけではない。半七捕物帳には、前半ホラー仕立てで、後半はミステリーとなり、何も不思議なことはなかったというようなものが多いのだが、この話は、不思議なことがあったか、なかったかは微妙なところだろう。
渋谷の長谷寺(ちょうこくじ、はせでらではない)に、京都の清水観音の出開帳があったときのこと。「開帳」というのは、寺院において、普段は秘仏として見れない逗子の扉を開いて、一般の人に拝ませることだ。出開帳というのは、本来の寺院のある場所とは別のところに出向いて開帳することである。そして開帳や祭礼には造り物が不可欠だった。
この出開帳で評判になった造り物は小銭でできた大兜。ただし、前立てや吹き返しには、本物の慶弔小判や二朱銀が使われていた。この小判5枚と二朱銀5枚が紛失するという事件が起こる。最初に述べたように、この事件は半七が直接関わったわけではないので、探偵役の岡っ引きは、兼松とその子分の勘太である。
小判や二朱銀を盗んだ犯人は、鬼の面をかぶっていたが、その面が汗でべっとり張り付いて、容易に取れなくなった。これは夜叉神のたたりでこのまま面が取れなくなるのではなかとうかと、すっかり恐怖にかられた犯人はなんとか金を返そうとする。
結局、兼松と勘太の働きで、事件は解決するのだが、鬼の面が取れなくなったのは、本当に夜叉神の祟りか。それとも単に犯人がものすごい汗っかきなのか?
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